印刷の効率化は乾燥にかかっている

掲載日:2014年6月23日

印刷の効率は乾燥にかかっているといっても言い過ぎではない。一昨年からブームだったUV印刷に加え、昨年末からは水を絞ることが注目されている。 印刷業の今後のビジネスは小ロット化をキーワードにギャンギングやWeb to Printに注目が集まるのには間違いがないが、この辺のソリューションを実ビジネス化するためには、やはりある程度の体力や規模が必要である。オフセッ トで小ロットビジネスに対処するには、ある程度の仕事量(ジョブ数)がないとメリットは出てこないということだ。ここまで仕事量(ジョブ数)が集められな い会社は小回りを活かしたデジタル印刷か、電子書籍制作を中心にした展開をした方が良いかもしれない。 企画力(アイディア)や技術に自信がある会社はWebやソーシャルをフルに活用してビジネス展開する方法もあるが、ハードルは決して低くない。IT会社が ライバルになるので強敵だし、マーケティング領域に踏み込まないとビジネス化は難しい。また、フルフィルメント、つまり包装や配送で儲けるというビジネス モデルも重要な柱になるはずだが、こちらもある程度の規模がないとメリットは出難いだろう。 2012年末から2013年にかけて、アナログ印刷機のいわゆるオフセットオンデマンドというUV印刷の応用型というべきものが注目されていた。要するに 日本人の器用さで、本来デジタル印刷機でないと無理だといわれていた小ロット短納期の世界にもアナログ印刷で対処してしまおうということなのだが、UV印 刷というのはすぐ乾くというか固まってしまうため、ドライダウンが起こらないので色も安定しているという良いことが多い(良いことづくしとまでは行かない までも)のだ。乾燥だけ見たら水性インキジェットよりも優れているといえるだろう。印刷技術において、インキの過乳化も含めて乾燥の問題は非常に重大であ る。コストだけを見れば、UVインキは高くなるが、これをITの力でコストダウンしていこうというのが、UV印刷における課題解決方法である。 しかし、2013年末から水を絞りに絞った「速乾印刷」というキーワードが注目されている。今までは水持ちの良い版(砂目)が良いとされ、刷りやすく総合 的に見てもメリットが大きいといわれていたのだが、日本AGFAがこれを逆手にとって「水を上げ過ぎずに、絞って印刷するとこんなに良い事がありますよ」 と宣伝し始めたのだ。もちろん水持ちの良い版でも水を絞って印刷すれば同じなのだが、ついつい楽なものだから水を多めにしてしまうことだって有り得る話で ある(?あくまで逆説的だが)。 湿し水は、印刷人にとって永遠のテーマであり、その薀蓄は「アナログ的価値観に満ちたノウハウ」というのが正直な感想であった。水持ちの良い砂目、つまり マルチグレインが発表されたときは、「印刷の工業化に向かうベクトルに沿ったものだ」と心底感心したものだが、現在言われている「水を極限まで絞るという のは、高度な職人的スキルの集大成」と言える。 水と乾燥時間の関係も明らかになっていない部分も多い。例えば水を多くすると湿気が多くて乾燥しにくくなるのではなく、ベタ濃度が低下し、その分インキを 盛らざるを得ないので結果的に乾燥時間が長くなるというのが本当のところのようである。水成分にしても純水にこだわったりもするが、現時点では湿し水を 使った方がはるかに安定する。湿し水の成分やインキの組成や紙が改良されて、今より格段に安定した印刷が手軽に出来ることを期待するしかないだろう。かつ てはドットゲインだって(欧)米では、ドットゲインが本機に合わないと(平台)校正機が嫌われていたのだが、現在の印刷機のドットゲイン量はかつての校正 機のドットゲイン量にどんどん近づいている(少なくなっている)。 しかし、現在の印刷業界を冷静に考えると、難しいというのは悪いことばかりではない。逆説的に言えば「簡単に物まねできない技術」といえるからである。し かし、普通の会社がやるには、リスクを伴ってくることは忘れてはいけない。UVだって水を絞らなければ、UVインキ内に水分があるうちに固まってしまい、 油性インキ以上にトラブルが発生するといわれている。これは間違いではない。 何度も言うように水を絞れる会社がこの「速乾印刷(乾燥促進印刷の方が正確な表現か?)」をPRするのは、決して悪い話ではなく、水を極限まで絞れば、薄 紙や合成紙でも印刷が出来るのだから大きな宣伝文句になるはずである。そして、そう簡単には真似できないというのも技術を誇る印刷会社ならではの差別化で ある。 水を絞るというのは印刷技術の基本であり、もう一度真剣にチェックし直すことは重要なことである。テキスト&グラフィックス研究会では7月15日に「速乾印刷を科学し、そのメリットを検証する」と題して、水を絞ることのポイントを徹底的に分析する。ぜひ聴講いただきたい。

(JAGAT 理事 郡司秀明)