『本は変わる!印刷情報文化論 』

掲載日:2014年8月20日

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『本は変わる!印刷情報文化論 』
発行所 東京創元社
中西秀彦著 B6判 209P 1400円(本体価格)

 

近年出版不況が唱えられている中で,その原因として若者の活字離れが言われて久しいが,それに対して本の造り手側の努力は見直されているのだろうか。 著者は過去の本誌欄で数回紹介したことがある中西印刷の経営者で,著者の長年にわたる印刷経営の経験から,またIT経営者としての視点から,現代,未来のメディアの変化を捉えている。多くの印刷経営者の示唆に富む内容が盛り込まれている。

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従来の概念の本という印刷物は,紙という材料と情報を売っているわけだ。つまり売価の付加価値は「紙とコンテンツ」と言える。紙の本がなくなるとか,なくならないとかの議論があるが,グラフィックアーツとしての本は,本としての利点があり,本としての価値がある。従って現在の形態の本は簡単にはなくならないと,著者は言う。

しかしベストセラーの本は別として,多種少量出版の形態になることは免れないであろう。そこで注目を浴びたのが新デジタル方式の「オンデマンド印刷」である。しかしこの形態は,印刷プロセスが変化しただけで,最終結果は紙上の印刷物の形になる。従って,単に小部数印刷や短納期だけを特徴としても商業ベースに乗りにくい。つまりスピーディなインターネット出版にはかなわないことになる。

新しい情報伝達方法は,デジタルコンテンツを先にインターネットで出版し,その後必要に応じて紙の出版物にする形態が一般的な手段になるであろう。現在まだ紙の本の利便性はあるが,未来は紙の本だけの手段だけではなく,電子媒体を使っての読書形態が増えるであろう。そして紙の上の技術革新は「オンデマンド印刷」が最後であろう,と言う。

 

(2004年5月17日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)