クロスメディア考現学(19)

掲載日:2014年10月21日
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「写真」という表現手段におけるクロスメディアについて検証する。

 

 

クロスメディア考現学(19)
「TOKYO PHOTO 2014」で感じた「印刷」の役割
~フォトイベントで感じたクロスメディア~

 

 

2014年10月3日(金)から6日(月)まで東京ビルTOKIAで開催された「TOKYO PHOTO 2014」。
国内、海外の一流の写真作品が展示され、鑑賞するだけでなく、購入し所有する喜びを提供することで、日本のアートフォトの世界に新風を巻き起こしてきた。このイベントに出展したことで感じた「写真」という表現手段におけるクロスメディアについて検証する。

アジア最大のフォトフェア「TOKYO PHOTO 2014」

「TOKYO PHOTO 2014」は2009年から開催されており、ニューヨークやパリなど、世界の最前線と連動する写真市場を日本国内に創出するために発足されたフォトフェアである。
過去5回の開催を通して、国内外有数のアートギャラリーが集まる、アジア最大のフォトフェアへと成長し、6回目の開催となる今回は、東京丸の内の東京ビルTOKIAで開催された。

主催者である株式会社東京フォト委員会 代表取締役社長 原田知大氏によると、2008年に世界最大規模のフォトフェアである「パリ・フォト」で日本人フォトグラファーの作品もフランス人が次々に購入している姿に驚き、「海外主導ではなく、日本の写真は自分たちで発信したい」と決意したのが「TOKYO PHOTO」の始まりだそうだ。

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「写真というアートをより身近に、そして生活に根付かせ、写真に最高のステージを提供すること」を目指し、今年は文化庁支援による2つの特別企画「日本の写真とは何か?」「国際メディア・フォト・エキシビジョン」が実施された。

クロスメディアで構成された展示を実施

弊社の展示は、特別展の一つである国際メディア・フォト・エキシビジョンと連動するようなかたちでゾーニングした。

新しい電子雑誌の実証実験として2013年6月に創刊した『HEAPS』の特別号を、この「TOKYO PHOTO 2014」に合わせて特別編集して配信。iPadによる『HEAPS』特別号の展示と、この『HEAPS』特別号で取り上げた二人のフォトグラファーの作品を素材として展示を構成。

日本在住のDave Powell氏は独特の視点で日本の魅力を切り取り、ニューヨークを中心に活躍する徳山宗孝氏は、世界中のエージェンシーに籍を置き、企業広告、雑誌のフォトグラファーとして活動している。

デジタルサイネージを使ってお二人の作品をスライドショー形式で掲出するのに加え、高品質の8色のインクジェットプリンターで出力する「プリモアート」でも作品を展示。
また『HEAPS』特別号の小冊子をグラビア印刷とオフセット印刷で製作。この小冊子が来場者に予想以上に好評で、用意した300セットをすべて配布し終わった。
このようなフォトフェアに足を運ばれる方は、想像以上に印刷技術にも関心があることを感じた。

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写真 上3枚  Hiroki Ikesue

Dave Powell氏は弊社ブースにも頻繁に顔を出してくれた。彼の作品は彼のWebサイトSHOOT TOKYOで観ることができる。何気ない東京の風景がアメリカ人であるDave氏の視点を通すとまったく新鮮な感覚で写しだされて一つの物語が編まれている。

 「写真」というメディアの特性と「印刷」の可能性

4日間、弊社のブースで来場者の方と会話したが、日本語と英語による説明は半々ぐらいだった。どうしてこんなに外国人の方がフォトフェアに来るのかと思ったが、考えてみれば写真というメディアは言葉がなくても一瞬で伝わる翻訳不要のメディアであるということを改めて認識した。

写真と印刷は似て非なるものだ。多くの印刷物は、オフセット印刷でもグラビア印刷でも印刷という大量複製のために4色で再現されたものだ。よって写真が表現できるものと印刷で表現できるものはイコールではない。

しかし用紙やインキの選択、そして分解に代表されると印刷技術でできる限り高品質の印刷物を作り上げようとしてきた歴史がある。プロのフォトグラファーやアマチュアの愛好家も含めて印刷技術についてたいへん関心が高かったのはこうした歴史があるからだと言える。

弊社のブースの展示の中で、もっとも反響があったのは8色のインクジェットプリンターで出力したプリモアート。4色に加えて、特色4色も使って出力された作品について「私のカメラではこんな色は出せないのですけど、どうなっているのですか?」という質問もいただいた。

出版印刷や商業印刷ではこれまで紙による表現を追求してきたが、今ではさらにスマートフォンにタブレット、デジタルサイネージといったデジタルによるデバイスも加わってきている。

それぞれの特性を十分に理解した上でないと、単にメディアを横断しただけでは最適なクロスメディアとは言えない。クライアントの狙いや最終的な消費者、ユーザーにとってどのようなメディアを選択すれば心を打ち、目を引き、消費(目的)に結びつくのか?

クロスメディアというと、デジタルメディアを駆使することに重点を置かれることが多いが、アナログの持つ表現力の追求にも、まだまだ印刷会社として取り組む余地があるのだと感じた4日間のイベントだった。

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大日本印刷株式会社 ABセンター
池田 敬二

1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。趣味は弾き語り(Gibson J-45)と空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート、DTPエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア研究委員会委員長。JPM認証プロモーショナルマーケター。

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