工業統計で何がわかるの?

掲載日:2016年3月30日

2014年の印刷産業出荷額は5兆5364億86百万円、減少幅は前年比0.2%減と小さく、1事業所当たり出荷額は2年連続増で214.2百万円を確保。印刷産業の市場規模は工業統計の数字で示されるが、実際の印刷会社の仕事はもっと大きく広がっています。 (数字で読み解く印刷産業2016その1)

3月11日公表の 「平成26年工業統計調査」産業編

 「平成26年工業統計調査」産業編が3月11日に公表されました。工業統計は製造業に関する全国規模の調査で、毎年12月31日に実施されています。平成26年(2014年)の結果がわかるのが平成28年(2016年)3月というと、ずいぶん遅い気がしますが、従業者4人以上の全事業所22万弱を対象に、回収率95.2%という調査規模の大きさを考えるとうなずけるところです。毎年、速報値は翌年9月末、概要版が翌々年1月末、品目編と産業編が3月末に公表され、6月以降に刊行物となってきました。今回は産業編だけですが、例年よりも2週間以上早く公表されています。

工業統計よりもっと規模の大きい調査に「経済センサス」があります。製造業だけでなく全産業を対象に、同じ時点における全企業・全事業所の実態を把握しようというものです。2012年に「経済センサス」が始動したことで、工業統計は従業者3人以下の事業所を除く「裾切り調査」となりました(2008年調査以前の工業統計は、西暦末尾0、3、5、8年には全数調査を実施していました)。

ここで注意していただきたいのは、速報値・概要版では4人以上の事業所の数字しか発表されていませんが、産業編になると推計を含む全事業所の数字がわかるということです。

1991年の8.9兆円が2014年には5.5兆円に

印刷産業の市場規模を見るときには、工業統計の製造品出荷額等の数値が利用されます。1991年がピークの8.9兆円という数字は、印刷産業(印刷業、製版業、製本業、印刷物加工業、印刷関連サービス業)の3人以下も含む全事業所で達成した数字になります。

この数字をグラフで見ると、外円全体が印刷産業全体の出荷額8.9兆円ですが、4人以上に限ると内円の8.6兆円になります。全事業所は4万、そのうち3人以下の事業所が約4割を占めていますが、出荷額では3.3%に過ぎないので、市場規模は4人以上で判断されることもあります。グラフの濃い色が印刷業が占める部分で、全事業所で7.7兆円、4人以上で7.5兆円となっています。

工業統計

さらに最新(2014年)の数字を当てはめてみると、外円が印刷産業全体の出荷額5.5兆円で、4人以上に限ると内円の5.4兆円になります。全事業所は2.6万、そのうち3人以下の事業所は5割を超えていますが、出荷額では2.2%にとどまります。ピーク時から23年経ち3人以下の事業所数は16.2%減で出荷額は58.8%減、これに対して4人以上の事業所数は55.8%減で出荷額が37.3%減と、規模の格差が広がっていることは明らかです。グラフの濃い色が印刷業が占める部分で、全事業所で5.0兆円、4人以上で4.9兆円となっています。

 工業統計2014

印刷産業出荷額には印刷物製造以外の売り上げは反映されていない?!

工業統計の数字は、事業所の捕捉によって調査対象が増えたり、調査項目の一部が変わったりと、単純に比較できるものではありません。しかし、統計法によって調査に回答することが義務付けられた信頼性の高いデータです。

JAGATが毎年発刊している『印刷白書』では、全数調査を開始した1955年から最新のデータまで、印刷産業の全事業所の事業所数、従業者数、製造品出荷額等を掲載しています。マクロの印刷産業の実態と推移を見るのには欠かせないデータだからです。印刷産業の傾向と自社の傾向を比較してみることで、いろいろな発見もあるはずです。

1991年の8.9兆円が2014年は5.5兆円と大幅にパイが縮小したことを考えると、印刷市場の今後は厳しいと言わざるを得ませんが、この数字には印刷会社による印刷物製造以外の売り上げは反映されていません。つまり、印刷技術の応用範囲の広がりや、印刷会社の業態の広がりを反映しにくい統計調査であることに注意が必要です。減少幅は前年比0.2%減と小さく、1事業所当たり出荷額は2年連続増で214.2百万円を確保しています。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)