紙コップの製作工程について教えてください。

掲載日:2014年8月14日

※本記事の内容は掲載当時のものです。

ナンデモQ&A:特殊印刷

Q:紙コップの製作工程について教えてください。

A:紙コップはコーヒー、ジュース、ヨーグルト、アイスクリームなど飲食物の容器として幅広く利用されています。紙コップは一般的には知られていない多くの手間をかけ製作されており、また衛生上の規制もあります。 
  紙コップの製作方法は画一的なものではありませんが、ここでは基本的な製作工程と材料規制について述べてみたいと思います。

 【プリプレス】
  デザインについては、約100を超える型のサンプルがあり、ユーザーにはどのタイプの紙コップを製造するかを選んでもらいます。選ばれた型に対してどのようにデザインをしていくかということから始まります。
  デザインレイアウトには色々な方法がありますが、紙コップを展開した形が基本になります。紙コップを展開すると扇の下半分がないような状態(以下ブランクという)になります。
  また、貼りあわせ部分やカールという口部を丸めている部分には、文字や絵柄を入れても成型すると隠れてしまうため、成型後の状態を考慮してレイアウトをしていきます。
  またデザインレイアウトをするには一般的にテンプレートと呼ばれる雛型を使用します。(テンプレートはブランクの両サイドの辺を延長していくと交差し、それが扇の中心になりますが、この中心に対して弧が入っています。弧は中心に近づくにしたがってだんだん小さくなってきます。普通の印刷物(チラシ等)をレイアウトするソフト上にある正方形の格子状のグリットに相当するものです) 
  コップに成型したときに、文字や絵柄が水平に見えるためには、扇の中心に対する弧に沿ってレイアウトをする必要があります。例えば単純にまっすぐなレイアウトをすると、成型したときに文字や絵柄の両サイドが跳ね上がって見えてしまいます。 
  また真円は、平面で真円を作りレイアウトしても、コップに成型したときに円が歪んで見えるため、成型したときにどのように見えるかという事を念頭においてレイアウトをしていきます。  デザイン作業にはMacintoshを使用します。まず、ブランクを打ち抜く為の刃の図面はCADを使って作成し、そのデータを利用しデザインテンプレートを作ってイラストレータに落とし込み、デザインをレイアウトをします。 
  色校正については、ベタ印刷の場合はカラーチップで指示を受ける場合が多いようです。通常はカラー出力機を用いて校正しますが、厳密に色調を確認する場合はグラビア印刷機本機で校正をすることもあります。校正が終わったデータは製版部門へ渡り、直接彫刻機で刷版するか又はレーザー露光して腐食するという方法で刷版します。

 【プレス】 
  専用のグラビア輪転機で印刷されます。他の印刷方式は紙コップの印刷は不向きです。その理由の一つはブランクの形状にあります。ブランクは上と下に弧ができます。他の方式だと面付けする際に無駄な部分が出てしまいますが、グラビア輪転機だとエンドレスで印刷できるため、面付けという側面からみると紙の無駄が少ないからです。 
  もう一つの理由は、紙コップ成型時にはブランクに熱をかけたり、高速で搬送するため、耐摩擦性が必要になってきます。こういう耐性にはグラビア印刷が一番適正があるのです。 
  紙の目は、コップに対して垂直になっていなければなりません。なぜならば、後述しますが、加工工程でコップの口元と下部をカーリングさせるときに不都合が生じるからです。製造ロットは一概にいえませんが、最低でも数万という単位で受注されます。 

 【ポストプレス】 
  耐水性をもたせるために、片側又は両側をポリエチレンラミネート加工します。ラミネート加工は、印刷前ラミ加工と印刷後ラミ加工があります。 
その後、胴の部分になるブランクを専用の形状カッターで打抜きます。 

  紙コップは、上記ブランクと丸い底紙といわれる2つの部品からできており、両者を合体させる工程を経て紙コップが出来上がります。 
  底紙は、ポリエチレンをラミネートされたロール状の原紙を底紙打抜機で外側の型で円形に打抜き、内側の型を突き出し絞込んで底紙を作ります。 
  この底紙をコップ状の金型の底に取り付けます。そしてブランクの端をバーナーであぶってポリエチレンフィルムを溶かし、底紙のついた金型にブランクを巻き付けて接着します。昔は糊を使って接着していましたが、今は殆ど内面または外面のポリエチレンラミを溶かして接着をしています。 
  次に胴貼といってブランクの下をバーナーであぶり折りこんで底紙とセットし接着させます。最後にカーリングといってコップの上部を型で外側に巻きこみ、完成です。 

 【材料】 
  紙コップ原紙は一般の紙とは違い、紙コップ専用で耐水性をもたせていたり、印刷適正が良くなるように、原紙の表面を滑らかにするなどの加工がなされています。 
 紙の厚さは原紙の坪量という単位面積あたりの重さであらわします。 
  また、コップ原紙の製造には食品衛生法を受けて食品・添加物等の規格基準(昭和34年12月厚生省告示第370号)の製造基準が適用され、又蛍光物質を使用することは厚生省食品衛生課長通達昭和46年5月8日環食第244号で規制されております。 
  紙コップには一般的に再生紙は利用されませんが、近年の環境問題から、再生紙でもその出所が分かっていれば使用できることもあります。出所が分からない一般の回収品は使用できません。 

  印刷に使用するインキは油性で、熱風をかけて蒸発乾燥させるタイプです。紙コップは食品や人間の口に直接触れるものですから、衛生上の規制が必要です。 
  この点について、食品衛生法には食品包装材料用印刷物を直接規制する条文はありません。そこで、昭和48年に厚生省の指導のもとに、印刷インキ工業連合会が「食品包装材料用印刷インキに関する自主規制」(ネガティブリスト規制)を作成しました。これは食品衛生法の趣旨に沿って、食品包装材料用印刷インキの適正化をはかり内容食品の衛生的安全性を保持することを目的としたものです。そのため、印刷インキの材料として使用される可能性のある物質から、使用してはならない物質を選定し、食品包装材料用印刷インキに配合することを禁止した規制です。
  現在はこの規制にしたがって紙コップは製造されており、この規制に従えば有害物質が入ることはありません。 

 取材協力 東罐興業㈱  
      東京都千代田区内幸町1-3-1 幸ビル 
      tel 03-3502-6054 fax 03-3502-6370 
      URL http://www.tokan.co.jp

      紙コップ製造図 
      URL http://www.tokan.co.jp/product/images/popup.gif  
 

 

(2003年5月5日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)