各社各様の戦略がある、しかし絶対に必要なのはスピード感

掲載日:2016年3月25日

1月29日(木)に名古屋で開催したJAGAT中部大会では、「印刷の未来を創る」ための新たなビジネス戦略についてディスカッションを行った。【JAGAT中部大会2016報告】

JAGAT中部大会におけるディスカッションは、JAGAT中部大会企画推進メンバーから大洞正和氏(大洞印刷(株))、長苗宏樹氏(長苗印刷(株))、松岡祐司氏((株)アサプリホールディングス)、そして森澤JAGAT副会長((株)モリサワ)をパネリストに迎え、専務理事の郡司がモデレータを務めた。

「いままでが当たり前ではなくこれからをどう自分たちで作っていくかを考えた。デジタル印刷の導入により、小ロット多品種の市場を印刷会社が物理的に可能にしてあげることにより、新たな市場が生まれお客にも提案が可能となる。横展開もできる。
しかし数をこなすために営業体制を変え顧客に「営業やめます」というDMを出した。営業は一つひとつの商談を追いかけるのではなく(そこは通販サイトと展示会での見込客獲得)、客とともにこれからどんなビジネスをやっていくか、「仕組み」を作るか「システム開発」をするかといったソリューション営業を展開している。
市場が縮小していくとガッツや元気だけでは仕事は来ない。今はCRMを導入してすべて数字で捉えている。効果や結果もすべて数字で持っており、それらが顧客へのお役立ちになれば良いと思いっている。」(大洞氏)

「皆さんが輪転機を手放す中でB2輪転機の入れ替えをした。残存者利益型の方向に舵をきったということだ。印刷会社の収益の柱はやはり印刷と刷版。ビッグデータを扱ってマーケティングオートメーションやれる会社ばかりではない。エリアを絞ってプッシュメディアを撒いて訴求するのにチラシの魅力は費用対効果も含めてまだある。ただし、我々が作るチラシにはQRコードやARを使って動画とリンクさせるなどクロスメディア展開もやっている。デジタルの議論はいろいろあるが顧客は輪転だろうが枚葉だろうがPODであろうと関係なく、自分が注文したものが費用対効果を発揮して目的にかなえばよい。
しかし、小さな仕事は増えそれを1点1点作業伝票で追っかけていたら不効率で自動化が必要。そのために社内にSEを育てている。これからの印刷会社はシステム開発部やSEを持っているかどうかが大きな分かれ目になる。」(松岡氏)

「デジタル印刷単体では全然もうからないイメージがあるが、オフセットとは全く別物という認識のもと、切り分けが必要である。大手クライアントも在庫や発注量の問題から紙を減らそうとしていることは明確で、デジタル印刷機があることで営業として話を聞いてもらえるという面がある。
デジタルをやってみるともうかるもうからないの前に、一つのビジネスのきっかけになり、“印刷会社=刷り屋”というイメージ打破につながると感じている。営業も「きれいに刷ります」ではダメで顧客のマーケティングにアドバイスができれば営業展開が可能。ただし、印刷会社の看板だけでは門前払いされることもあり、標語ではあるが「IT×PRINT」を年度方針で掲げ、デジタルとオフセットのハイブリッド印刷でこの5年は乗り切っていきたい。」  (長苗氏)

上記は、各氏の発言をかいつまんでご紹介しただけであるが、各社が取り組むビジネス展開やマーケティングを含めた今後のビジネス戦略についてオープンに発言いただいた。もちろん各社各様の戦略にどれが正解などということはないが、生き残ったものが正解だという非常に厳しい環境の中を経営者の方々が真剣に考え、日々ご苦労されている様子が伺え、聴講者も自社に照らし合わせて非常に参考になったとの意見が多数であった。

メーカーの立場としてオブザーバー的に参加した森澤氏がまとめて「印刷会社は実は損をしている。成功している電子雑誌のソリューションを紹介したが、出版社と密接な関係のある印刷会社が取り組んでいるのは1~2割に過ぎない。残りはIT系アウトサイダーが持って行ってしまっている。最大の原因はスピード感の欠如。そこに対応できないと過去の関係から切り落とされる」とし、「メディアを選ぶのはクライアント。印刷会社はメディアに紙をどのように選んでもらうのか、選ばれないときにはどのように関わっていくのかというところが肝。客のニーズは多様化しておりIT、マーケティングは必須の状況だがそれらはあくまでツールであり、印刷会社としてどのようにツールを使いこなしていくのかを若い人を中心に考えていけばよい」と結んだ。

(CS部 橋本 和弥)