アニメと地域活性に関する研究会を開催

掲載日:2019年8月22日

6月11日、研究会セミナー「アニメを活かした地域活性化と事業展開」を開催し、好評を博した。また、セミナーの最後に発表された富山県南砺市の事例は現地での取材を含め『JAGAT info』9月号に掲載予定である。

コンテンツツーリズムの有力な一手段として

アニメの舞台となった場所を訪れる「聖地巡礼」。元々作品の舞台を訪れる行為は映画や文学などで昔から見られたが、アニメの舞台モデルを訪れる行為が近年注目され、政府の進めるインバウンド戦略の有力な一つとしても期待されている。

2018年2月に内閣府より発表された海外の日本通に対する調査では、欧州の75%、アジアの57%、北米の23%の人が、日本に興味を持ったきっかけとしてアニメ・マンガ・ゲームを上げている。また、日本アニメの海外市場は2014年から2017年にかけて約3倍へと急成長した。

アニメを題材とした地域の観光資源化は今後、成長分野の一つとなりうる可能性を秘めている。しかし、大きな期待とは裏腹に聖地巡礼をどのようにビジネスとして成立させ、地域の持続的な発展に役立てるかというノウハウの蓄積は進んでいない。そこで本研究会では、印刷会社や研究者、アニメの制作会社といった分野の専門家を招き、様々な視点から聖地巡礼ビジネスを考える研究会を企画した。

地域活性化に貢献するアニメの力

まず最初にJAGATの主幹研究員藤井建人から、印刷会社による地域活性化の動向について発表を行った。印刷会社では地域活性事業に取り組む企業が増えている。JAGATの調査では61.9%が既に取り組んでおり、残り39.1%の中でも必要性を感じないと答えた企業は15.3%に留まった。地域に根ざした印刷会社では周辺地域の活力を上げていくことが結果的に自社の利益に繋がると捉えることが多く、地域活性事業で関係性を深め、地域に新たな価値を創造する構図も生まれている。コンテンツツーリズムは関連グッズや観光MAP、ポスターなど印刷物に限らず地域に派生的な経済を多くもたらすと見られ、印刷会社の持続的な仕事になる部分もあるだろうと注目している。

アニメ関連産業に印刷会社が新規参入した事例について、近年アニメコラボカフェの事業を始めたサイバーネット社の会長、高原一博氏と村上直樹氏が講演した。コラボカフェとはアニメやゲームをテーマとした料理やサービス、内装などを提供し、数か月ごとにテーマ作品を切り替えていくコアファン向けのビジネスモデルである。サイバーネットでは、ザイコンのデジタル印刷機を保有しており、内装やグッズの制作コストを他のコラボカフェ事業者より安く、機動的に用意できる。こういった部分を強みとし、海外からもファンが訪れる一種の聖地を作りだした。

成長するアニメコンテンツにどう関わるか

デジタルハリウッド大学の荻野健一氏は地域から聖地を生み出す聖地創生という考え方を提唱している。日本のアニメ会社はほとんどが東京に集中しており、舞台に選ばれた地域が後から作品を知って作品のファンを受け入れるという流れが多い。聖地巡礼の成功には地域の協力が不可欠であるため、熱意のある地域と作品との高い偶然性が必要とされる。荻野氏は、今後は作品を待つだけではなく、地域の物語を発掘し、それを利用しやすい形でアニメ制作会社に提示することが必要だと考えている。地域が主体的に作品に関わることで、作品と一緒に地域の魅力も知ってもらう仕組みを作り、聖地巡礼を地方創生に結びつける方法を提示した。

ピーエーワークスは富山県に本社を置き、地域と関係の深いアニメ会社としては第一人者的な企業である。そんなピーエーワークスの役員が立ち上げ、現在のピーエーワークスの地域活性事業を担っているのが、一般社団法人地域発新力研究支援センター(PARUS)である。現代表は前職が印刷会社勤務だった佐古田宗幸氏であり、PARUSがアニメのコンテンツ力を地域の活力に繋げるために、どのような活動を行ってきたか講演を行った。聖地巡礼を地域振興に活用した最も先進的な例の一つと言える。詳しくは『JAGAT info』9月号で4ページに渡って掲載する。

おわりに

研究会当日は、コンテンツ事業に力を入れている大企業から地域活性に興味を持つ全国の中小印刷会社など、業界内外から40人以上が参加し盛会となった。アニメ・マンガ・ゲームといったコンテンツ産業は成長を続けており、波及効果も大きい。今後もクールジャパンやコンテンツツーリズムといった領域には引き続き注目し、研究会等でも取り上げていく予定である。

(JAGAT研究調査部 松永寛和)

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