【マスター郡司のキーワード解説2018】表面自由エネルギー

掲載日:2018年12月27日

今回は「表面自由エネルギー」について取り上げる。

JAGAT 専務理事 郡司 秀明

表面自由エネルギー

「表面自由エネルギー」という単語には馴染みのない方も多いと思うが、表面張力と同意語と考えていただいて差し支えない。印刷では紙以外のフィルムなどに印刷する場合には、水性インクに界面活性剤を混入させて濡れやすくしたり(IGAS2018の花王ブースが代表)、フイルム面にコロナ処理を施して(IGAS2018ではデジタル印刷機メーカーやコロナ処理専業メーカーが展示)、インクを定着しやすくしたりすることが必要になる。紙に対してのコート処理もこの延長線上にあると言える。しかし、インクジェット印刷用紙のコート剤はインクが飛び散らないようにして(滲みを防止して)品質をアップすることを主目的に使われる。

印刷するという行為で対価を得ようとする場合、紙に印刷する対価が著しく安くなってしまったため(オフ輪などは顕著)、レッドオーシャンの紙からもう少し競争の楽なブルーオーシャンを求めて、フレキソ印刷やクリアファイル印刷へ触手を伸ばす印刷会社も少なくない。

界面は科学用語であり、その定義をしておく。界面とはある均一な液体や固体の相が他の均一な相と接している境界をいう。そのうち均一層の一方が液体や固体で、もう一方の均一相が気体の場合、その界面を表面と呼ぶのである。

その固体表面が親油性だったり、親水性だったりすることで画像部非画像部を形成し印刷に応用したのが、平版(リソグラフ)である。俗に言う濡れやすさ濡れにくさだが、PS版(CTP版)の画像部に水を垂らしても表面張力が大きくなって、蓮の葉の上の水滴のように丸くなってしまう。濡れにくい状態ということだ。

濡れやすい濡れにくいというのはA(固体)対B(液体)ということなので、その組み合わせにもよるのだが、濡れやすい濡れにくいは、単純に固体に対しての液体が表面張力で水滴化した接触角で表現することができる。図1のようにだが、50度より小さい場合には濡れやすい。50度より接触角が大きい場合には濡れにくいと考えて良いだろう。

オフセット印刷の版材は、昔は亜鉛板で今はアルミ板が使われている。現在は良質のアルミが安価で手に入るようになって、ほぼ100%アルミ板が使われている。理由は、もともとアルミが水に濡れやすい性質を持っているので、親油性の画像部だけ作れば、簡単に印刷版の画像形成ができるということである。

アルミの地板だと水に濡れやすいが、アルミ合金の自動車でも塗装して、かつワックスを塗れば蓮の葉っぱのように水滴をはじくようになる。濡れにくくなるということである。濡れやすい場合に起こる物理現象として昔から知られていたものに「毛管現象」がある。

毛管現象とは、液体中に入れた細い管の内部で、液面が外側の表面より上昇する現象である。この作用は液体が固体表面をよく濡らすほど強く、また隙間が狭いほど強い。 このような状態(濡れやすい濡れにくい)を物理量で表せないか?と、昔から科学者が研究して「表面自由エネルギー」という概念を作り出したのだが、素人には表面張力の方が分かりやすいだろう。単位面積当たりの表面自由エネルギーが表面張力なのである。

一般的に表面張力と濡れの関係は、
・液体の表面張力<固体の表面張力のとき、接触角が小さい (=濡れやすい)
・液体の表面張力>固体の表面張力のとき、接触角が大きい (=濡れにくい)
が成り立つ。

印刷業界は、紙の挙動についてはコート剤の知識も含めて、紙の水分含有量コントロール(シーズニング)等の知識は豊富だと思うが、被印刷物が紙以外の対象が増えてくると、フィルム等への印刷の基礎をもっともっと学んでいかねばならない。そのための第一歩として表面自由エネルギーを数式無しで紹介してみたのだが、学生時代に訳の分からなかったことを思い出した方もいらっしゃると思う(画像工学関係の勉強をした方は経験があるはず)。もっと若かりし頃、机の表面ってどうなっているのだろう?と考えたことはなかっただろうか?「どこから机で、どこまでが空気なのだろう?」を考えていくと、壁をすり抜けることもできそう?と、ついついメルヘンチックになってしまう。

(JAGAT専務理事 郡司 秀明)

(会報誌『JAGAT info』 2018年10月号より抜粋)