投稿者「小野寺仁志」のアーカイブ

印刷ビジネス転換期を乗り越える戦略とは

「2018年度印刷産業経営動向調査」の結果がまとまった。『JAGAT info』では7月号で概要を報告したが、8月号では戦略分析編として、9月末に刊行が予定されている『JAGAT 印刷産業経営動向調査2019』に先がけて、経営戦略と業績の相関関係、業績良好な会社の思考特性について概要を紹介している。

デジタル化社会になって印刷会社のビジネス環境が大きく変わっており、品質の高い、あるいはすぐれた印刷物を低価格で提供できれば、売り上げ拡大につながるということが難しくなっている。そういった従来どおりのビジネスのやり方で生き残ることができる印刷会社もあるだろうが、それはごく一部の会社だけだろう。となると、自分達の印刷ビジネスのあり方を変える必要があり、そういう意味で転換期であり、次世代に向けた戦略が必要になる。それは、前号の紹介で印刷ビジネスの本質が変わりつつあるようだと言及したことにつながる。

そのことは、ビジネスの現場のところでは当然のように意識されているようで、「2018年度印刷産業経営動向調査」の設問「強化したい工程」では、今回から調査項目に加えた「企画・マーケティング」は、いきなり2番目となり55%の会社が強化したいという結果になった。これからの売り上げを作っていくために、顧客の期待に応えるサービスをビジネス化していく上では企画・マーケティングが重要な役割を担うという表れだろう。

なお、強化したい工程でトップは、7年連続で「デザイン」となっている。いくら素晴らしいマーケティング企画があっても、その施策を実施するにあたっては、説得力のある表現が不可欠である。例えば、さまざまなデータ分析に基づいてピンポイントのターゲットが選定でき、的確なコンテンツを提供できる素晴らしい施策だったとしても、最終的にはターゲットを動かくすだけの表現ができないとならない。そういう意味でもデザインは重要な訳である。

また、最近は「働き方改革」ということで、人手不足対応を含めて、社員の労働環境の改善も課題になっている。これらの問題に対してどのような制度を作ろうとしているのか。ほかにも、財務視点、顧客の視点、内部プロセスの視点や組織や人材の視点などさまざま調査項目から、経営者が次代の戦略をどのように考えているのか、また業績の良い企業はどのような経営視点を重視するのかを探っている。自社の時代の経営戦略を考える上で参考にしてほしい。

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■関連イベント

最新調査にみる印刷経営と戦略、設備2019【東京・大阪・愛知】

印刷ビジネスの本質が変わりつつある

今年で3回目になるJAGAT Summer Fesが、~デジタル×紙×マーケティングfor Business~というテーマで8月22日と23日に開催する。

印刷会社は、デジタルと紙を融合させたマーケティング施策を提供することでビジネスを創り出そうというものである。

印刷会社のビジネスを取り巻く環境はデジタル化社会になって大きく変わった。それはインターネットの普及、多メディア化の進展ということだけではなく、それに伴って生活者であるエンドユーザーの意識と行動が変化しているからであり、それに対応して印刷会社のクライント側の意識やニーズも変わっているからである。

当然、印刷会社の提供するサービスに対するクライアントの期待も変わるわけで、印刷物を提供することが第一義だった印刷ビジネスの本質が変わりつつあるのを感じる。

そのような状況で、印刷メディアで企業の情報伝達を支援してきた印刷会社が、これからはデジタル×紙×マーケティングを駆使することによって顧客の期待に応えるサービスをビジネスにしていくことが一つの解となるだろうというのがJAGATの思いである。

デジタル×紙×マーケティングでビジネスをする場合に最も重要になるのが、プロデュース、ディレクション、オペレーションしていく一連の人材だろう。

このような人材は印刷物を受注、制作することを主とする場合と比較して、求められる知識は幅広く、その能力も高い水準が必要にある。

そういった人材を育成していく一助となり得るのが、JAGAT認証クロスメディアエキスパート資格である。会員誌『JAGAT info 』では、この資格試験を受験する時に役立つものとして、JAGATエキスパート資格講座インストラクターの影山史枝氏による課題解決入門を連載している。

連載ではAIDMA・AISASのような購買行動モデルの解説から、ネットを活用したビジネスモデルの解説、AIやIoTとメディアビジネスの関係、ネットビジネストレンド、次々登場する新しいネットメディア等の紹介など、ネット戦略と印刷メディアの融合を意識した記事を掲載している。

この連載記事はクロスメディアエキスパート試験に役立つだけではなく、もちろん実際にデジタル×紙×マーケティングのビジネスを実行しようとする人たちにとっても、現在、これからのメディア活用を実践していくうえで参考になる。

『 JAGAT info 』では、これからも会員の皆さんに少しでも役立つことができる記事を提供していきたいと考えているので、本誌記事に対するご意見や感想をいただければ幸いである。

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令和元年の印刷市場はどうなる

平成の時代が終わるまで、あと10日余りとなった。令和元年の印刷市場はどうなるだろうか。景気後退局面に入ったのではないだろうかという危惧があるなか、秋には消費増税が予定される。一方で、改元や参院選、ラグビーワールドカップ日本大会などイベントも多いほか、翌年に迫った東京オリンピックをひかえ、印刷需要の誘発につながることが期待される。

平成の印刷市場を振り返ると、印刷出荷額は昭和末期に近づく昭和60年前後から大きく伸び、平成3(1991)年と平成9(1997)年に2つのピークを迎えた後、右肩下がりになり、平成20(2009)年以降大きく減少している。

印刷市場の縮小は失われた20年と言われる不況の影響も大きいが、インターネットの普及によってデジタル化社会が到来し、人々の意識や生活行動、消費行動が大きく変化してしまったことが影響していると感じる。とすれば、好景気によって印刷市場が刺激されたとしても、かつてのように右肩上がりで成長することはもはや期待できないわけである。

さらに少子高齢・人口減少社会を迎えており、デジタル化社会以前の行動や価値観を持ち続ける人はもはや少数派となってしまったなかで、令和時代は否応なく印刷メディアビジネスも変容が求められているということである。時代が変わり、社会構造が変化し、お客様の意識やニーズも変化しているなかで、これまでのビジネスモデルや成功事例がそのまま通用するのかどうかを絶えず確認していくことが必要になっている。

JAGATでは「デジタル×紙×マーケティング」を打ち出しているが、印刷物に新しい価値を付加しようということだ。従来の低コストで同じものを大量複製できるというメリットから、デジタルを駆使し、マーケティングによって裏付けされた企画によって、個客にも対応できる価値あるメディアにしていく。その価値に対して対価をもらえるようなビジネスにしていくことが重要になる。

JAGAT info 4月号では、さまざま視点から2018年の印刷市場を振り返りながら、印刷周辺業界の動向を交えて2019年の展望しつつ、これから印刷会社が印刷メディアビジネスをどのような方向性で展開していくべきなのかについて探っている。自社のこれからの印刷メディアビジネスの方向性を考える上での参考にしていただければ幸いである。

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平成の終わりに考える印刷の新しい価値

平成の印刷を振り返ると、昭和末期に登場したDTPという概念と技術、それを実現させたデジタル技術によって印刷がコモディティ化してしまった時代なのではないだろうか。パソコンとプリンターの普及は、印刷物の製造を印刷業だけのものから、(質はともかく)誰でも製造できるものにしたと言える。

印刷がコモディティ化してしまったとすると、単に印刷物を製造するだけでは印刷業としての優位性を保つのが難しい。加えて、インターネットを介したデジタルメディアの隆盛が、情報を伝えるという紙メディアそのものの相対的な価値低下につながっている。従って、例えば紙メディアvs.デジタルメディアと捉えてしまうと、従来の手ごろな価格で大量に同じものを複製できるという印刷物の強みだけでは、より安価に情報伝達が可能なインターネットを介したデジタルメディアとの競争では不利である。

また、デジタルメディアの普及によって顧客の顧客となるエンドユーザーや、いわゆる生活者の意識や行動も大きく変わってきた。となると、手ごろな価格で大量に同じものを複製できる価値だけでは、もはや顧客の抱える課題の解決を支援することは、相当困難な仕事になっている。今、印刷は新しい価値を生み出さないと、顧客から必要とされる存在が危うくなるのは目に見えているのではないだろうか。

では、どのようにして印刷の新しい価値を生み出すのか。それは印刷で培ってきたノウハウと、長く印刷を通して顧客を支えてきた信頼をもとに、ICT活用によって印刷がマーケティングを取り込み、One to One対応、オンデマンド対応、スピード対応、デジタル印刷活用、種々の加工などを組み合わせることであろう。まさに「デジタル×紙×マーケティング」の組み合わせによって発揮される相乗効果によって生み出される。デジタル(メディア、ツール)は競争相手となる敵ではなく、シナジーを生み出す味方である。

JAGAT info1月号では、特集で印刷会社の経営者でもある塚田司郎JAGAT会長と、網野勝彦JAGAT副会長、メーカー・ベンダーの社長としてさまざまな印刷会社を知る森澤彰彦副会長が、これからの印刷業がどのようにして、どのような価値を提供するべきかを議論している。

また、2月6~8日に開催されるpage2019では、「デジタル×紙×マーケティング」のテーマのもとに各社展示、基調講演、各種カンファンス、セミナーでは、新しい時代にふさわしい印刷ビジネスのあり方を探るので、ぜひ来場し、その目で確かめていただきたい。

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デジタル時代に印刷メディアが新たな役割を担うために

今年度のJAGATは年間を通したテーマとして「デジタル×紙×マーケティング」を打ち出しており、page2019もこのテーマのもとに開催される。「デジタル×紙×マーケティング」といっても、何を目指そうということなのかイメージできない人も多いかもしれない。それは一言で表せば、「印刷の新しい価値」の創造であるといえよう。そのために、デジタル時代の印刷メディアは新たな役割を担わなければならない。

JAGAT大会2018では、デジタルマーケティングを知悉した本間充氏、消費者動向の調査からデジタル消費の実態を把握する博報堂DYメディアパートナーズの吉川昌孝氏、紙とデジタルの雑誌制作に関わってきた主婦と生活社の有山雄一氏の3人が、デジタルメディアが伸長し、生活者の行動が変わる中で印刷メディアはどのようにして生き残るかについてディスカッションを行った。

最初にデジタルメディアと紙メディアは本当にvs(バーサス)の関係だったのかということで議論が始まった。インターネット接触時間やPV数が急速に伸びたことが、メディア全体のデジタル化が進むように捉えられたが、実際には従来のメディアとデジタルではメディアパワーの捉え方は違っており、横並びで比べることできないし、すべきではないとの指摘があった。

吉川氏からは男子大学生のメディア接触行動を調査する映像が流されると、タブレット端末でドラマを見ながら音楽を聴き、さらにスマートフォンで友人とLINEでやり取りしつつ、大型テレビで録画したドラマを見ている。ここに紙メディアが入っても不思議ではないわけで、若い人たちはメディアを色分けせずに、それぞれのメディアの価値を実感しているという。従来の「ながら試聴」などの行動と違うのは、今の若い人たちは情報の選択権を持って情報処理量の段階が上がっていることを指摘。

生活者は紙かデジタルかを選択しているわけではなく、実際には紙もデジタルも接触しており、重なる部分があって、その境目はない。そのことを前提にすると、全部がデジタル、全部が紙ということはあり得ないわけで、紙もデジタルもやっていく必要がある。

ただし、デジタルはコンテンツレベルからサービスレベルになっている。例えば情報を得てから行動するということでは、そのまま予約する、購入するなどサービス設計まで必要なっている。だから情報体験と生活体験が一緒になった行動を考える必要がある。

そのためにも、印刷会社は一度自社の強みを棚卸して、それをどのようにデジタルと連携してより強化していくかを考える。その時に大切なのは、「紙ありき」の視点で考えないということが重要になる。

JAGAT info12月号ではこの3人よるディスカッションの模様を詳しく紹介している。2月に開催されるpage2019の前に、改めて紙メディアとデジタルメディアの関係をどのように捉えてビジネスを組み立てていくかの予習としてご一読してほしい。

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経営危機を乗り越えた社長の経営戦略とは

長く続く企業の歴史では、その成長過程で大波・小波に見舞われることは、それほど珍しいことではない。しかし、中には大波にのみこまれてしまって衰退する企業もあるが、一方でいくつもの危機を乗り越えて成長を続ける企業も少なくない。そういった企業は消えていく企業とはどこか違うのか。

JAGATの夏フェス2018の特別講演で登壇したオーダースーツSADA 代表取締役社長 佐田展隆氏の「創業95年オーダースーツメーカー4代目社長による企業再生戦略」はいろいろと示唆に富んだ講演となった。

同社は、経営破たんに近い状態になり、一度は創業家である佐田家は経営から手を引くことになる。しかし、創業家4代目になる佐田展隆氏が復帰して会社は劇的に復活し、成長路線に乗る。
同社が復活した幾つかの要因を見ると、一つは変化を厭わずに、新しいことに挑戦してきたことである。

歴代の経営者は服飾という軸を中心に扱う商材や業態を変化させている。創業家4代目になる佐田展隆氏が打ち出したのが工場直販によるオーダースーツの製造販売である。その仕組みはオーダースーツ業界ではありそうでなかったもので、既存のビジネスのやり方を組み合わせることによって、イノベーションを起こしたとも言えるようなビジネスモデルになったといえよう。

また、ス―ツ業界の課題が何かを明確にして、それを受けていかにして課題を解決するかという視点で同社のミッションが策定されていることだ。

さらに、成長するために克服するべき同社の3つの課題を設定して、それに対して挑戦している。

しかし、いくら課題抽出が的確で、ミッションが明確で、斬新なビジネスモデルであったとして、それを実現する戦略、経営者のリーダーシップが必要である。講演では佐田氏自らが挑む動画を活用したプロモーションを含め、さまざま販促手法が披露された。『JAGAT info』11月号では、その講演内容を紹介している。逆境から会社を復活させた経営者の姿勢からは学ぶことが多い。

このほか、11月号では高級果物ギフト「水菓子肥後庵」代表の黒坂岳央氏の講演「斜陽産業とデジタルが交わる時、大きなビジネスチャスが生まれる」で、コストをかけずに行うネットマーケティングの手法や情報発信手法を紹介している。

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人材不足時代におけるデジタル印刷活用法

2018年8月の有効求人倍率は1.63で、正社員有効求人倍率1.13となっており、数字上は求職者にとっては売り手市場が続いている。

こうなると、業種や会社規模によっては思うような採用ができないというところもあるだろう。このような状況がいつまで続くのは分からないが、少子化・高齢化と相まって中小の印刷会社でも人材不足に苦慮することが予想される。

JAGATで8月に行われた夏フェス2018では、オープニングセッション「人材不足時代におけるデジタル印刷活用法」で、これからの印刷の価値は何か、それを提供する上での人材難への対応策を探った。

例えばオフセット印刷機のオペレーターは、一人前になるのは3年程度の経験が必要と言われている。ところが、一方で新入社員の3年以内離職率は大卒で3割、高卒では4割になる。印刷機オペレーターを育成しようにも、一人前になる前に会社を辞められてしまうリスクは高いといえる。

また、オフセット印刷機のオペレーターという職種が、将来性を考えた場合に若い人たちが目指したい職種であり続けるのかということもある。そう考えると、5年-10年を展望したとき、今後、リタイアするベテランオペレーターをカバーする十分な生産体制を作れるのかということが課題になるだろう。

もしかすると将来的には、仕事はあるし最新のオフセット印刷機も導入できるのに、機械を動かせるオペレーターがいない、足りないということも起こりかねない。

それでは、新たな印刷の価値、10年後の生産体制を考えたときに、デジタル印刷機の活用こそが課題の解決につながる解となるのだろうか。これらの問題についてデジタル印刷ビジネスを知り尽くした論客が議論した内容をJAGATinfo10月号および「デジタル×紙×マーケティング読本:デジタル印刷レポート2018-2019」(10月15日発行)で紹介している。

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