投稿者「小野寺仁志」のアーカイブ

2017年度の印刷産業経営動向調査がまとまる

JAGATの会員企業を対象とした、2017年度の印刷産業経営動向調査がまとまり、JAGAT info7月号、8月号ではその概要を報告する記事を掲載している。

印刷会社の売上高は3年連続の減少となり、その減少幅も2年連続で拡大した。本業の稼ぎを表す営業利益率は昨年と同じ1.6%で、4年連続の1%台となった。2008年の金融危機以降の長期的な回復局面は明らかに終わったようだ。業態別には、商業印刷の売上高が3年連続で減少して、減少幅は直近10年では最も大きい。電通の日本の広告費を見ても、プロモーションメディアの中では折込の落ち込みが大きく、広告用途のチラシなどの分野については動向を注視しておく必要がある。

総合印刷は前年比5.8%減と落ち込み幅は大きくなっている。東京以外に多い業態で地域特性上、内製化率が高いので、売上高が減少した時の設備費と人件費の相対的コスト負担の上昇が危惧される。出版印刷は15年連続の減少となり、なかなか出口は見いだせない状況にある。包装印刷・特殊印刷は売上高が微減となり、成長路線にも変化のきざしが見える。いち早くデジタル化の影響で激変した市場で生き抜いた筋肉質の企業が多い事務用印刷だが、一昨年までの3年連続から一転し、2年連続の減少となり今後市場がどう動くかの注目である。

規模別では従業員99人以下が苦戦し、比較的堅調だった100~299人も売上高は2年連続の減少となった。一方、300人以上は売上高5年連続の増加となったが、増加幅はわずかであり、このまま成長路線が続くのかどうか注目されるが、現状は従業員数に比例して業績が高まるという傾向が見られる。

また8月号では、経営戦略と業績の相関関係、業績良好な印刷会社の思考特性にアプローチしている。現状の好業績企業のプロフィールを見ると事業領域は総合化で、BPOやソリューションビジネス、総合メディア業と印刷だけに依存することなく、顧客の課題解決を支援する経営スタンスとなっている。

経営の意思決定パターンや市場ポジションの捉え方、保有工程の意向など、さまざま面から印刷会社の戦略・ 思考にアプローチしているので、ぜひご一読いただきたい。

さらに詳細な調査結果をご要望の方は、9月発行予定の『JAGAT印刷産業経営動向調査2018』をお求めください。

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ICT活用をサポートするのは誰なのか

日々接する新聞記事やネットニュースを見ていると、ICT活用が進んでいることが分かるし、実際、我々が行う日常の実務でもいろいろなシーンで恩恵を受けている。印刷物制作においても、もはやデジタル技術なしではビジネスが成り立たないということは自明のことだ。

自分の周辺を見てもメールやウェブ、SNS、EC、クラウドサービス、PDF、さまざまアプリケーションなど、仕事でもプライベートでも当たり前のように使っているので、使いこなしているかは別として、もはやそれが当たり前で、誰もが使っているのではないかと思い込んでしまう。ところがそれはまさに思い込みなのだ。私事で、なおかつ一つの事例にすぎなくて恐縮なのだが、以下のような経験をした。

身内の法事・納骨を田舎で行うのだが、施主として諸々の手続きを行うために、関係各所に連絡するのだが、基本は電話であった。ところが法事の案内や墓石への彫刻原稿のやりとりとなるとファックスで送ってほしいという。Eメールで送れないか?と問うと、さすがにEメールアドレスはあって、それで送ることができた。

さらに案内文の校正をファックスで送るので確認してほしいという。ファックスでなく、PDFにしてメールで送ってほしいというと、「……?」という状態だ。

ウェブサイトもあったが、確認したいことがあってサイトを見ても、欲しい情報はないし、もちろんFQA的なものもなくて、活用的なサイトとはお世辞にもいえない。依頼している葬祭センターが小規模だからかというと、実際には某組合系でいくつかの葬祭センターがあるので、組織としては決して零細というわけではない。

この経験で思ったのは、地方でもその中心都市圏から離れたような場所の企業や組織では、ごく簡単なICT活用さえおぼつかないという現実があるということだ。彼らにとっては、その地域で営業する上では、現状で大きく不便を感じることがないから、ICT活用の必然性は低いのかもしれない。

しかし、やはり利便性や将来を見据えた業務効率化ということでは、ICTは活用していくべきものに間違いはないはずだ。まして、地方の活性化が叫ばれる中で、一企業や組織を超えて連携や情報発信が必要になるときに、ICTが活用できないことは致命的とも言える。

そこで、問題になるのはICT活用の人材や知見がない企業や組織に対してICT活用の旗を振ったところで、物事はなかなか前に進まないという現実だ。さらに問題なのはそもそもICT活用などを課題として意識すらできないところも、まだ存在するということだ。

こういった現実を考えたときに、実はDTPでデジタル対応を成し遂げ、ウェブやアプリ制作などまでビジネス領域を広げている印刷会社は、ICT活用が遅れている企業や組織のサポートをできる位置にいるのではないかということだ。もちろん、印刷会社の人材ですべて対応できることは難しいかもしれないが、初期のサポートを行い、ステップアップするときには印刷会社がリーダーシップをとってIT系パートナー会社と組んでソリューションビジネス、サポートビジネスを行うことは可能なのではないだろうか。それができれば、顧客や新しいビジネスの開拓につながることも夢でない。(JAGAT info編集部)

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アライアンスが印刷会社のビジネスを進化させる可能性

page2018基調講演1では、ずばりpage2018のテーマとなる「アライアンスNEXT」を、実際にアライアンスに取り組む3人の経営者を迎えて講演とディスカッションを行った。

デジタル化の進展は印刷業界にも様々な功利をもたらす一方で、それによってなくなったり、縮小をされたりする部署や分野もあった。印刷会社はそうした分野などの人材を再教育しながらデジタル化に対応してビジネスを行ってきた。ところが、社会全般でデジタル化は一段と進展し、それに伴うようにビジネスのスピードがますます速くなっている。

このようビジネスに対応する人材は、従来なら社内の育成でも間に合ったかもしれない。しかし、今は自社内で1から育てようとするとビジネスチャンスどころか、ビジネス自体をなくしてしまうおそれが大きい。社会やビジネス環境変化のスピードが速い時代には、大企業ならともかく、中小企業では人材にして設備にしてもすべて自社で一からまかなうという戦略は全く適していないといえる。

そこで考えられるのが「アライアンスだ」で、自社にない得意分野や特長を持ったいろいろな会社と組むことで、新たなビジネス分野をスピーディーにものにできる可能性が高まったり、自社の得意分野と相乗効果を発揮して市場を広げたりできる。

page2018では株式会社廣済堂 代表取締役社長で、株式会社金羊社 代表取締役会長の浅野健氏とフュージョン株式会社 代表取締役会長花井秀勝氏、株式会社アドヴォネクスト 代表取締役社長井上雅博氏にそれぞれのアライアンスへの取り組みを紹介していただいた。

アライアンスを行う理由の一つとして、浅野氏は縮小していく既存の印刷市場で、企業継続と成長性を何かしらで担保していく必要があり、それには新市場の開拓が必要であるからだとする。人材や設備など限られた経営資源や情報不足を補って新市場で成功するためにも戦略性をもったアライアンスが必須だったということなのだ。また、アライアンスのあり方も役割分担型、機能強化型、補完型、BCP(Business continuity planning)型と様々なスタイルで展開している。

花井氏はデータ分析、マーケティング活用の観点から印刷ビジネスの領域を広げるようなアライアンスに取り組んでいるが、アライアンスを組む上で重要なのは自社が担当したい譲れない部分を明確にしておくことと、しっかりと契約書を作成していくことがポイントになるとしている。

井上氏は地方にある中小の印刷会社が取り組むアライアンスとして、地域の力を生かすかたちで取り組んでいる事例を紹介した。一方で地域だけでは難しい課題を全国組織のネットワークに参加し、さまざまな地域の仲間や大手企業の力を借りながら解決策を模索していく。このような取り組みは一歩を踏み出すことが重要で、特に人的余裕が少ない中小企業では経営者自らが動くことが「事」を進めるには重要だと語った。

※基調講演1の講演内容については、JAGATinfo2018年3月号で紹介しております。

スマートスピーカーがもたらす新たな可能性

2017年10月にgoogle home、11月にはAmazon Echoが日本でも発売されて、スマートスピーカーが注目を集めた。Amazon Echoの購入はまだ招待制のようだが、スマートスピーカーを手に入れて利用している人も多いことだろう。実際、使用してみた感想はいかがだろうか? ネット検索すると、たくさんのスマートスピーカーの比較記事や使ってみた感想を読むことができる。

JAGATでは2017年12月に開催したトピック技術セミナー2017の特別講演でパソコン、デジタルAV、ネット―ワーク関連を得意とするフリージャーナリストの西田宗千佳氏に「スマートスピーカー」について解説していただいた。

講演ではスマートスピーカーを実際に使用して、どういったものかも分かりすく解説いただいた。ちなみにAIスピーカーと呼ばれることもあるが、そのように呼ぶのはほぼ日本だけだそうである。

現在のスマートスピーカーの機能やできることについては、人それぞれに期待することや使用目的が違うので使い方だけではなく、そのビジネスの背景とスマートスピーカーが普及し、浸透することによって家庭やビジネスがどのように変わるについてお話いただいた。

スマートスピーカーの本質は音声アシスタント技術によるクラウドサービスといえる。それゆえ、このビジネスでは日々膨大なデータを取り扱うクラウドジャイアントと呼ばれるアマゾンやグーグルが圧倒するということになるようだ。

声を出して機械にしゃべりかけるという音声アシスタントを使うのは、日本人のなかには気恥ずかしく感じる人は少なくないだろうが、実はそれなりに使われ始めているようだ。例えば検索ではキー入力が苦手な高齢者層は、意外にも活用しているようだ。

スマートスピーカーが普及していくと、音声アシスタントを利用するのは当たり前になり、音声アシスタント技術がビジネス活用される分野はどんどん広がっていくと思われる。その際に、現在のようなスマートスピーカーという形である必要はなくて、あらゆる家電などに組み込まれる可能性もある。また、注目される自動運転技術でも、ユーザーインターフェイスはおそらく音声アシスタントが活用されるだろう。

さらに音声によるコミュニケーションが活発になれば、そこに活用、提供されるコンテンツも必要になる。音声応答を使う分野が広がることによって、新しい市場や、思いもよらない生活に密着した新しいコンピューターの利用方法が生まれるかもしれない。

※西田氏に講演内容については、JAGATinfo2018年2月号で紹介しております。

JAGAT info1月号はpage2018の見どころをたっぷり紹介

この数年のビジネストレンドをかたちづくっているものの一つにIoTや人工知能(AI)がある。AIといえば将棋や囲碁のAI、車の自動運転や、大手金融グループのAIによる融資審査、スマートスピーカーなど頭に浮かんだり、話題になったりしている。

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