情報収集場所の変化と高まるユーザーコミュニティの価値

掲載日:2017年1月18日

印刷業界で最新技術情報を得ようと思ったら、これまではメーカーの営業マンからの情報がほとんではなかっただろうか?特にメーカーの役員が訪問しての「ここだけの話」が、トップシークレット且つ最新情報だったと思う。しかし状況が大きく変わり、ユーザーコミュニティの価値が重要視されている。

製造機械が単一の製造目的から総合的なシステムになってくると、単なる性能だけではなく、どのようにリンクさせてどのように使うか?というノウハウに比重が移ってくる。JDFなどはその代表例だが、そのJDFを利用する場合も、方言を理解した上で、わざと方言(不具合)を使って効率をアップさせると言うことも行われている。

昔のPostScriptベースで言えば、Aldus PageMaker(後にAdobe社に買収され、Adobe PageMakerになる)とQuark Xpressでは同じことが言われていた。PostScriptにはその言語教本(赤本)があり、それにしたがってプログラムされることになっていた。

しかし、若干バグらしきもの(不具合と呼んでいたかな?)があり、言語教本通りにプログラムすると問題になってしまうことがあった。Quarkはその不具合を熟知していて、それをわざと回避させてプログラムを作っていたので、安定した出力という点ではQuarkに軍配が上がっていたのだ。

私は個人的にPageMakerのオペレーションが好きだったが、安定して出力される(出力できない場合はPostScriptエラーになってしまう)という理由でQuarkがシェアのほとんどをとってしまった。その後はAdobeのInDesignによる反撃の末、DTPはAdobeのCCやCS(クリエイティブクラウド、スウィート)に集約することになってしまった。

個人的な話になるが、CEPS華やかりし頃、メーカーがノウハウを包み隠さず暴露することには(秘密情報も含まれるので)疑問を感じ、ユーザー同士の情報交換会が大きな役割を果たすのではないか?と考え、ユーザーを集めて密かに「夜のテクニカルセンター(当時前田武彦司会の夜のヒットスタジオが人気歌番組で、これに引っかけたネーミング)」として、情報収集兼情報交換会を行っていた。

結果は参加者と主催者共に大きな利益があったと思う。今風に表現すればウインウインなイベントだったわけである。その後必要性を感じJPC(Japan Publishing Consortium、元々はAppleのユーザー会であるWWPCが原型)の設立を働きかけ、運営も手伝った経験を持っている。この団体も問題山積みだったDTP創世記には大きな役割を果たしたのだが、問題なく仕事が遂行できるようになると、自然消滅的に役割を終えてしまった。

デジタル印刷でも公的な団体が存在するが、デジタル印刷になるとDTPより秘密情報が増えるためメーカーのバックアップがより必要になってくる。公的団体のコンソーシアムでイマイチ問題に踏み込めきれないのはこんな理由からだ。しかし、メーカーべったりではユーザーの本当に欲しい情報に行き当たらないということも事実で、本当にわがままな状況になっているのだ。

そこに登場したのが、メーカーがサポートはするけれども独自の運営に任せるユーザーコミュニティ(ユーザー会)で、最初に先鞭をつけたのがDscoopである。HPにとっては販売&サポート面で非常に大きな力になったと言える。そのノウハウや動きは注目に値するものである。

そのDscoop立ち上げメンバーも関与して新しく北米で始まったのが、キヤノンのthINKで、大変評判が良いのは皆さんも知っての通りである。Oce等のノウハウが満載だ。同じくKodakのGUA(これは今後名前がどうなるか?)はProsperのノウハウをごっそりため込んでおり、日本でこそ余り馴染みがないが、生産設備としてのデジタルプリントの筆頭にあがるくらいに上手くいっている。Prosperヘッドはオフ輪に乗るくらいに生産スピードは速いのだ。

このようにメーカーがバックアップしているユーザーコミュニティはSNS全盛の現代にマッチしていると言え、欲しい情報はここから仕入れるのが得策である。Dscoopは日本のチェアマンである株式会社精工の林社長と協同クリエーションの佐藤氏から報告いただく。

Dscoop全体の報告をしてもらうが、正直な話精工の事例だけでも大変興味深いのだ。小分けの野菜袋をIndigoで製作しているのだが、小分け野菜袋という商品アイディアとデジタル印刷でかなりのボリュームをこなすというビジネスモデルアイディアは大変興味深く、直接林社長の口から聞きたい内容だ。

もちろん精工は名前入りコカコーラ等、注目アイテムを数多く手がけているのは衆知の通りである。協同クリエーションもラベルやPOP等多くのアイディア商品を生み出しているので、それらの情報からビジネスに役立つことは満載である。

ThinkとGUAはまだ歴史が短いので、メーカー代表から報告いただくが、その中身に関しては良いとこ取りするわけだから、役に立たないわけはない。

(JAGAT専務理事 郡司秀明)

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