「御用聞き」がソリューション営業を行うには?

掲載日:2016年3月29日

国民的アニメ「サザエさん」に出てくる「三河屋のサブちゃん」をご存じだろうか?磯野家御用達の酒屋の若旦那として配達にやってくるこの男は、営業の観点でみるとなかなかの強者と言える。

 

「御用聞き」営業を侮るなかれ

「こんちわー、三河屋です。」
「カツオくんが、草野球でホームラン打ってましたね。」
「頼まれてませんが、お酒と一緒に、お醤油も持ってきましたよ。」

元気な挨拶と共にやってくるサブちゃんは、その絶妙なタイミングもさることながら、磯野家の内情によく精通している。そして帰りがけには、「あ、それから今度来るときはお味噌もお願いね。」などと追加注文を稼ぐこともしばしばだ。このサブちゃんの「営業」スタイルは、いわゆる「御用聞き」である。しかし鮮やかに関連商品の販売、「クロスセル」を行っている。さらにすごいことに、サブちゃんが出入りする場所は磯野家の玄関ではなく勝手口である。これは相当の顧客の信頼を勝ち得ていることに他ならない。組織(磯野家)のトップがかなりの強面(波平)と言うことを考えれば、かなりのスキルといえる。

 

 

ソリューション提案の前にやるべき事

昨今、顧客へのソリューション提案が重要と言われている。しかしソリューション(問題解決)の前には、まず顧客の問題を発見しなければならない。いくら美しいプレゼン資料で、「こちらが御社へのソリューションです。」とコンサル気取りで提案しても、顧客の悩みや問題を把握していなければ、その提案書は意味をなさない。その点、サブちゃんは実に良く顧客の問題を把握しており、言われなくても磯野家の調味料がいつ無くなるか、把握しているだろう。御用聞きにも出来ることはあるのだ。

(こちらの記述は、この書籍より引用しました。)

 

 

プロダクト型営業からソリューション営業への移行は簡単にできるのか

サブちゃんの話はBtoC、しかもフィクションであるから、BtoBの実例も紹介する。

飲食店の検索サイト「ぐるなび」、今でこそ「新しいお店に行くには、まずぐるなびを見てから」という行動が当たり前だが、開設当初はとにかく登録してもらう飲食店を増やすべく、営業マンが足で稼いで集めていた。一方、株式会社ぐるなびの創業者である滝久雄は、「新しいメディアを作る」と言う理想の元、掲載店1万店を目標に、後発の他社サイトより掲載料を大幅に安い3,000円/月に設定し、また営業マンにもかなりの高額のインセンティブを設定していた。しかしその掲載料ではシステム維持費を踏まえると収支は厳しいため、掲載店が1万店を超えた後は掲載店舗を、より一層ぐるなびを活用して集客や販促に活用する「正会員」へ移行させる施策に転換した。つまりぐるなびの営業マンは、ぐるなびサイトへのコンテンツ掲載というサービスを売る「プロダクト営業」から、飲食店の販促コンサルを行う「ソリューション営業」への転換を求められたのだ。

 

販促ツールのパッケージでソリューション提案

営業にとっては、販売商品や手法が変わるだけでなく、営業ノルマも数十倍になり、反発もかなり多かった。しかし滝はその改革を断行したが、ただ黙っていたわけではなく、営業が売りやすい様々な販促ツールを用意するとともに、毎月発行の「ぐるなび通信」には集客の成功事例を徹底的に掲載するなど、様々な仕掛けを行った。また、担当営業とは別に、パート採用した主婦などを「巡回スタッフ」として、正会員店舗に週1~2回訪問させ、それぞれの店舗の要望を吸い上げる仕組みを構築した。その結果、営業マンは飲食店に対し、集客に関する年間予算をあらかじめ組んでもらい、その範囲であればぐるなびを活用する回数、タイミングを一任させるという「AE(アカウント・エグゼクティブ)」型の展開を行うようになった。つまり、営業マンのトークが「ぐるなびに掲載してください。」というプロダクト型から「毎月○○万円の予算をいただければ御社の売上を○○万円上がります。」というソリューション型に変貌したのであった。

(こちらの記述は、この書籍から引用しました)

 

 

印刷会社の営業もAEに

受注産業である印刷業界もソリューション・プロバイダーへの移行が叫ばれて久しいが、現実はそう甘くないと思う。さらに昨今、印刷会社でもマーケティングの概念も必要とされるなか、現実との乖離を感じることも多いかもしれない。しかし、どの会社にも既存顧客は必ず存在し、コミュニケーションが円滑にできる顧客が必ずいるはずで、その中から顧客の問題を発見して行くことは出来ないだろうか?また、広告代理店においては常識である「AE(アカウント・エグゼクティブ)」と言う概念を、同じメディアを扱う印刷会社が踏襲できないとは思えない。このあたりはpage2016の基調講演に登壇頂いたシンフォニーマーケティング庭山社長が推奨するABM(アカウント・ベースド・マーケティング)の概念と合わせて次回、考察したいと思う。

 

(CS部 堀 雄亮)