クロスメディア考現学(20)神保町フォークゲリラで感じたクロスメディア

掲載日:2014年12月2日
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電子書籍に「返品」「完売」はないが「面陳」はあるのではないだろうか?神保町フォークゲリラで感じたクロスメディアについて検証する。

 

 

クロスメディア考現学(20)
神保町フォークゲリラで感じたクロスメディア
~電子書籍で「面陳」は可能か?~

 

 

今年も秋の東京名物、神田古本まつり、神保町ブックフェスティバルが開催された。毎年恒例となった「神保町フォークゲリラ」の活動を通して感じた出版業界におけるプロモーション、マーケティング、そしてクロスメディアについて考えた。

全国から本好きが神保町に集まるイベント

神田古書店連盟による最大の年中行事である「神田古本まつり」は55回目を迎え、今年は10月25日(土)から11月3日(月・祝)まで開催された。約100店舗が出店し、出品数は100万点にも及び、全国の本好きたちが神保町に集まってくる。

この神田古本まつりと時期が重なっている11月1日(土)から3日(月・祝)まで、神保町ブックフェスティバルというイベントがすずらん通りで開催された。こちらは古本ではなく新刊書店と出版社のイベントで、24回目となる。

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本の街に毎年現れる「神保町フォークゲリラ」

2008年から神保町ブックフェスティバルの期間中に、すずらん通りにある東京堂書店前で、出版社や書店など出版業界関係者が「神保町は本の街」というオリジナルソングを大合唱するというイベントが恒例となっている。

詞の一部を以下に紹介する。

「神保町は本の街」作詞・作曲 扇好亭カマギター
ページをめくる音がする、ここは本の街 新刊書店と古書の街、ここは神保町
神保町の仲間たち、取次店に出版社 本のことならおまかせを、ここは神保町
 古本まつりにフェスティバル、日本のどこにも負けないよ
 探しものはどんな本、みんなで見つけてあげましょう

私も神保町に勤務していたので、昨年からこのフォークゲリラに参加するようになった。今年は定番の「神保町は本の街」に加えて、往年のフォークソングや歌謡曲を替え歌にして出版業界の悲哀を歌い上げるという試みにチャレンジ。「返品ブルース」「泳げ返品くん」「妻がいない」といった替え歌を1日3回演奏した。

 「今日の返品は辛かった あとは焼酎をあおるだけ♪♪」
 「きっと きっとくるさ ミリオンセラー その日にゃ 泣こうぜ 嬉し泣き♪♪」
 「いつまでも返すことなく面陳でいよう♪♪」
 「完売を夢見て 希望の道を♪♪」

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出版業界の悲哀や希望を歌った替え歌の数々が出版社、書店、取次会社といった出版業界関係者にはたいへん好評だった。

「返品」とは、出版業界における委託販売制度によって書店に流通された書籍が一定期間売れなかった場合に取次店に戻されることをいう。
「面陳」とは、書籍や雑誌の表紙を正面に向けて陳列する方法であり、棚に陳列するのと比べて、書店では格段に目立つ。その分、売り上げにも大きく貢献できるので、出版社の営業担当にとっては「面陳」の状態で書店に売ってもらうことは重大な課題なのだ。

電子書籍に「返品」「完売」はないが「面陳」はあるのでは?

神保町フォークゲリラの模様を、フェイスブックやYouTubeにもアップした。
電子出版の交流イベントePubPubでも歌って欲しいとリクエストがあったので歌った曲の数々を再現。演奏して思ったことは、電子出版には「返品」もないが「完売」もない。そして「面陳」もない。

興味深かったのはフェイスブックで「電子書籍交流イベントePubPub@吉祥寺には『返品』も『完売』も『面陳』もないなあと思ったのでした。」と書き込みをしたら「面陳はあるかな?と思ってますけど」というコメントがあった。

私も「返品」「完売」は電子書籍にはないが、「面陳」というのは、電子書店のページでの露出方法やソーシャルメディアを使えばあり得ると感じる。
そして、その違いと共通点にこそ、クロスメディアビジネスのヒントがあるようにも感じた。ソーシャルメディアやブログの書評などで書籍が紹介されるという状態は、人々に対して注目されやすいという意味でソーシャルな「面陳」が実現できているのように思えるのだ。

出版業界では、書籍の目利きである書店員による手書きのPOPが売り上げを左右し、ベストセラー創出に貢献している。「面陳」に加えて書店員の手書きによるPOPは確かに目を引き、書店員の想い、情熱が伝わってくる。

ソーシャルルメディアが購買行動に大きな力を持つようになった今、どのような手法で書籍のマーケティングを行い、プロモーションを打つことが有効なのかは、まだ実験が始まった段階といえる。

電子書籍で書籍の一部分を無料で試し読みしてもらって、面白そうだと判断してもらった読者には紙の書籍版を買ってもらうという手法もある。これは出版業界に限った話ではない。

どのようにすれば読者、消費者に主体的に購買というステップに進んでもらえるのかということでは同じだ。デジタルでプロモーションから購買まで完結することも考えられるが、アナログの印刷媒体が力を発揮する場面もまだまだ残されている。

出版業界でもポスター一枚で雑誌の売り上げが大きく左右される。人間の消費行動を刺激するものとは何なのかということを真剣に検証し、ビジネスに活かすことこそ印刷業界が取り組むべきクロスメディアビジネスであろう。

大日本印刷株式会社 ABセンター
池田 敬二

1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。趣味は弾き語り(Gibson J-45)と空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート、DTPエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア研究委員会委員長。JPM認証プロモーショナルマーケター。

Twitter : @spring41
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