クリエイションに活用されるAIと創作性

掲載日:2023年4月20日
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様々な領域でAIの活用が進展する中、コンテンツの制作にもその活用は広まりを見せる。デザイン関連アプリケーションを扱う制作者によく知られるところでは、画像レタッチや文字校正などが挙げられるだろう。

コンテンツ制作へのAI活用には大きく分けて2つの展開がある。

一つには、人の手を介して制作したデータを改良するサポートツールとしてのAI活用であり、画像アプリケーションにおける各種レタッチや、フォント提供サービスにおける内容に応じたフォントの自動選択、文章校正・校閲システムといったものが挙げられる。

もう一方は、既存のコンテンツを参照・学習させ、ユーザーの要望に応じて要件に沿った画像やイラスト、文章などを自動生成するものだ。要件の指定により制作作業に人の手を介さず新たにコンテンツを生成する。

AI活用に伴う法的課題の現況

後者のコンテンツを自動生成するAIの活用については、画像やイラストを生成する生成プロセスについて、著作権の捉え方の問題が発生している。海外ではすでに以下のような争点が浮上している模様だ。

事例1:AI生成コンテンツに著作権は発生するのか<米国>

画像生成AIツールによるコンテンツに対し著作権を認めるよう訴えた制作者に対し、米国著作権局はこれを不許可とした。米国における著作権の原則は一貫して「人による創作物」を対象とするというのがその根拠である。

事例2:部分的にAI生成ツールを活用したコンテンツの著作権はどこに帰属するのか<米国>

画像生成AIツールMidjourneyにより生成したイラストを用いて作成したコミック作品について、米国著作権局は、コミック自体の著作権は認めるもののAI生成の画像部分には著作権を認めない、との見解を示した。

作者側は、画像生成に際してその要件を与えたのはコミック作者であるため画像についても著作権が作者にあると反論している。画像生成に関する要件設定を行うというプロセスについて、人間の創造性によって生まれるアウトプットなのかどうか、という点で作者と著作権登録局の見解が割れている。

「絵を描く」「写真を撮る」といった作品制作における「発想」「具現化」というプロセスをどのように捉えるかという点で今後注目されるところだ。

事例3:他者所有Webコンテンツを無断参照したAI生成コンテンツに違法性はないか<英国・米国>

ストックフォト提供会社のGetty Imagesは、自社提供のWeb上のストックフォトを無断で教師データとして利用しているとして、画像生成AIツールSable Diffusionを提供するStability AIに対し、英国および米国で提訴手続きを開始した。

機械学習によるAIのベースとなる学習データをどのように入手するのか次第で生成結果は大きく変わる。こうしたデータ収集に関する訴訟問題は今後も起こりうると見込まれる。

日本国内では、2019年施行の著作権法改正時に、AI活用を推進するため「権利制限規定」を変更することで、機械学習に際して著作権の制約なくデータ活用することが可能になっている。一方で生成されたコンテンツに対しては、「人の行為を介した制作物」が著作権の前提となっている点は米国同様である。

教師データとして活用するデータがWebを通じて全世界を対象とするのであれば、各国の法規制を把握しておく必要もありそうだ。

生成プロセスと著作権

AIによる生成プロセスについては、教師データの利用許諾が取れたとしても、インプットされた教師データをどのように解析しアウトプットするのか、という点が気になるところだ。

Stable Diffusionでは、教師データ画像にノイズを加えたのちそれを復元する方法を大量に学習させ、ユーザーが欲しい画像の要件をテキストで与えると、その属性(キャプション情報)を持つ画像のノイズ済データから要望に応じた新たな画像を生成するという仕組みになっているという。教師データをある意味分解して、あらためてAIが独自に画像生成しているため他者の権利を侵害しない独自の生成物である、というのが生成ツール開発側の主張だ。

創作性とは何か、そのありかたが問われる

こうした制作プロセスと著作権の問題は、AIに限らず人の手を介した創作活動においても、たびたび取り沙汰されている。他者の作品を下絵としてトレースし、何らかの加工を施し制作したイラストを自身の作品として発表した場合の著作権侵害有無を問ういわゆる「トレパク(トレースしてパクった、の略)問題」が多発している。

トレースについては、幼児向け絵画教室などでも、ライトテーブルに写真とトレーシングペーパーをおいて形を写し取り、肉付けして絵を仕上げていきながらデッサン力を培う方法がとられているのを見たことがある。幼児はペンの持ち方も描き方も知らないが先入観がなく発想だけは豊かなため、描くことの本質を学ばせるために行うレッスンプロセスなのだと聞いた。

少なくとも、こうした下地なくデジタルツールのトレース機能等に習熟していることと、豊かな発想を前提としたクリエイションは等価ではないだろう。

こうして見てみると、AIの進展とともに「創作性」とは何かをあらためて考えさせられる。物事を学ぶ過程と独自の視点で創作物を誕生させる道のりは不可分ではなく連続的であるとすれば、創作活動は常にどこかの誰かの作品の影響を受けているともいえる。

既存知識・スキルの論理的理解だけでなく、何らかの洞察を見出したうえでの制作物・生成物なのかどうかが、創作性の第一歩ではないだろうか。

(研究調査部 丹羽 朋子)
Jagat Info 2023年4月号より一部加筆