【マスター郡司のキーワード解説2018】ブロックチェーン(その2)

掲載日:2018年8月30日

メディアビジネスに関わる印刷会社がおさえておきたいキーワードを解説する。
今回は「ブロックチェーン」の2回目。

JAGAT 専務理事 郡司 秀明

ブロックチェーン 2

ブロックチェーンは前回説明したように、分散型台帳(技術)と呼ばれ、データベースの台帳情報を共通化して、個々のシステムに同一の台帳情報を保有するというものだ。

財務省の文書改ざん事件で、IT業界は「信頼できるメディアであるとされる紙だって、悪意ある改ざん意図があれば、あんなことになってしまう。それよりはITの仕組みで監視できるほうがはるかにセキュアである」と言っている。極端な言い方だとは思うが、耳を傾けなくてはいけない部分も多々あると思う。

ネットワークがブロックチェーンに置き換わることで、低コストでの決済システムが実現するとの見方もあるが、使用目的や範囲、効果を正しく見極めなければブロックチェーンによる恩恵は得られるものではない。本来ネガティブ要素も多いのだ。

それではブロックチェーンのメリットとは何だろうか?代表的なものを列記してみる。

(1)データの改ざんが不可能になる

データの改ざんが不可能になることは、ブロックチェーン最大のメリットだ。ブロックチェーンデータは暗号化され、分散して保存されている。また、その暗号化されたデータは不可逆性があるため、特定することはできない。意図的に改ざんすれば、分散したデータとの整合性が取れないため、すぐに不正が明らかになるのだ(理屈は後述)。

(2)中央集権化を防げる

次のメリットは、「中央集権化を防げる」ことだ。一元管理しないことによって、システムがダウンしない(分散することで、他のデータから復旧できる)というメリットと共に、多くの利用者の間でブロックチェーンを共有し合うため、特定の管理者による独裁的コントロールがしにくいことも重要なメリットである。

(3)海外送金の低コスト化が実現する

金融機関を介さないので、海外への送金コストを大幅に削減できる。通常、金融機関を経由することで数百円~数千円の手数料が発生するが、ブロックチェーンによって ユーザー同士の送金が可能なので、最小限の手数料で済むようになる。

それでは、改ざんできない理屈を簡単に述べる。ブロックチェーンでは、ネットワーク内で発生した取引の記録を「ブロック」と呼ばれる台帳として格納する。個々のブロックには取引の記録に加えて、一つ前に生成されたブロックの内容を示すハッシュ値と呼ばれる情報なども格納されている。生成されたブロックが、時系列に沿ってつながっていくデータ構造が、まさにブロックチェーンと呼ばれる形になっているわけだ。

もし過去に生成したブロック内の情報を改ざんしようと試みた場合、変更したブロックから算出されるハッシュ値が以前とは異なることから、後続するすべてのブロックのハッシュ値も変更しなければならず、そうした変更は事実上困難である。このように、ブロックチェーンは、改ざんできないデータ構造をしているのだ(言い切ってしまうのは?)。

そしてブロックチェーンは、「パブリック型」と「プライベート型」に分けることができる。

●「パブリック型」は、中央集権的な管理者を置かず、不特定多数のだれでも自由に参加でき、だれでもマイニングに参加できるブロックチェーンを指す。パブリック型の代表格はビットコインだ。

●「プライベート型」は、管理者がいる。マイニングを行うためには、管理者の許可によってコントロールできるため、金融システムの管理などに利用できると考えられている。

ではブロックチェーンのデメリットとは何だろうか?

ブロックチェーンは分散型であるがゆえに、ネットワークを介した各台帳情報の整合性確認に一定の時間を要することから、リアルタイム性が求められる即時決済などの用途には向いていない。また、広く細かく分散してしまうと、追いかけることは理論的には可能だが、現実的には難しく、捜査打ち切りという事態も考えられるのだ(そういう事例も起こり出している)。その意味では、ブロックチェーン=ビットコインのように思われているが、知財保護的な目的に使用する方が向いているのではという議論もある。

ブロックチェーンは、仮想通貨等のFinTech(ITを駆使した金融商品・サービス)には欠かせない技術だ。また、プライベート型のブロックチェーンは、そういったメリットを生かしつつ特定の管理者を置くことができることから、企業での決済サービス運用などでの活用が期待されている。ブロックチェーンの活用は、将来金融サービスに大きなメリットをもたらすと言われているが…、その動向には注目したい。

(会報誌『JAGAT info』 2018年6月号より抜粋)