DTPエキスパートカリキュラムの変遷とその背景

掲載日:2022年9月22日
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DTPエキスパート認証試験は、『DTPエキスパートカリキュラム』にて規定された範囲に基づいて出題されている。DTPエキスパート認証制度創設時に第1版を発行して以来、13回の改訂を重ねており、最新版は2020年の第14版である。

カリキュラム発行の経緯

DTPが導入される以前の印刷物制作は、デザイン・写植版下・製版・刷版・印刷・製本加工と各工程が縦割りで、独立していた。従って工程ごとの専門家は多いが、総合的な知識を保有している者は少なかった。

つまり、文字部門の従事者は製版や印刷を知らず、印刷部門の従事者は文字や画像について詳しくないことがほとんどであった。

また、1990年代前半はPC自体が普及しておらず、DTPを構築・運営するためのコンピューターの知識がない人がほとんどだった。

国内でDTPが紹介されたころ、導入の最大のネックとなったのは、実は総合的な印刷知識を持つ人材が少ないことだった。そのため、導入の是非を判断することもできず、実際に運営することも難しいとされたのである。

JAGATは、DTPによる印刷物制作の普及には文字・画像・印刷、およびコンピューター知識を保有する人材育成が最重要と考えていた。そして、1993年に『DTPエキスパートになるためのカリキュラム』をまとめ、翌1994年に第一期DTPエキスパート認証試験を実施した。

初期のカリキュラムから現在までの変遷

1990年代の写真原稿はポジ入稿であり、製版スキャナーでCMYK分解する方法が一般的であった。また、ページデータはイメージセッターでフィルム出力し、PS版に焼き付けていた。このように、初期のカリキュラムには当時の製作工程が反映されている。また、コンピューター環境やDTPデータ関連の比率が大きく、全体の半分近い分量となっている。

二十数年を経て、印刷技術は大きく変化した。写真はデジタルデータ入稿となり、イメージセッターはCTP(プレートセッター)に置き換えられた。校正も大きく変化し、PDF校正やリモート校正・デジタル検版が普及した。また、印刷方式にデジタル印刷が加えられた。さらに、コンピューターやウェブ環境が日常的となり、セキュリティー・個人情報保護などの要素が増えたこと、印刷物を製作する目的はコミュニケーションであることなど、印刷技術と印刷ビジネスの進化が反映されている。

第2版カリキュラム 主要項目(1996.12)

[グラフィックアーツ]
プリプレス・印刷企画と編集・色・スキャニング・レタッチ・フィルム出力・印刷と刷版・後加工
[コンピューター環境]
ページネーションデータ・ハードウェア・OS・入出力・ネットワーク・画像処理・アプリケーション・システム設計

第14版カリキュラム 主要項目(2020.12)

[DTP]
印刷物・工程設計・DTP環境・契約・文字・画像・レイアウト・校正・PDF
[色]
光・色・カラーマネジメント
[印刷技術]
網点・プリプレス・プレス・ポストプレス・特殊印刷・デジタル印刷
[情報システム]
コンピューター・ソフトウェア・セキュリティー・個人情報保護・他
[コミュニケーション]
情報デザイン・グラフィックデザイン・マーケティングと印刷

2段階制となったDTPエキスパート

DTPエキスパート認証制度は、2020年3月より学科試験だけのDTPエキスパート、学科+実技試験のDTPエキスパート・マイスターという2種類・2段階制となった。

近年は営業・企画部門の受験者も増えており、学科試験だけのDTPエキスパートが創設された。DTPと印刷知識をバランスよく習得することができ、共通言語を理解することができる。

また、DTPエキスパート・マイスターは、デザインおよび印刷データ制作のエキスパートという人材像を想定している。ある程度の経験とデザイン技能が求められるため、何度でもトライできる2段階制となっている。

現在の印刷技術や印刷ビジネスに必要な知識・技能の習得、個々のスキルアップ、または人材育成の手段として、DTPエキスパートを活用してはいかがだろうか。

(資格制度事務局 千葉 弘幸)