DTPエキスパート四半世紀・・・資格制度事務局奮戦記(3)

掲載日:2017年6月20日
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JAGATは創立50周年となり、DTPエキスパートも「カリキュラム(初版)」を発行してから間もなく四半世紀を迎える。試験開始から約10年は受験者の拡大に対応すべく東奔西走したが、事務局奮戦記その3である。今回はその頃事務局に聞こえてきた噂やご意見、寄せられた要望などを取り上げて、時代を振り返ってみたい。

◆裏街道!からのご意見?
事務局奮戦記その1で書いたように、DTPエキスパート第1期試験は1994年3月に149人が受験した。それから3年後の1997年3月の第7期試験で、受験者は1071人となり初めて大台に乗った。同年夏の8期試験では1201人が受験し、年間で2000人を超えてくるのだが、受験者が増加するにつれ事務局への問い合わせもひっきりなしに寄せられ、その内容も千差万別であった。当時は資料請求などもWebやmailよりも電話がかかってくる方が多く、直接リアルな声を通じての対応に追わたものだ。

一方で、ネット上ではいわゆる「2ちゃんねる」にもDTPエキスパートに関するスレッドが数多く立ち、実は事務局も結構ウォッチしていたのであった。一番多かったのは「DTPエキスパートは役に立つのか?」といったこれから受験をしようか迷っているような人が立てたスレッドで、「あんなものは役に立たない」「国家資格じゃないので意味がない」「DTPに資格はいらない、経験だよ」と不要無用論が続く。「いやそれは誤解だよ」と思わず参戦したくなることもしばしばであったが、言わば裏街道に表から主催者が入っていくのは火に油を注ぎかねないと歯を食いしばった。すると「いや、とりあえず用語を一通り覚えられた」「知識が整理できた」「就職できた」という書き込みが現れ、収束に向かうと思いきや再び「あれはダメだ」とループを繰り返すのが常であった。ただ、否定派の人は実際に受験した人はほとんどいなく、有資格者と思われる人が肯定意見を述べていたので比較的安心して観察してはいたのだが。

匿名のメールで「○○会社では課題制作試験を外注している」といった告発が寄せられることもあった。ただ匿名の場合は2ちゃんねると同様に基本的に放っておいた。証拠もなしに「こんなメールがきましたが・・・」などつきつけたところで、実質的な対応のしようがないからだ。不正を容認するわけではなく、記名で問い合わせがあった場合には、きちんと調査をして対処したことも実際にあった。奮戦記(2)に記したように最後は受験者のモラルに任せるしか無いのではあるが。

◆素人がDTPエキスパートに挑む!
その後も受験者は増え続け、2002年8月の18期試験では1回の試験では最多数の2543人が受験した。その右肩上がりを支えたのは、初期の頃はビジネススクール等でDTPの講座が花開き、資格ブームと相まって業界外からの受験者がどっと増えたことが要因である。JAGATとしても当時は受験対策講座は外部に任せるという姿勢を貫いており、業界の底辺拡大という意味もあって一定の条件をクリアしたDTPエキスパート対策カリキュラムを「指定講座」という看板をつけるとともに、そのスクールを試験会場としても承認していた。(指定講座制度は現在も継続している)

そのため、全く業務未経験の人がスクールで学んで受験するケースが広がり、1998年3月の第9期試験から1999年8月の第12期試験までは業種別受験者割合で「一般企業・個人」が「印刷・製版」「印刷関連メーカー・ディーラー」「出版・デザイン」といった業界をおさえトップを占めていた。99年3月の11期試験ではなんと48%が業界外の人で、「印刷・製版」33.6%、「メーカー・ディーラー」18.8%、「出版・デザイン」5.8%を大きく突き放している。受験者の平均年齢もそれまで30台半ば~前半で推移していたものが、20台後半に下がった。

こうした未経験者も、趣味でDTPをやる人はまずいないであろうからプロを目指して勉強し、その証を資格という形で示したい。スクール側も、最後は生徒を就職させるという出口戦略に資格は有効と判断し、双方の思惑が一致してDTPエキスパートに挑んでくれる人が増加したのはありがたいことである。
その頃多かった問い合わせは「この資格をとるといくら位儲かりますか?」であった。主婦の方から「子供の手も離れたので、在宅でもできるというDTPという仕事に興味を持ち、ぜひDTPエキスパートを取得したいのですが、実際にどれくらい収入が見込めるのでしょうか?」といった電話がよくかかってきた。
もちろんDTPエキスパートに受験資格は設けておらず誰でも受験可能ではあるが、誰でも仕事で収入を得ることを保証するものでは当然ない。自宅でDTP環境を整えるのもそれなりに費用面も含め大変だし、第一仕事をどうやって取ってくるのだろうか?と頭上に“クエスチョンマーク”を浮かべながらも懇切丁寧に対応させていただいたものだ。もっともリクルート社の『稼げる資格』という資格紹介ガイドブックで大きく取り上げられたり、広告を出稿していたのだからそうした問い合わせが増えたのも自業自得か・・・。

◆DTPのスタンダードを目指す
受験者増加期の後半を支えたのは大手企業の取組と営業パーソンに広がった受験者層であった。最大手の印刷会社が「これからは一つのことしかできない専門バ●ではなく、深い専門知識と経験・スキルを備えつつ多様なジャンルについても幅広い知見を併せ持っているいわゆるT字型人材を育成する」との号令のもと、2000年の13期試験ころから全社を挙げて受験に取り組み始めた。
さらに、世の中のデジタル化が進むにつれ、営業職もデジタルを学ばないとビジネスチャンスを逃すということに経営者が気づき始めた。そこで、印刷業界のデジタル教育にはDTPエキスパートが最適だという理解が進み、大手企業の受験にもつられるように印刷会社のDTPエキスパートへの取り組みが拡大した。
印刷会社の部門別受験者割合で、初期のころはプリプレス部門が過半数を占め、営業部門は20~30%であったが、2000年8月の14期試験で初めて40%に達し2001年8月の16期試験では44.3%とプリプレス部門を上回った。

その頃、受験者増の立役者である指定講座からは「DTPエキスパートは学生にはハードルが高すぎるので“ジュニアエキスパート”あるいは“一級、二級”といったランク分けにしてほしい」という要望が寄せられた。また、業界からは「営業職には特に課題制作が難しいので、営業用の試験を作ってクラス分けしてほしい」という声が上がった。
どうすべきかJAGAT内部や認証委員会を通じて議論を重ねたが、結論はランク分けやクラス分けはしないということで決着した。DTPエキスパートカリキュラムはDTPに関する正しい知識の普及が大きな目的であり、その頃世の中にあまた流布されていたTIPSやノウハウの標準化を目指したものである。ランクやクラスなどを分けることはダブルスタンダードとなり自己矛盾に陥りかねないという判断からである。(つづく)

(CS部 橋本 和弥)