仕事に人がつく「多能工化」

掲載日:2016年2月10日

印刷業界は、受注産業であるためお客さまの発注後、生産活動を開始する。したがって、在庫をもたないというメリットがある反面、計画生産とはいかず受注後は短納期になることが多い。印刷会社の部門内では、季節や部署によって繁閑の差もあり、中小企業では一人何役をこなすというケースも少なくない。

仕事と負荷を考慮した人員配置

多品種少量生産のなか柔軟な生産体制を実現するために求められる技術者が多能工である。現場に多能工が存在すれば、忙しい工程に労働力を集約させ、負荷の平準化、生産性向上が実現できる。
少人数企業や部門では、必然的に「多能工化」が進んでいる。一方、大人数の部門では業務の担当、役割が分かれているため一人の担当業務の内容が深く範囲が狭い、いわゆる「単能工」が多い。
たとえば多能工ではない職場では、田中さんはAの仕事、鈴木さんはBの仕事が割り振られる。この場合、田中さんも鈴木さんも担当の仕事しかしない(できない)ので、それぞれの繁閑に応じたサポートができず、仕事の進捗にムリ・ムダが生じてしまう。
しかし効率の良い職場では、それぞれの仕事と負荷(手間)の関係を、A業務0.5人分、B業務0.7人分、C業務0.8人分と数値で捉える。A、B、Cの仕事を2人で賄うといった合理的な人員配置を行うのである。A、B、Cの業務を細かく(少数)捉えることで効率が良くなり、整数でしか考えない場合3人費やすところ、2人でこなすことができる。また、一人ひとりの仕事量の変動にも対応しやすくなる。作業負担が平準化され、労働時間の短縮につながる。

見えるムダ、見えないムダの削減

たとえば100の製品を10人で生産していた現場が、受注の落ち込みにより80に減産することになった場合、出来高制であれば10人の給料は80%になる。出来高制では、作業者の給料で調整ができる。しかし、多くの月給制を採用している生産現場では、80に減産しても10人の給料を容易に削減することはできない。つまり一製品当りの生産原価は高くなってしまうのである。売上高が下がったうえ、コストが高くなるというダブルパンチになる。
さらに、作業効率のデメリットも発生する。月給制の現場では、基本給だけでは給料が十分ではないため、残業代込みの総額収入が前提となっていることが多い現状がある。そのため、10人の作業者は100を生産するのに比べ明らかに仕事量が減少し、残業も比例し減少して(またはゼロになって)しまう。そのため、それを回避する心理がはたらき無駄な動きや残業を増やしてしまう傾向がある。

多能工化への取り組み

組織における役割・業務分担は「人に仕事がつく」のではなく「仕事に人がつく」ことであり、業務の標準化を実現するものだ。 ある印刷会社の製造部門では、星取り表(スキルマップ)を作成し、誰がどの作業ができるかを掲示し、スキルの見える化を実践している。
多能工化を実現するためには、人材のマルチスキルはもちろん、訓練のコストも発生する。技術者に将来の人材像や、訓練の趣旨を伝えていないため本人が理解していない状況は避けるべきである。
成功のポイントは、教育や訓練の実施と企業側の多能工化導入の環境整備である。会社側の姿勢と技術者側の理解が重要だ。お互いに納得のうえで進めることで、両社にメリットが成立し成功と呼べるだろう。
最後に「多能工化」など見える化を実践する際は、企業それぞれの歴史や風土を考慮した取り組みをしてほしい。

(西部支社長 大沢 昭博)

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