印刷博物館で開催された「木目シートのできるまで 2026」展は、建装材の一種である「木目シート」に着目し、製品の特徴をはじめ企画・デザイン・製造の各工程などを解説する企画展示であった。その概要を紹介する。
本展は、印刷博物館P&Pギャラリーで4月4日から6月14日まで開催された。
TOPPANのウェブサイトによれば、同社は1958年より建材用化粧紙の製版・印刷を開始している。現在は環境デザイン事業部が外装材や内装材の開発を担当しており、住宅やオフィスビルなどでの採用事例が多数あるという。
本展では、同事業部が開発した内装用化粧シート「101 TOPPANエコシート」を例に、建装材が作られる過程をデザインと製造の両面から解説した。なお、印刷博物館では2006年に「木目シートのできるまで あなたの家のとびらのひみつ」展を開催しており、今回は20年ぶり2回目の開催となった。
展示会場は、基礎を説明する「I 木目シートとは」、企画から製造までの過程を追う「II 木目シートのできるまで」、実装例を示す「III いろんなところに木目シートが!」の三部構成で、それぞれ解説パネルや資料が所狭しに展示されていた。
また、「101 TOPPANエコシート」の製品見本が会場中央に展示された。
以下では展示内容をもとに、木目シートの特徴や、開発・製造過程などを見ていきたい。
製品の特徴
木目シートは「化粧シート」の一種である。化粧シートとは、紙あるいはプラスチック製の薄いシートに木目・石目・抽象柄などを印刷した製品で、床・壁・家具といった建材の表面の装飾と保護の役割を担う。日本では1950年代以降、高度経済成長に伴い近代的な住宅の大量供給が求められたことから、木材や石材よりも安価で施工が容易な化粧シートの需要が拡大したとされる。現在では、住宅・店舗・オフィスなどさまざまな場所で使用されている。
化粧シートのうち、天然木の断面を表現した製品を木目シートと呼ぶ。本展では、木目シートの主な特徴として品質の安定性・機能性・施工性・メンテナンス性・安定供給の5点を挙げており、パネル展示で解説した。
木目シートの構造は「101 TOPPANエコシート」を例にとると、白く着色されたフィルムを基材として、その上にグラビア印刷を施し、さらに特殊硬質クリア層(ラミネート層)と特殊コーティング層を重ねたものである。グラビア印刷によって木目の階調をリアルに表現し、ラミネートおよびコーティングによって、傷がつきにくく汚れが落ちやすいといった性質が付与されている。厚さは約0.2mmと薄くて柔軟性もあるため、加工がしやすい点も特徴である。なお、製品の基本サイズは幅960mm・長さ250mで、ロール状に巻いた状態で販売されている。
企画から製造まで
環境デザイン事業部は、木目シートをはじめとする建装材の企画から製造までを一貫して行い、主に建材メーカーや建装材関連企業に供給している。以下では、製品が生み出される過程をたどってみよう。
市場調査に基づく企画立案
顧客およびエンドユーザーが求める製品をデザインするために、インテリアデザインの動向に関する市場調査を行っている。例えば世界的なトレンドについては、イタリアで毎年開催されている「ミラノサローネ(ミラノ国際家具見本市)」 1を視察。国内の動向については、市販されている建材デザインの傾向や出荷状況を調査するほか、ウェブを通じたアンケートや個別インタビューも行っている。これらの調査結果を分析し、生活者の暮らし方やニーズを捉えたうえでデザインコンセプトを策定し、さらにペルソナ 2を設定して具体的な使用シーンを想定しながら、色や柄の方向性を定めていく。

なお、これらの市場調査の結果は冊子にまとめ、顧客への提案ツールとして活用している。会場には、これまで発行してきた各種レポートの見本が展示されていた。
ライフスタイルに関する調査レポートの展示では、『C-Lab. Lifestyle Report 2025-2026』(発行:TOPPAN株式会社 生活・産業事業本部 環境デザイン事業部)の誌面を紹介。
柄のデザイン
企画立案後は、天然木の板を「原稿」として木目柄を作成する。同社の貯蔵庫には国内外から調達した数万点にのぼる木材が保管されており、その中からイメージに合った木目のものを選定する。そして、その表面を研磨・塗装し、さらに一定の面積になるよう接合したうえで、次のスキャン工程へと回される。

スキャンには、2m角の素材にも対応できる大型スキャナーを使用する。原稿(加工済みの木材)を搬送して、上部に固定されたセンサーで絵柄を読み取る仕組みであり、スキャン時にはライティングの調整が可能である。デザインイメージにふさわしい木目の表情が現れるように、光の強さや方向を変えながらテストスキャンを重ねて基本の柄を決めていく。

スキャンした画像は、パソコン上でグラビア印刷用の製版データへと加工される。木目シートは通常、特色3色刷りで印刷されるが、元の木材の色を再現するというよりも、デザインコンセプトに基づいた新たな色合いが設定される。また、インキの組み合わせを変えることで、同一の柄でも異なる印象を与えることができる。

画像の加工には以下の工程がある。
分版:画像データを特色3色に分解する。
エンドレス:グラビア印刷用のシリンダー(円筒形の刷版)で印刷する際、絵柄が途中で途切れず連続するよう処理を行う。
柄修正:天然木特有の傷や不自然な曲がりなどを補正する。
尺角(テスト版)の作成と校正
印刷に先立ち、インキの色味を調整するための校正刷りを行う。「尺角」と呼ばれるA3サイズ程度のテスト版を作成し、グラビア印刷専用の平台校正機を用いて試し刷りを行う。それをベースに柄の出方やインキの色味などを調整する。
本版シリンダー製版
製品印刷用の版は「本版」と呼ばれる。本版は、銅メッキされたシリンダーの表面に微細な「セル(凹み)」を彫刻し、その上に彫刻面を保護するためのクロムメッキを施して作成される。
本版印刷
色数分のシリンダーを用意して印刷機にセットし、化粧シート用の基材に重ね刷りを行う。セルの大きさや深さによって印刷の濃淡が表現される。
加工
印刷後は、表面に強度と耐久性を付与するため、ラミネート加工を行う。また、天然木のような質感を与えるため、木目柄に沿って凹凸を刻んだ加工用シリンダーを用いてエンボス加工を同時に施す。
加工に当たっては、専用機に印刷済みシートとラミネートシートをセットし、これらを加熱圧着のうえ、加工用シリンダーに通して型押しを行う。加工後のシートはハリとツヤが出て、木の導管部分がわずかに盛り上がった仕上がりとなる。
こうして完成した木目シートは、建具や床などの表面材として用いられ、住宅やオフィスの空間を彩っている。会場ではその例として、木目調の扉の見本が展示されていた。
本展は、生活に身近な場所でも印刷技術が活用されていることを広く伝える機会となっている。商業印刷や出版印刷に携わる人々にとっても、新たな事業を着想するヒントになり得るのではないだろうか。
木目シートのできるまで 2026
会期:2026年4月4日(土)~6月14日(日)
会場:印刷博物館 P&Pギャラリー
主催 : TOPPANホールディングス株式会社 印刷博物館
(JAGAT 石島 暁子)
※会員誌『JAGAT info』 2026年5月号より一部改稿
















