クロスメディアエキスパート論述試験 提案書における重点ポイント

掲載日:2019年5月16日
このエントリーをはてなブックマークに追加

2019年3月17日(日)、第27期クロスメディアエキスパート認証試験が実施された。第2部の論述試験は、架空の企業に関する与件文を読み、顧客の課題を解決するコミュニケーション戦略の提案書を140分の制限時間内に作成するものである。

8ページほどの与件文には、ある企業の事業推移や市場環境、競合企業の動向などが記述されている。提案先企業の課題を適切に理解し、課題解決をおこなうコミュニケーション戦略を提案することが求められている。

出題テーマと内容

出題テーマは毎回、さまざまな分野が取り上げられている。近年のテーマは以下のようになっている。

・コインランドリーの機器販売、運営(26期)
・農産物直売所の運営(25期)
・ハウスウェディング事業(24期)
・マンションリノベーションの設計・施工(23期)
・知育玩具の製造・小売(22期)

新規事業や新たなサービス提供に際して、コミュニケーション戦略を模索しており、効果的なクロスメディア提案を求めている、という設定である。

今回(27期)のテーマは「オーダースーツを製造・販売する企業」という設定であった。

提案書作成における重点ポイント

提案書の採点においては、以下についての記述が重要視されている。また、これらのポイントは実務上でも有効である。

今後、取り組む際には、このような点に留意するとさらに完成度が上がるだろう。

(1)コンテンツ

Webサイト、冊子・フリーペーパー、チラシなどどのメディアを使用するにしても、どんなコンテンツを発信するかが重要である。

Webサイトの改定を行うのであれば、どのようなコンテンツを誰に向けて発信し、どのような効果を狙うのか。訴求力のあるコンテンツをどのようにして準備するのか。Webサイトの閲覧を増やすための施策は何か、というシナリオは必須である。

コンテンツの企画・編集、制作費用は適切かどうかも重要である。

(2)メディア選定理由が不明確

メディア選定理由を問う設問があり、なぜそのメディアが適しているかを回答することが求められている。つまり、メディアの特徴(長所・短所)を正しく認識し、それを活用しているかどうかが問われている。

(3)提案書の挨拶文

挨拶文であるため、分析・評論するような文体は避けるべきである。例えば、顧客の業績や状況に関する認識を表現する場合、リスペクト感が伝わるような記述が望ましい。

(4)提案内容は消費行動モデルを意識する

消費者・生活者の心を動かすには、消費行動プロセスモデルに即した方法が有効である。

インターネット時代に有効とされるAISASモデル(注意・関心・検索・行動・共有)やAISCEAS(注意・関心・検索・比較・検討・行動・共有)に即した施策は効果的である。また、SNSやコンテンツマーケティングの動向に即した消費行動モデル(SIPS、DECAX)も有効である。

提案書の施策説明として、消費行動プロセスにおける位置付けを含めることで、説得力を高めることができる。

さらに、採点基準にはリピートを促す仕組みがあるか(関心を高める)、双方向コミュニケーションがあるか(共有・拡散を促す)も含まれている。これらも加点ポイントとして意識する。

(5)コミュニケーション施策の全体設計と自社の強み

例えば3つの課題に対して、バラバラに施策を立て、それらを並列で実施するだけでは大きな効果を期待できない。全体設計があり、複数の施策の連係によって一つの目的に向かっていくような記述があると相乗効果も期待できる。施策のまとめとして、全体設計を示し、全体の流れや効果を記述すると良いだろう。

また、自社の強みをアピールすることも重要である。いくつもの提案の中から自社の提案を採用することが、もっとも適切で効果的であることを伝えなければならない。

(6)スケジュールと費用

スケジュールは費用算出の根拠ともなる。実務上でも、工数配分をベースに費用を算出することが多い。スケジュール上の規模感が、結果的に費用に反映されていると提案の妥当性が増すと言える。

例えば、企画・設計の期間や費用を適切に見込んでいるか、Webサイトの維持・改善の工数を見込んでいるかどうかなども、妥当性を示すポイントだと言える。

印刷物を使用する場合、原稿を受領してデザイン制作をするのではなく、印刷物の企画・原稿執筆・データ制作を含める必要がある。さらに、印刷・製本して納品することがゴールではなく、エンドユーザーへの配布方法や費用を見込む必要がある。

(7)競合他社との差別化

コミュニケーション施策において、提案先とその競合他社との差別化は、もっとも重要な項目である。「競合他社との差別化」のための提案と言い換えることもできるだろう。

すべての施策が、最終的に「競合他社との差別化」となる提案でなければ、採用されることにはならない。提案書の中で強調されていなければならないポイントである。

「デジタル×紙×マーケティング」のスキルとは

現在の印刷企業には、デジタルメディアと紙メディアの強みを組合せ、クライアントの課題を解決すること、つまり、「デジタル×紙×マーケティング」が求められている。

このようなビジネスを成功させるには、上記のような提案力を身に付けることは必須だと言える。

(研究調査部 千葉弘幸)