【マスター郡司のキーワード解説2020】サーキュラー・エコノミー(その弐)

掲載日:2021年1月28日

今回は「サーキュラー・エコノミー」について考える。

JAGAT 専務理事 郡司 秀明

サーキュラー・エコノミー(その弐)

 JAGATでは、さまざまなイベント(今期に入ってからはウェブイベントばかりだが)を催しており、「サーキュラー・エコノミー」も題材になるかなと思って調べ始めていた。ところがコロナ禍が本格化してしまい、「もったいないより金をくれ」に変化しそうだったので、少し考え直して2020年10月30日から11月8日にストリーミング配信される「JAGAT地域大会オンライン(通称:Web JUMP)」(https://www.jagat.or.jp/webjump2020)のメイン講師には、『小さくても勝てる』(中公新書ラクレ、図1)という本を執筆した平井伸治鳥取県知事に登壇をお願いすることにした。

 平井氏は開成中学・高校、東大法科、総務省(入省当時は自治省)と、列挙しただけでもそのエリートぶりが分かる方なのだが、偉そうな言い方をまったくなさらない、庶民的な物言いの御仁である。それを裏付けるようにダジャレがお好きで、鳥取県を称して「スタバはなくてもスナバはある」「ドンキはなくてもノンキに暮らせる」「セブンイレブンはなくてもイイキブンに暮らせる」等々、有名なフレーズは枚挙にいとまがない。本稿執筆の直前、都道府県会館で対談・ビデオ収録してきたのだが、「カニはあるけど金がない」と相変わらずの絶好調で、無事に対談を終えることができた。平井知事の発信力は大したものなのだが、卑屈にならず積極的に発言していくことのポジティブさが何よりも大事だと、強く感じた次第である。地方の印刷会社もこの積極性こそ真似しなくてはいけないと思う。

 さて、サーキュラー・エコノミーだが、直線的に消費する社会がいつまでも成り立つ訳はなく、サーキュラー・エコノミーの言っていること、目指すことは至極もっともなことである。注目しなければと私が強く感じたのは、SDGsとリンクして語られることが多いからである。SDGsも、特にこれをしないと世の中から置いていかれるというものではないが、ここまで世界的に認知されてくると、これをきっかけに話が発展するものである。まずは、バタフライ・ダイアグラム(図2)でも話題に出して、印刷業が使用する紙も、脱墨(パルプとインクを分離すること)さえしっかりできれば、再生産性や生命サイクルに準じた立派な工業製品であると強調すべきである。そんなことを印刷発注者と話し合っても良いと思っている。

 私が生まれたのは「もはや戦後ではない」といわれた昭和30(1955)年なので、だから特に感じるのかもしれないのだが、取っ手をただ上から下に引く水洗便所に強い憧れを持っていた。だが、我が家が「くみ取り式」だった記憶はない。物心付いたときから「簡易水洗」(当時はそのように呼ばれていた)という、台所で使用した水を貯めておきそれをトイレ用水として使用するという、誠にエコなシステムだった。先の東京オリンピックのときにはまだ使用していた。

 我が家は山手線内だったことから、郊外でバキュームカーが走っている姿を見ると「田舎だなぁ」と感じたものだった。しかし、急速に都市化が進み、水洗トイレの本格的な普及は山手線外の杉並(JAGATの所在地)などの方が早かったかもしれない。「簡易水洗」という、歴史からも忘れられてしまう設備をここで出したのは、実にエコな製品、日本的な工夫が感じられるアイテムだったと言いたかったのだ。

 先ほど触れた鳥取県は、『ゲゲゲの鬼太郎』の水木しげる氏と『名探偵コナン』の青山剛昌氏を輩出したこともあって、現在はマンガを前面に出して売り込んでいるが、「簡易水洗」的なアイデアは鳥取県にもたくさんあると思う。それを前面に出して売り込んでいくというのは、特に地方印刷会社は意識しなくてはいけないことだろう。カニのブランド力では、今は越前に後れを取っているが、カニの漁獲量なら鳥取県の方が多いのだ。ファッションの本場ミラノだって、もともとは田舎デザインといわれていたのだが、有名になろうと皆で努力して、今やフランスよりブランド価値は高い。

 半年程度で諦めないで一年半以上頑張れば、きっと効果が出るはずである。

(JAGAT専務理事 郡司 秀明)

 

図1 『小さくても勝てる』
(中公新書ラクレ)

図2 バタフライ・ダイアグラムの概念図