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地域資源のストーリー化に求められる「聖地創生」の視点

聖地創生が注目されている。勿論、ここでいう聖地は宗教的意味ではない。近年、映画や小説など作品の舞台を訪ねるコンテンツツーリズムの一種として、アニメやマンガの舞台となった場所をファンが訪れる行為が聖地巡礼と呼ばれるようになり話題になった。コンテンツツーリズムが成立するような作品の舞台に選ばれるかは偶然に寄るところが大きかったが、ここから一歩進んで、作品を待つだけではなく、地域の元々持っている地域資源を武器にストーリー化やコンテンツ化し「聖地」を自ら作っていこうというのが聖地創生である。

聖地巡礼とは

聖地創生はコンテンツを作るところから考えていく手法であるが、まずはコンテンツが地域を活性化させた事例として聖地巡礼を元に考えてみたい。

作品の舞台になった場所を訪ねたいと思うのは自然な感情であり、作品のファンがモデルとなった場所を訪ねる行為は昔から行われていた。そんな自然発生的な行為が改めて注目を浴びるきっかけとなったのが、2008年のアニメ作品『らき☆すた』である。作中に登場した鷲宮神社にはファンが押し寄せた。2007年の正月三が日の参拝者数が13万人だったのに対し、2008年は2.3倍の30万人に増加。その後も2009年には42万人、2010年は45万人と増え続け、2011年に47万人を記録。以降は2017年までこの数字を維持している。一時の流行ではなく持続的な人気を得たと言えるだろう。

聖地創生の成功事例

では、実際に聖地となった場所ではどのように作品が展開されていくのだろうか? よくあるのが、作品に登場する場所をまとめた観光MAPの配布。地域限定グッズの販売などである。

鷲宮神社の場合も、イベント開催やポストカードやストラップなど鷲宮限定のグッズの販売などをするようになった。一時の流行では終わらせず、作品を地域の活力へと繋げるためには地域の協力が不可欠である。

聖地巡礼が地域活性に繋がった成功事例では、地域の積極的な働きかけが目立っている。2011年放送の『花咲くいろは』もその一つである。富山県南砺市に本社を置く制作会社のP.A.WORKSはアニメによる地域活性に意欲的な会社であり、放送前から舞台となる金沢の湯涌温泉とは協力関係にあった。そんな中、湯涌温泉から提案したのが作中最終話で登場する「ぼんぼり祭り」を実際に行うことである。これが実現し、「ぼんぼり祭り」は以降毎年開催されるようになる。今年の令和元年7月が第九回の開催となり、地域のお祭りとして根付き始めている。

印刷会社の関わり方

コンテンツツーリズムは作品の力で人を動かし、地域経済を刺激するものとして大きな注目を集めている。聖地創生の視点で考えた場合も、地域の持っている魅力をそこを舞台にした作品と掛け合わせてアピールすることは有効である。その際、地域に根差した印刷会社には様々な部分で強みを発揮できる。

例えば、観光MAPの配布はコンテンツツーリズムの定番だが、数度の配布で終わってしまうことが多い。後はWEB上でPDFを公開しファンが各自に印刷する形になりがちである。だが、地域の印刷会社であれば制作会社の知らない地域資源と橋渡しをしたり、印刷物を適宜補充するなどして継続的に展開することも可能となる。

こういった作品を呼び込むためには、ただ待つだけではなくフィルムコミッションのように積極的に誘致するという方法もある。そのためには、自分の地域の魅力を改めて問い直し、その地域のストーリーを分かりやすく伝えていく必要がある。また、地域の魅力を発見することができれば、作品にするという以外にも様々な手法が考えられる。

page2020では、そういった聖地創生の具体的な方法や事例、考え方のヒントなどを考えていく。今回は特に 富山県南砺市におけるアニメを活用のまちづくり事例などから、地域資源の再発見とストーリー化による地域活性化について議論する。

(JAGAT 研究調査部 松永寛和)

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アニメと地域活性に関する研究会を開催

6月11日、研究会セミナー「アニメを活かした地域活性化と事業展開」を開催し、好評を博した。また、セミナーの最後に発表された富山県南砺市の事例は現地での取材を含め『JAGAT info』9月号に掲載予定である。

コンテンツツーリズムの有力な一手段として

アニメの舞台となった場所を訪れる「聖地巡礼」。元々作品の舞台を訪れる行為は映画や文学などで昔から見られたが、アニメの舞台モデルを訪れる行為が近年注目され、政府の進めるインバウンド戦略の有力な一つとしても期待されている。

2018年2月に内閣府より発表された海外の日本通に対する調査では、欧州の75%、アジアの57%、北米の23%の人が、日本に興味を持ったきっかけとしてアニメ・マンガ・ゲームを上げている。また、日本アニメの海外市場は2014年から2017年にかけて約3倍へと急成長した。

アニメを題材とした地域の観光資源化は今後、成長分野の一つとなりうる可能性を秘めている。しかし、大きな期待とは裏腹に聖地巡礼をどのようにビジネスとして成立させ、地域の持続的な発展に役立てるかというノウハウの蓄積は進んでいない。そこで本研究会では、印刷会社や研究者、アニメの制作会社といった分野の専門家を招き、様々な視点から聖地巡礼ビジネスを考える研究会を企画した。

地域活性化に貢献するアニメの力

まず最初にJAGATの主幹研究員藤井建人から、印刷会社による地域活性化の動向について発表を行った。印刷会社では地域活性事業に取り組む企業が増えている。JAGATの調査では61.9%が既に取り組んでおり、残り39.1%の中でも必要性を感じないと答えた企業は15.3%に留まった。地域に根ざした印刷会社では周辺地域の活力を上げていくことが結果的に自社の利益に繋がると捉えることが多く、地域活性事業で関係性を深め、地域に新たな価値を創造する構図も生まれている。コンテンツツーリズムは関連グッズや観光MAP、ポスターなど印刷物に限らず地域に派生的な経済を多くもたらすと見られ、印刷会社の持続的な仕事になる部分もあるだろうと注目している。

アニメ関連産業に印刷会社が新規参入した事例について、近年アニメコラボカフェの事業を始めたサイバーネット社の会長、高原一博氏と村上直樹氏が講演した。コラボカフェとはアニメやゲームをテーマとした料理やサービス、内装などを提供し、数か月ごとにテーマ作品を切り替えていくコアファン向けのビジネスモデルである。サイバーネットでは、ザイコンのデジタル印刷機を保有しており、内装やグッズの制作コストを他のコラボカフェ事業者より安く、機動的に用意できる。こういった部分を強みとし、海外からもファンが訪れる一種の聖地を作りだした。

成長するアニメコンテンツにどう関わるか

デジタルハリウッド大学の荻野健一氏は地域から聖地を生み出す聖地創生という考え方を提唱している。日本のアニメ会社はほとんどが東京に集中しており、舞台に選ばれた地域が後から作品を知って作品のファンを受け入れるという流れが多い。聖地巡礼の成功には地域の協力が不可欠であるため、熱意のある地域と作品との高い偶然性が必要とされる。荻野氏は、今後は作品を待つだけではなく、地域の物語を発掘し、それを利用しやすい形でアニメ制作会社に提示することが必要だと考えている。地域が主体的に作品に関わることで、作品と一緒に地域の魅力も知ってもらう仕組みを作り、聖地巡礼を地方創生に結びつける方法を提示した。

ピーエーワークスは富山県に本社を置き、地域と関係の深いアニメ会社としては第一人者的な企業である。そんなピーエーワークスの役員が立ち上げ、現在のピーエーワークスの地域活性事業を担っているのが、一般社団法人地域発新力研究支援センター(PARUS)である。現代表は前職が印刷会社勤務だった佐古田宗幸氏であり、PARUSがアニメのコンテンツ力を地域の活力に繋げるために、どのような活動を行ってきたか講演を行った。聖地巡礼を地域振興に活用した最も先進的な例の一つと言える。詳しくは『JAGAT info』9月号で4ページに渡って掲載する。

おわりに

研究会当日は、コンテンツ事業に力を入れている大企業から地域活性に興味を持つ全国の中小印刷会社など、業界内外から40人以上が参加し盛会となった。アニメ・マンガ・ゲームといったコンテンツ産業は成長を続けており、波及効果も大きい。今後もクールジャパンやコンテンツツーリズムといった領域には引き続き注目し、研究会等でも取り上げていく予定である。

(JAGAT研究調査部 松永寛和)

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