読まれる記念誌を作る

掲載日:2017年11月2日

2017年10月26日(木)に創立50周年記念のJAGAT大会を開催して、『JAGAT50周年記念誌』『印刷白書2017』と二分冊で発行し、お披露目をしました。『印刷白書』とあわせて読んでいただきたい。【50周年記念】

記念誌を作るまで

『JAGAT50周年記念誌』では、1967年から50年間、社会の変化に対応して変身し続けたJAGATの姿を時代ごとに区分けして、その軌跡を辿るとともに、これからのJAGATの活動の方向を紹介しています。JAGAT会員企業の皆様には、『印刷白書2017』とあわせて、無償配本させていただきます。

記念誌を作ることは、1年くらい前から漠然と決まっていましたが、実際に動き出したのは、page2017が終わった2017年3月からです。この時点で既に無謀なスケジュールでした。記念誌制作の経験者に訊くと準備期間に2年はかかるとのことなので、時間の余裕がなかったことがわかっていただけると思います。

なぜそんなに長い時間が必要なのかというと、そもそも昔の資料が散逸している、整理されたものが少ない、昔の写真がみあたらない、などが挙げられるようです。そんなことがあるものかと高を括っていましたが、実際には資料の整理に膨大な時間がかかり、残された時間の少なさを逆算して茫然としてしまいました。これは思った以上に大変な作業になると覚悟しました。

JAGATでは過去に何度か周年史を作ろうと準備していたこともあります。けれど、書籍の形式で記念誌として発行したことはありません。まとまったものを調べるところからスタートしました。

ブランディング戦略に活用する

神奈川県立川崎図書館は、“社史担当者のメッカ”ともいえる図書館で、社史が多く収蔵されています。印刷業界以外の社史や記念誌の類を見るには、こういった公共の施設を利用することもおすすめです。その昔、社史編纂室は閑職の代名詞のようにいわれていた時代がありましたが、いまでは自社のコンテンツの再発見やブランディングやマーケティングなどにも活用される、とても重要なポジションなのです。

しかしながら、いろいろな業種の社史を幾つか読んでみても確かにおもしろくない。なぜか。よく知らない会社の創業者の話はやはりどこか他人事に思えてしまうからだと思い至りました。それなら思い切って、写真集にするという選択肢もありました。でもJAGATにそんなにいい写真があるわけでもありません。

読んでみて面白い社史もありました。それらは社史そのものが何かの歴史を物語っているようなものです。JAGATに置き換えると、pageの歴史はそのままDTPの歴史とリンクします。page誕生の背景などを調べて掲載することは価値のあることだと思いました。

そこで、あえて「読まれる記念誌」を作ることを心掛けました。そのためには、ありきたりの記念誌とは別の手法を使うことが必要でした。JAGAT大会にあわせて『印刷白書』を制作しているので、それにあわせて姉妹編となる『記念誌』を作れば、読んでもらえると考えました。白書と記念誌がそれぞれを補完する関係の書籍を作ろう、それが今回の発行目的でした。

よくありがちな祝辞や協賛広告で誌面を埋めない。ビジュアルを用意して、分量も適当で、必要以上に華美なものにはしない。写真も昔のものが多いので、あえて修正するのではなく、そのままにしておいて時代の持ち味を活かしたい。

データの客観性、正確な数字、記録としての正当性など、本来はありとあらゆる手段を使って調べ上げるものなのかもしれませんが、JAGATの歴史を振り返ることで、印刷産業の変遷、技術から営業、経営、人材教育までを俯瞰し、次世代につなげることを主眼に置きました。

今となっては、創立当時のことを正確に記述するのは、至難の業といえます。開き直りと捉えられるかもしれませんが、正確性よりも時代のエネルギーのようなものを感じていただき、その中でJAGATがどのような役割をしてきたかを残したいと思いました。そのためになるべくわかりやすい表現にするように心がけました。その意味ではこれは正当的な記念誌・周年史の類とは対極にある別の書物なのかもしれません。

読まれるものにするために【印刷白書との関係】

本書では、歴史編ともいうべき「沿革」「年表」の部分を中心に縦組みにしました。印刷業界におけるデジタル化の総括(特にDTP)を核としたJAGAT事業を中心に横組みの読み物にして、左右どちらから読んでもいいように設計しました。左右両開きという変則的な組み方にしたのには、そのような意図があります。

縦書き部分については、沿革として歴史を綴っています。これまでのJAGATを振り返り、6つの期(前史、創立・揺籃期、成長期、確立期、転換期、そして新生期)に分けて解説しています。横書き部分については、pageやDTPエキスパート認証制度などが誕生した背景を中心にこれまでJAGATが何をしてきたか、またこれからもお役立ちするための決意を記述しています。

今回の記念誌は、JAGATらしさが出るように工夫を凝らしましたが、なかでも印刷白書と二分冊にすることによって、客観的な印刷白書と主観的な記念誌の両方を読むことでより理解を深めるように編集しています。

(1)白書が足元を見つめて未来へ/記念誌が過去・現在を中心に未来へ向けて
(2)白書が文字(文章)と数字(統計)中心/記念誌はビジュアルを混ぜた読み物
(3)白書が社会や産業全体の中での印刷業/記念誌はJAGAT事業から捉えた印刷の50年

沿革や年表を中心とした縦書きのものとは別に印刷業界におけるデジタル化の総括ともいうべき、横書きの読み物を作ったのも背景には以上のような意図があったからです。

JAGAT50年のうち前半は、活版からオフセットへの移行、つまり生産性を上げるための技術変革が中心でした。後半はDTPの歴史とリンクしています。そしてその軌跡は50周年を迎えた現在、次世代へのステップとして記録されるとしても、50年は通過点に過ぎません。

あるいは勘違いや明らかな間違いもあるかもしれません。できる限り原本や元資料に当たりましたが、漏れがあると思います。至らない点はお詫び申し上げます。初めに目指したものは、「やたら分厚くて、重くて、過剰に立派であるがゆえに、本棚に飾られて二度とみられないものにはしない」といったものでした。記念誌は読まれないというジンクスも破りたい。『印刷白書』と対にすることでお互いを補完できる資料にする、といったことでした。

どこまでやり遂げられたのか、心許ないのですが、白書と二分冊という当初の目的だけは果たせたと思っています。あとは読んでくださる方の判断にゆだねたいと思います。

(JAGAT 研究調査部 上野寿)

関連情報

『印刷白書2017』2017年10月26日発刊

『印刷白書2017』発刊記念特別セミナー
2017年11月27日(月)
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