【DTPエキスパートカリキュラムver.13】[コミュニケーション]5-1 情報デザイン

掲載日:2018年11月1日
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人と人とのコミュニケーションでは、情報をわかりやすくデザインし伝えることが重要である。情報をあるコンテクストの中に置くことにより、価値のあるかたちへと可視化し再構築することが情報デザインである。
情報デザインプロセスには、以下の6段階がある。

デザイン計画

デザインの目的を明確にし、そのプロセスと体制、スケジュールなどについて検討する。デザインの質と実施に関する全体的なディレクションが求められる。

デザイン情報の収集と整理・分析

ユーザー、対象物、ビジネス環境等の情報を収集し、各種集計・分析手法を用いて情報を整理するとともに、デザインにあたって何にフォーカスすべきかを決める。

ペルソナ・シナリオと目標の設定

デザインの目的やコンセプトを明確にするために、調査で示された典型的なターゲットユーザーであるペルソナを設定する。また、その生活行動や利用パターン、思考、感情等をシミュレーションしストーリー化するシナリオを設定する。これにより、異なる立場の関係者間でイメージやビジョンを共有するとともに、効率的で精度の高い検討を進めることができる。目標の設定にあたっては、各種発想法とともに論理的に課題解決策を導き出す。

コンセプトの検討と視覚化

調査により明らかとなったユーザーニーズの構造を元に、ニーズを満たすためのデザインはどのようにあるべきかを検討し、視覚化する。構造の明確化(フレーミング)からニーズを満たすためのリフレーミングを行う。

詳細デザイン仕様

実装可能な詳細デザイン仕様を策定する。技術的な実現性を含めて検討する必要がある。

デザイン評価とフィードバック

実用化したデザインがどのように市場に受け入れられているのかをユーザー調査等で明らかにし、その評価とともに今後の対応への提案に結び付ける。

印刷物をはじめとしたメディア制作業務では、「コンセプトの検討と視覚化」および「詳細デザイン仕様」にあたるプロセスが主な業務領域となる。

5-1-1 情報の構造

1つの要素(単体)では価値は低いが、関連するものを1つにまとめたり、まとまった情報の関連性を見出したりすることで、新たな価値を生むことができる。また、既にまとめられた情報を新たな視点で再構築することで、当初とは異なる価値を生むこともある。
情報の構造化とは、複雑な事象を体系的に捉えることで理解可能なかたちに再構築することをいう。

情報の組織化

  • 情報の組織化とは、何らかの軸や基準に沿って情報を分けたりまとめたりすることであり、情報の塊としての働き・意味を見出すように再構築することにつながる。
  • 米国の建築家リチャード・ソール・ワーマン(Wurman, Richard Saul)がLATCH(5つの帽子掛け)という情報の組織化を提唱した。
  • LATCHは次の5つである。
    ― Location(位置):地図やエリア等でまとめる。
    ― Alphabet(アルファベット):順番や順序等でまとめる。
    ― Time(時間):時系列や時間軸等でまとめる。
    ― Category(分野):科目や範囲、関連等でまとめる。
    ― Hierarchy(階層・連続量):大小、重要度等でまとめる。

情報構造の種類

  • 情報の一要素は他の要素と何らかの関係性を持たせることができる。
  • この関係性は7つの種類に分けることができる。
    ― 線形構造 順序があり直線的な流れを表す。
    ― 階層構造 カテゴリ等の上下の関係を表す。
    ― 並列構造 時間軸や空間軸等において別々の情報が並行に並ぶ関係を表す。
    ― 行列構造 縦横2方向の直線的な情報を表す。
    ― 放射状構造 情報同士がさまざまな関係を表す。
    ― 重ね合わせ構造 情報同士を重ね合わせる関係を表す。
    ― 拡大構造 元の情報から一部を拡大して詳細な情報を表す。

5-1-2 エディトリアルデザイン

情報やメッセージを他者に伝えるには、視覚に訴えることが有効である。情報をより正確かつ効果的に伝えるために、さまざまな素材や手法を駆使して紙面をはじめとしたメディア上で情報の視覚化を図ることがエディトリアルデザインである。

レイアウトデザイン

  • レイアウトデザインの役目は、文字や図版など要素の配置、組み合わせによってある印象を演出することである。
  • レイアウトデザインは、誰に向けてどのような情報を伝えるためにどのように視線を誘導するかという意図をベースに行い、偶然に頼るのではなく、グラフィックデザインの系統的な展開法を学んで活用する必要がある。
【代表的レイアウト手法】
  • シンメトリー:左右対称な構図はバランスのとれた安定感のある印象を与える。
  • アシンメトリー:非対称の構図をあえて採用することにより、斬新な印象になる。
  • ムーブマン:静止している平面の中に動きを感じさせる表現のことであり、方向性が備わっている要素を用いたり、遠近や時間経過をイメージさせる配置をしたりすることで効果を演出する。
  • 整列:複数の要素をある基準線を設けて揃えて配置することにより、視線を誘導し情報を認識しやすくするとともに、統一感・安心感を与える。
  • バランス:要素の大きさ、配置、色などにより、紙面上の均衡を保つ。
  • リズム:要素の連続・繰り返しにより軽やかで心地よいテンポを感じさせる。
  • 破調:一定のリズムやバランスがとれている状態の一部をあえて破壊する、またはアクセントをつけることにより、メリハリや深みを演出し、視線を惹きつける。
  • 量感:色や写真、字形や書体などの複合的要素により、体積や容積、重さから実在感、立体感などを感じさせる。
  • 黄金比:約1対1.618の比率で描かれた長方形は、そこから正方形を除いても常に同じ縦横比となる。この比率は最も安定した形状を作るとされる。
  • ルート比率・白銀比:辺の長さが1対√2の比率の長方形は、長辺を半分に分割しても常に同じ縦横比になる。A判、B判の用紙はルート比率になっている。
  • ホワイトスペース:デザイン的必然性を持って設けられる紙面上の何もコンテンツの置かれていない部分をいう。
  • ジャンプ率:紙面を構成する要素の大小差のことをいい、メリハリや訴求効果、平易で落ち着いた印象などをコントロールする。
  • 配色:目的に合わせて色を配置することであり、紙面デザインにおいては、ターゲットと内容を理解し、色のもつ心理的効果なども踏まえて効果的に用いる。色合いを示す「色相」、鮮やかさを表す「彩度」、明るさを表す「明度」の三属性を人間の感覚で等間隔に分割し表現したマンセル表色系などを用いて調整を検討する。
  • 視線誘導:情報を効果的に伝えるためには、読み手の「目の流れ」を意識する。目の流れの原則は、横組みの場合は左上から右下へ、縦組みの場合は右上から左下へという流れが大原則となる。
  • アイキャッチ:誘目性の高い素材により読み手に興味を持たせる。またどの素材から視線を誘導したいか、情報の優先順位をつける役割として用いる場合もある。

グリッドレイアウト

  • 活版印刷時代の画一的な紙面レイアウトに対して、非対称なグリッドをベースにした印刷紙面制作の考え方がバウハウスとともに出現し、デザイナーが最初にレイアウトを作成するという流れが生まれた。
  • グリッドはデザインを簡単に反復できる機能をもち、作業者が異なったり、作業する時間が異なったりしていても複数の紙面を同じように見せることができる。
  • 同じ考えのグリッドをベースにすれば、サイズや印刷様式、色などが異なる多様な印刷物において、例えば1つの会社の「コーポレートアイデンティティー」といった様式や意匠を維持させることができる。
  • グリッドをベースに、本文テキストとイラストや写真、見出し文字を整列させてかっちりしたイメージにすると同時に一部を強調することで読者の理解の一助となる。

5-1-3 インフォグラフィックス

  • インフォグラフィックスとは、複雑な内容や物事の仕組みなどを把握整理し、見る人の立場に立って視覚的な表現でわかりやすく伝えることである。
  • ある事象を読み解き、その理解のプロセスをビジュアルで示す、「理解のデザイン」ともいわれる。代表的な例としては、ダイアグラム、チャート、グラフ、地図、ピクトグラムなどがある。
  • 新聞や雑誌などのニュースメディアにおいて、これらを図解説明する必要性から発生した視覚表現手法であり、現在では、ユーザー視点でのGUI設計などプロダクトデザインに関する分野、バリアフリーなどの場のデザイン、サインディスプレイなどを通して、わかりやすさ、使いやすさを追求する手法の一つとしても活用されている。また、ネットワークによる情報量が増大する時代において、ビッグデータを意味のある情報として読み解き、表れる事象を視覚的に表現するデータビジュアライゼーションなどにも応用の幅を拡げている。

5-1-4 ユニバーサルデザイン

  • ユニバーサルデザインとは、すべての人のためのデザインを意味し、国籍や年齢、障害・能力の如何にかかわらず利用できるようなデザインを目指すものである。
  • ユニバーサルデザインは、(1)公平性(2)自由度(3)単純性(4)わかりやすさ(5)安全性(6)省体力(7)スペースの確保、などの考え方が基本となっている。
  • ユニバーサルデザインで特に重要なのは、視認性や判読性、デザイン性、可読性である。
  • 年齢による視覚感度の低下や色弱者に配慮したカラーユニバーサルデザイン、言語に依存せずに情報や注意を示すピクトグラム(「絵文字」「絵単語」)などの視覚記号、読みやすさやシンプルさを考慮したUDフォント(ユニバーサルデザインフォント)の使用なども有用である。

5-1-5 メディア特性

  • コミュニケーションは、メディアの特性を捉えてその特性に沿った情報発信をすることにより効果を増す。多様化する各メディアの特性を捉えた上で、対象や状況に応じたメディアの選定とコンテンツ展開を計画するコミュニケーションデザインの観点が不可欠となる。

クロスメディア

  • クロスメディアとは、ある情報について、文字や音、映像などのさまざまな素材と、印刷やインターネットなど、複数のメディアを用いて効果的な伝達を行う手法である。インターネットとそれに対応したモバイル端末が普及するに従い、複数のメディアを横断的に使用する手法が一般化している。

紙メディア

  • IT技術の進歩に伴って情報伝達の手段が多様化しているが、紙メディア(印刷物)には、さまざまな利点があり、重要な媒体として位置づけられる。
  • 紙メディアは、サイズをさまざまに変えることができるのでB全ポスターからチラシやペットボトルなどに貼る小さいシールまで幅広い用途に対応できる。形状も多様に変えることが可能で、多角形、円、不定形、折ることで立体的にすることもできる。また、使われる場ごとで要求される大きさに応じて折る、丸める、などが可能で、携帯性に優れている。
  • 紙メディアは、インタフェースに関しては、使うために特別な道具を必要とせず、子供から大人まで、いつでもどこでも利用できるメディアである。
  • 紙メディアは、文字や写真、イラストはもとより、他の方法でも情報伝達、配信ができる。例えばJANコードに代表される一次元バーコードを印字すれば、商品管理機能の一端を担わせることもできる。
  • 携帯電話やスマートフォンなどモバイルのリーダーからも読み取りが可能になったことで、紙メディアは情報収集のツールとしても考えることができる。二次元コードを印字すれば、インターネット経由でサーバー上のコンテンツや各種の仕掛けにアクセスさせることができる。
  • 個別ニーズの把握・分析が要求されている現在、商品ごとや個人ごとの紐づけを紙メディアへ付加することで、その分析端末とも考えられる。このように、紙メディアは先端技術との連係も可能である。マスメディアだけでなく新しい情報媒体が現れている中、「紙メディア」がネットワークの中心になることも可能である。
  • 新聞折り込みのスーパーマーケットのチラシは、読み手の第一印象や視線を測って設計され、多くの情報が載っている。このようなものをWeb上へ置いた場合、掲載できる情報量は半無限であるが、読み手が一瞥できる範囲は比較的小さい。折り込みのチラシはテレビ、ラジオのマス広告とは異なり、対象地域を絞り込んで重点的に宣伝できる。またチラシからWebページに誘導するためにWebページのアドレスを印刷して紙メディアと電子メディアのそれぞれの利点を活かそうとする方法もある。
  • 環境問題が叫ばれる現在では紙の素材も多様になってきている。CO2削減に向けた動きとともにCSRと密接に関わった環境配慮の姿勢からエコに通じる紙の選択が増えている。代表的なエコ用紙には、リサイクル用紙(再生紙)があるが、最近は環境対応用紙としてケナフやバガスなどの非木材系の紙を使うことも多くなってきた。
  • カーボン・オフセットとは、企業活動や商品製造等によって排出してしまう温室効果ガス排出量(二酸化炭素)のうち、どうしても削減できない量の全部または一部を、他の場所での排出削減・吸収量で埋め合わせする仕組みである。発生してしまった二酸化炭素の量を何らかの方法で相殺し排出を実質ゼロに近づけようという発想である。

デジタルメディア

  • デジタルメディアの特長として、1)双方向性、2)速報性、リアルタイム性、3)検索性の高さ、4)再利用、再編集の容易さ、5)情報量の制約が少ない(大容量のデータが扱える)、6)配信コストが安い、などが挙げられる。
  • SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)は、インターネット上で提供される、利用者を限定したコミュニティー型の情報サービスで、代表的なものにFacebookやmixi、Twitterなどがある。こうしたサービスの総称をソーシャルメディアという。マスメディアに匹敵するほどのユーザー数を持つようになり、広告・販促活動やECへの影響力が増している。
  • 無料で誰でも始められるという手軽さもあり、商品の情報をFacebookで写真付きで紹介したり、セール情報をTwitterでツイートして誘客する店舗も多い。
  • O2O(オー・ツー・オー)とは「Online to Offline」を略した言葉である。オンラインからオフラインへ、とはすなわちインターネット上での集客を実店舗へ誘導することを指している。このキーワードを耳にする機会が近年増えた背景には、スマートフォンの普及とそこで動作するアプリ、ソーシャルメディアを組み合わせやすくなったことがある。
  • オムニチャネルのオムニ(OMNI-)は「すべて」とか「広く、あまねく」という意味があり、インターネットや実店舗など、あらゆる顧客との接点を連係させて拡販するマーケティング戦略を指している。具体的には、小売業などで実店舗とテレビショッピング、テレビCM、カタログ通販、Eコマースや商品の情報ページ、SNSなど、あらゆる顧客接点を連係させて販売につなげようとする考え方や施策をいう。
  • 顧客が商品を認知して、購入を検討し、実際に購入するまでのプロセスで、どのチャネルを経由して販売店側にアプローチしても、不利益を感じることなく買い物ができる環境を提供するというのが基本コンセプトである。