DTP依存からコンテンツファーストへ向かう出版社

掲載日:2016年9月30日
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2016年9月28日、出版デジタル機構はコンテンツ製作支援サービス「Picassol(ピカソル)を提供することを発表した

ピカソルは、出版社における原稿作成・編集のためのツールである。1つのコンテンツファイルから多様な出力を可能とするコンテンツファーストの実現をめざして、講談社とNECが共同開発した原稿作成・編集システム「Smart Source editor (以下SSE)」をベースとしたクラウドサービスである。

従来の出版・編集の課題

出版社における書籍の編集・制作は、MS Wordなどのテキストデータを印刷会社に入稿し、DTPによってレイアウトした結果を初校ゲラとして返送してもらい、赤字を入れる方法が主流である。

入稿する際のWordテキストは限られた字種・字形しか扱えず、表示できないことも多い。DTPでは印刷に必要な大きな文字セットのフォントを使用しているため、最終的な字形を確認することができる。つまり、DTPでレイアウトしなければ最終的な字形を確認することができなかった。

完成した印刷(DTP)データから電子書籍などのデジタルコンテンツに流用する場合、文字コードの相違などによって一から校正せざるを得ない、という問題もある。

さらに、印刷用データとデジタルコンテンツ用データを2重マスターとして保管することは、管理面でも費用面でも無駄が多く、合理的とは言えなかった。

国内の多くの出版社は、DTPレイアウトを印刷会社などに委託しているため、最終原稿のデータ管理ができていないのが実状である。電子書籍用、印刷用コンテンツの一元管理もできていない。
アプリケーション依存のコンテンツでは、再利用するたびにデータ変換が必要となり、そのたびに校正作業や費用が発生してしまう。
さらに、将来アプリケーションやOSのバージョン変更があると、互換性の問題が起こるリスクも抱えている。

デジタル編集のクラウドサービス「ピカソル」のねらい

このような問題を解決するには、印刷、電子書籍というデバイスに特化した形式ではなく、2次利用や再利用が可能となるデバイス中立の形式でコンテンツを管理することが必要になる。
また、編集段階と印刷データや電子書籍で扱える文字種が異なると、データの一元化は不可能である。編集段階でより大きな文字種を扱い、DTPや電子書籍と共有できる環境が必要である。

SSEは講談社とNECが開発した出版コンテンツの編集・制作システムであり、出版デジタル機構のクラウドサービス「ピカソル」の原型となっている。

SSEは、原稿編集を行うエディター機能、ワンソースマルチユースのためのコンテンツ管理機能、外部システムとのデータ交換機能から構成されている。出版・編集に関わる問題を解決し、さらに編集者の原稿整理・校正作業を効率化する目的で開発されている。

編集画面は書籍に合せて縦書き・横書き表示が可能であり、原稿用紙のイメージで表示することができる。Wordデータの取り込み機能、数字や欧文の全角半角を検知し、一括修正するなどの原稿整理機能、表記統一、誤用、送り仮名規準などをチェックする校正支援機能や校閲機能も備えている。
校正機能は、独自の形態素解析技術と講談社の辞書により高度なレベルを実現している。また、学年別の学習漢字の検出、自動ルビ付け機能も備えている。
文字表示は、情報処理推進機構(IPA)が提供しているIPAmj明朝フォントを採用している。5万字以上の文字(字形)が扱え、Adobe InDesign、EPUBへ文字情報を引き継ぐことができる。

完全原稿に近い校正済みのテキストを入稿することで、印刷と電子書籍の同時進行が可能になる。

出版社によるコンテンツファーストの実現

これまで、多くの出版コンテンツは印刷会社によるDTPデータが最終データとなるケースが多かった。
印刷データを再利用や2次利用するには、そのたびに加工や校正が必要になる。また、DTPデータから電子書籍への流用は不可能ではないが、ほとんどの場合2重校正が必要になる。作業フロー面でもコスト面でも合理的と言えるものではない。

完成度の高い原稿制作、コンテンツの一元管理を実現することで、印刷物と電子書籍の製作がよりシンプルとなり、費用面でも納期面でも大きなメリットとなるのは間違いない。コンテンツを多言語化する際にも、XML化されていることは有効である。

出版社自身による最終原稿(校正済みデータ)の管理、コンテンツ一元管理は大きなメリットがあり、今後の出版社のトレンドとなる可能性がある。

 (CS部 千葉 弘幸)

出版デジタル機構 新サービス『Picassol(ピカソル)』提供のお知らせ