未来を創る方向性は各社各様だが、新たな人材育成が必須!

掲載日:2015年11月6日

JAGATではJUMP(JAGAT地域大会)において“印刷の「未来を創る」”方向性をめぐり各地でディスカッションを重ねている。東北地区では五感に訴える紙の強みとデジタルの連携に活路を見出し、中国・四国地区では営業力の底上げなど新たな人材育成にスポットがあてられた。

 

各地のJUMPでは、「JAGATからの報告」として、『印刷白書』及び『JAGAT印刷産業経営動向調査』などJAGATの研究調査レポートを基に、業界と印刷ビジネスの最新動向を解説し、次に今年度の全体テーマのモチーフとなったジョー・ウェブ博士著『未来を創る-THIS POINT FORWARD』のおさえるべきポイントと、そこから見えてくる今後の印刷会社が取り組むべきことについて解説をしている。そしてそれらを踏まえて、日本における印刷業各社の未来を考え、自社のビジネスをどう変えていいくのかという方向性を見出すべく議論を重ねている。
去る9月17日に広島において開催したJUMP中国・四国2015では、ディスカッションのモデレータをJAGAT専務理事の郡司秀明が務め、スピーカーにはJAGAT会長の塚田司郎ともに、地元広島県より細川俊介氏(アート印刷(株) 代表取締役)、田尾直也氏((株)原色美術印刷社 代表取締役)及び山口県から藤田良郎氏(瞬報社写真印刷(株) 代表取締役社長)を迎えて行った。
参加者からは「各社各様の意見や考え方が聞けてよかった」と非常に好評で、「悩んでいることは同じと感じた」などの感想が得られたが、以下にパネラー各位の発言を抜粋してそのエッセンスをお届けする。

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◯問題の提起
・輪転を中心にやって来たが、15年後にどうなるか誰にもわからない。社員にもそのことを伝え、その時に「これしかできない」では困るので、人のローテーションを行っている。時間と金はかかるがこれまで受け身で仕事をしてきた社員に自ら考えさせ、現場から提案が上がってくるように取り組み始めたところだ。先行き見えない状況ではあるが、逆に人が変わるいいチャンスだと捉えている。(田尾氏)
・我々は社名のとおり(アート印刷)の会社になりたい。『未来を創る』には印刷へのこだわりを捨てなさいといったことが書かれているが、我々の顧客は画家、美術館、美術大学、画商などで、例えば画家は自分の色を印刷では再現できないことは理解しているが、その雰囲気に近づけることを要望し、そこをどう料理するかが勝負のしどころであり命である。質感や紙にこだわって今後も追求していきたい。(細川氏)
・我々の業界に最も影響をもたらしたのはマーケティング手法がアウトバウンドからインバウンドへと根本的に変わったことだ。スマホ出現以来、世の中は24時間ネットにつながり、ログを取ることがマーケティングの中心となった。経営者は、その状況を印刷物がどのように取り込んで、アクションしていくかを考え、そこに向けてスケジュール感をもって今何をするべきかを示していかねばならない。その戦略は10社あれば全部違うであろう。(藤田氏)
・新しいビジネスを立ち上げる必要から、デジタル印刷に取り組んで10年以上になるが、当時やってみてわかったことは、お客の言うとおりにやるオーダーメイドであるオフセット印刷とマルチプルチョイスでやるしかないデジタル印刷は考え方が真逆であるということ。したがって、営業のやり方も違い、価値観が違うビジネスを展開するのに最も重要なのは人選でる。(塚田会長)

◯課題解決に向けて
・今ある組織は今日までの商売をやるため最適化されたものだが、全く違う商売を始めるためには昨日までの組織では機能しない。(塚田会長)
・印刷の出荷額は今後も減っていくであろう。印刷以外で飯を食っていこうとするときに、サービス業へ転換していく必要があると考えている。製造業で勝負しようとする考え方もあり、企業もあるだろうがそうなると詰まるところネットで仕事をかき集めてギャンギングしまくって、という印刷通販方式で勝負するしかないであろう。しかし、これまでの印刷会社の人は機械を稼働させるためにサービスはタダで提供するというところがあり、顧客が儲かった対価をいただくといった考え方に切り替えていかなければならない。そのためには営業力の底上げしかないと思い、我が社では全営業マンに重点アプローチシートを作らせ、毎月1度、東京では私自らが全員と面談し、報告を受けそれに対しアドバイスを行いながらシートを更新していくということをやっている。さらにそれを社内ネットワークに上げて全員で共有するようにしている。地道ではある着実に営業のスキルが上がってきたことを実感している。(藤田氏)
・極論すれば将来印刷機がない会社をも視野に入れている。今後は設備に投資するくらいなら人に投資していきたい。特に、営業は外に向けての発信力が必要になってくるであろう。そのためにもまずは自分自身が勉強し、変わったうえで社員を引っ張っていけるかどうかにかかっている。(田尾氏)
・アートを追求するが、マーケティングの知識、素養があれば営業力は大きく高まる。美術館も来場者が減り、ショップの売上も落ちている中でマーケティング手法を取り入れて提案ができれば、印刷技術と合わせて鬼に金棒となるであろう。(細川氏)

◯未来を創るために
・人なしには何もできない。人にしっかり向き合い時間も投資していきたい。(田尾氏)
・現時点ではデジタル印刷の導入は考えておらずオフセットの更新を考えている。商売で言えば孤独な我が道を行くであるが、困難ではあるが自分で潮流を創る立ち位置えお目指したい。(細川氏)
・データ予測では将来パッケージ印刷が良いからといってパッケージ印刷機を買っても仕事が付いてくるわけではない。5~10年先を考えると、印刷だけを追求しても部数は減り苦しくなる一方で、サービスを付加して儲ける割合を増やさなければならない。(藤田氏)
・自分がなにをやりたいか、自社が社会にとってどういう存在になりたいかを考えるとき、仕事に対する価値観がぶれないところで新しいビジネスを考える必要がある。『未来を創る』にも印刷のセグメントごとに未来は違うことが示されているが、自分がやったことのない市場で勝負するのは大変難しい。各社の方向性にあったものを選択していく必要がある。(塚田会長)

JUMPはこの後、大阪(JAGAT近畿大会:11月17日)、名古屋(JAGAT中部大会:2016年1月27日)と続き、『未来を創る』を巡るディスカッションの集大成としてpage2016(2016年2月3日~5日)のカンファレンスへとつなげていく予定である。

(CS部 橋本 和弥)

<関連情報>
JAGAT近畿大会2015 11月17日(火)開催(太閤園)
 印刷の「未来を創る」~新たな価値づくりへの挑戦