人材の適材適所を実現する「社内FA制度」

掲載日:2016年11月9日

社内FA(フリーエージェント)制度とは、プロ野球選手のFA制度と同様、社員が就きたい業務への異動を希望できる制度である。自立的な社員育成や優秀人材の流動化を目的とする。成果主義や年俸制に並行して、社内FA制度も注目されはじめ導入する企業も増加している。

自ら希望する仕事への近道になる

社内FA制度は、基本的に社員による自主的な異動のため、モチベーションと組織活力を引き出すことができる。さらに、キャリアアップと適材適所の人材管理が両立できるメリットがある。一方、この制度を利用する社員に不利益が生じないように、上司の許可がなくても希望できるようにしたり、制度希望の有無を非公開にするなど、さまざまな配慮も必要だ。また、希望が叶わかった場合、社員の労働意欲が落ち込むリスクもあるので、合否の理由を明確に説明することが求められる。

従来、社内人事は経営資源である人材を生かすため、人事異動や配置転換という名目で社員の適材適所の実現に注力してきた。しかし、会社の体制など諸事情もあり、全ての社員のニーズを満たすことは不可能だ。また、社員の意にそぐわない異動によって、不満が増加することもある。それでも現実には、異動や転勤、昇進・昇格などは、会社からの辞令一つで行われている。

現在、企業を取り巻く環境は大きく変化し、社員の意識も多様化している。それにも関わらず旧態依然の人事を続けるだけでは、適材適所の実現は困難だ。そこで、社員自ら希望する仕事や部署に異動しやすい社内FA制度を採用する企業が増えている。一般的な各社の応募資格は、入社(または同一部署)数年以上の在籍など、条件を決めている。最近では社内FA制度による異動の範囲を社内部署だけではなく、関連会社やグループ会社にまで拡大し人材交流を活発にする動きも目立っている。

いま、なぜ社内FA制度なのか

価値観が多様化、成熟化した現代社会では、賃金などの外発的動機づけだけでは社員のモチベーションを保つことが難しいとされる。したがって、内面から起こる面白さ、奥深さによって行動する内発的動機づけが必要といわれている。内発的動機づけは、仕事は楽しく好きだと思わなければ効果は期待できない側面はあるが、外発的動機づけと比較して効果は期待できる。とくにクリエイティブ要素がある仕事では、その差が大きくなる。

企業には、社員がやりがいを感じ、創造性やヤル気を高められる職場環境の提供が求められる。まして企業競争力を高めるには、そのための施策がたいへん重要だ。したがって、人材の活性化、適材適所への迅速対応が求められるようになり、社内FA制度が導入されている。
また各社の持続的成長が実現しにくいなか、事業再編やM&Aなども数多く仕事自体が縮小、消滅することも少なくない。さらに、人事や処遇変更も数多くなり、頑張って仕事をこなしているだけでは、自分の理想とするキャリアパスを描くことが難しくなっている。

このように社内外で雇用が大きく流動化し、かつてあったような安泰な仕事や企業は存在しなくなった今、社内FA制度に期待がかかる。関西でも人事面を見ると売り手市場のなか、人材の採用や定着に課題を抱える印刷会社は多い。日本の3年以内離職率は、大学卒3割、高校(短大)卒4割にのぼる(厚生労働省調べ)。企業規模が小さいほど離職率は増加することを考慮すると印刷会社は中小が多いので離職率は高めだ。このような環境のなか、社内FA制度は、企業や社員にとって閉塞感を打開するきっかけになる可能性がある。

(西部支社長 大沢昭博)

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