印刷会社のM&Aと事業承継を考える

掲載日:2018年1月18日

事業承継の問題は、長年印刷業界ではタブー視されてきた。JAGATでも何度となく取り上げようとしてきたが、その度に躊躇していたのだ。その状況が一変して、組合でも真正面から取り組んでいるし、銀行や証券会社、M&A会社、等々が印刷業界をターゲットにしている。

印刷業界のM&Aというと、一番多いケースは「地方の有力印刷会社が、東京に拠点を得るために、会社と従業員ごと買収してしまうケース」だと思う。しかし、買収される側の業績が悪化しているケースも少なくないので、全て上手くいくとも限らないのだ。

そこで考えられるベストケースが、跡取り不在の場合だ。目に付くせいもあるか?と思うのだが、このケースが印刷業界では目立つような気がする。印刷業界の息子さんは優秀な方が多く、IT関係の会社に入って出世して、家業を継ぐ気はないという話は存外多い。もしくは医学部に合格してしまった話も聞く。

こんな場合は、株式会社(個人商店ではないという意味)としてドライに資本と経営は別とする事も考えられるが、むしろ大手の資本が入って、経営は生え抜き社員の社長にバトンタッチするというのは、意外にスッキリする手法である。カリスマ社長が急に病気になったりして、こんな着地が出来たらやっぱり幸せな着地と言えるだろう。

page2018ではJAGATとして初めて事業承継にフォーカスしたセッションを用意した。2018年2月9日のグラフィックカンファレンスG4「事業承継」だ。御登壇いただくスピーカーは、事業譲渡したオカムラ印刷とその時にバッファー役となったM&Aキャピタル・パートナーズである。それだけだと片手落ちなので70年間利根川家で経営してきた株式会社TONEGAWAの利根川英二社長にも御登壇いただき、様々な観点から発言いただく。

利根川社長は昔、M&Aの買収側だったこともあり、その時の実例も話していただくが、短期的には失敗かもしれなかったが、現在考えると大きな糧になっているというのである。現在のマーチング委員会のような仕組みにつながっているのだ。

そのマーチングも直接印刷ビジネスに関係することだけではなく、地方のワイン業者と懇意になる事で、酒類販売免許を取得して、異なる方向性のビジネスも考えているということである(既にスタートしている)。70年間、利根川家で経営を続けてきたので、老舗からの飛躍という意味もあるのだろう。そんな経験から「事業承継の問題点や飛躍のキッカケにするとはどういう事か?!」を成功や失敗例を紹介しながら議論するつもりである。

オカムラ印刷は昭和41年に江東区で創業した中堅の印刷会社だ。しかし、この規模の印刷会社が生き残るのは大変で、思い切って印刷部門を四国の広真印刷に事業譲渡して、電子書籍やIT関連を得意とした印刷会社に生まれ変わったのだ。設備が無くなっただけでも経営的には大分楽になったはずである。

その事業譲渡にはM&A会社(M&Aキャピタル・パートナーズ)がうまく機能して、結果的にWin-winの結果になったという成功例である。しかし良いことばかりではなく、実際にはドロドロした事も少なくない。そんな事例を本セッションではあぶり出して、事業承継の難しさ、しかし避けては通れないことを明示したい。オカムラ印刷の場合は、四国の広真印刷に事業譲渡したので、受け入れ側でも東京の拠点を得ることや生産設備の増設等ではプラス要因が大きかったはずだ。

問題点だけではない、メリットにも大きくフォーカスし、跡取りが居る場合でもM&A会社が入った方が、ビジネスライクに上手くいく事例、単なるメリットデメリットだけではない、面倒な手続きやしがらみ等についても明らかにしたい。

M&Aというと悪い方に考える人が多いかもしれないが、オカムラ印刷の場合には、上手く事が運んだということだ。その事例を紹介出来る範囲ギリギリまで明らかにする。

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