コンテンツの遠隔利用を円滑にする著作権法改正

掲載日:2022年8月18日
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印刷ビジネス界定番の人材育成プログラムであるDTPエキスパート認証制度では、幅広く印刷関連知識を扱っています。認証制度カリキュラムの中から、コンテンツの著作権に関する最新情報をお届けします。

コンテンツには、さまざまな権利が発生する。主に関連する権利として、著作権、肖像権、商標権等が挙げられる。中でも著作権については近年の産業・生活動向に即した法改正が令和2年および令和3年に行われている。

著作権法令和3年改正では、コロナ禍に需要が増した遠隔での資料入手、インターネットを介したコンテンツ配信に対し、より円滑な運用を実現する視点で既存法令の見直しが図られた。具体的には、図書館所蔵資料の遠隔利用、および放送番組のインターネット配信に関する改正等が行われている。

図書館所蔵資料の遠隔利用

国会図書館所蔵の絶版本等入手困難な資料の個人閲覧について、従来は利用者が図書館に赴いて閲覧する方法のみが認められていたが、今回の改正により図書館から遠隔地にいる利用者にデジタルデータで送信することが可能になった。これを受け国会図書館では、令和4年5月より対象約153万点の資料について実運用を開始している。

また、権利者保護に関する一定の要件を満たした図書館においては、資料の一部分の複写について、従来の紙コピーに加え、デジタルデータをメール送信によって提供することを認める改正も行われた。ただしこの際、図書館は著作権者に対する補償金支払いが求められる。現時点では補償金支払い管理方法が調整・検討されている段階であり、これが定まったのちに実運用が開始される見込みだ。

図書館所蔵資料の遠隔利用については、利便性の面からコロナ以降その必要性が増し、電子図書館導入が拡大している。一般社団法人電子出版制作・流通協議会の公表資料によると、2022年7月時点の導入図書館数は、324自治体300館(コロナ以前の2019年10月時点では89自治体86館)と急増している模様だ。

今回の法改正は、絶版資料および紙の書籍の一部複写に限定したものだが、図書館所蔵資料の貸与全般について著作者の権利という観点で見ると、欧州、カナダ、豪等では公共貸与権制度(図書館における資料の貸与に関する金銭的補償を著作者に行う制度)が導入されている、そのため、著作者の権利を保護したうえで情報アクセスの機会を利用者に等しく提供する環境が整っているといえる。米国や日本などではこの制度は導入されていないのが現況だ。今後公共図書サービスの遠隔利用について、どのように展開されていくのか注視したい。

放送番組のインターネット同時配信時に生じる著作権問題

昨今テレビ番組のインターネット同時配信、見逃し配信等のサブスクリプションサービスが浸透している。報道系のインターネット配信番組などでよく見受けられるのは、何らかの取材映像やフリップボードなどが映し出されるタイミングで、「この部分は権利の都合上で放映できません。」等のテロップとともに出演者の静止画や配信事業者独自画像等に画面が切り替わり、音声のみで進行する場面だ。従来の著作権法では、放送番組の中で使用される写真や映像について、放送上の著作権許諾は得られていてもインターネット配信上の許諾は個別に得る必要があったことから、インターネット配信の許諾を得ていないコンテンツについてこうした処理(フタかぶせ)が行われてきた。

今回の改正では、同時配信を行っている事業者が放送番組において著作物を使用する許諾を得た場合は、著作権者からの意思表示がない限りは同時配信における使用許諾も得られたものとする、との改正が行われた。そのほか、学校教育等に用いられる際の特例や、権利者の許諾を得ることが困難な音源や演奏パフォーマンス等の権利処理についても、実運用が円滑に進むよう法改正が行われている。


電子媒体でのサービス利用や動画利用が一般化する中、印刷会社には印刷にとどまらないサービス提供が求められている現況がある。上記改正は印刷ビジネスに直結するというものではないが、各媒体での著作権確認の必要性有無など、実制作にまつわる周辺知識と関連が深い。

こうしたコンテンツ関連の動向について常にウォッチし、実業務で課題が持ち上がる前からある程度の予備知識を蓄えておきたいところだ。

【DTPエキスパートカリキュラムver.14】[コミュニケーション]5-2-5 コンテンツと法令

参考)
文化庁 著作権法令和3年改正
国立国会図書館 「個人向けデジタル化資料送信サービス」の開始について

(JAGAT資格制度事務局 丹羽 朋子)