投稿者「小野寺仁志」のアーカイブ

テレワーク時代の印刷営業スタイル

新型コロナウイルス感染拡大に伴った緊急事態宣言が発出されてことによって、テレワークという働き方が注目された。印刷会社でも、特に首都圏や大阪、名古屋という3大都市圏の会社では否応なくテレワークに取り組まざるを得なかったというところも少なくないだろう。

当然、印刷の製造現場ではテレワークを行うことは、ほぼ不可能なので、JAGATの調査では導入した印刷会社でも営業や事務部門が中心になったようだ(JAGAT発行『テレワーク時代の印刷ビジネスモデル読本』より)。

また、本来ならDTP制作部門などもテレワークにマッチする部門だが、会社と同様に仕事ができる制作環境を実際に自宅で整えることは時間的にもコスト的にも難しく、働き方改革等で従来取り組んでいた会社や準備していた会社以外は対応できなかったというのが現実なのだろう。

印刷営業がテレワークを取り組む上で、ノートパソコンやタブレット端末などの支給、データ等取り扱うルール(セキュリティー対策)から出退勤の管理等まで、さまざまなことを取り決めてルール化する必要が出てくる。

先日、実際にテレワークを行っていた営業担当者と話す機会があった。ここで、細かい仕事の仕方について触れないが、受注活動での課題というか、悩みを紹介する。

顧客もコロナ禍での仕事なので、訪問回数は減るし、訪問できたとしても必要最低限の接触になる。また、Zoom等のオンラインでのやり取りも行っているが、雑談などする雰囲気ではなく、これも要件のみを済まして終わりである。

コロナ禍ですでに受注、予定されている案件自体が仕様変更(ページ減や部数減等)や中止・延期になることもあったが、何より新規案件の情報が取れない、アプローチできないという状況だった。

理由として、これまでの営業スタイルは担当者との雑談を含めた会話から情報を得えて案件創出につなげる、あるいは他部署の案件等を紹介されるケースがあったが、訪問の制限やオンラインでのやりとりでは、それがほぼできなかった。

結果、従来の「案件の発注待ち」を中心にする営業では、受注するための情報が圧倒的に不足して新規受注が停滞してしまうということだ。

問題は印刷会社がテレワークから従来の働き方に戻ったときに、顧客も従来の仕事のやり方に戻るかどうかである。おそらく戻るところと戻らないところが出てくるだろう。いずれにしても、afterコロナ/withコロナ時代が従来とまったく同じやり方で問題ないとは考えないほうがよいだろう。

従って、自分たちがこれまで実践してきた営業の方法やあり方が、これからも通用するのか、その方向性は正しいのかを、新しい印刷営業モデルのあり方を考えてみる。さらに営業の一部でその考えを実践してみることが求められるだろう。

例えば、ある印刷会社はコロナ禍以前から、営業情報に関する情報をデータ化して顧客接触、案件創出、企画提案のデマンドセンター的な部署を作り、そこから営業の実戦部隊に渡していくということを始めている。従来の営業担当者個人のスキルや情報網、人脈に頼る属人的な営業スタイルから脱却しようということである。

このようなスタイルには、見込み顧客獲得、見込み顧客育成、見込み顧客選別といった活動が必要で、つまり、マーケティング知識が必須なる。マーケティングオートメーションの活用やデータ解析などIT知識とスキルも不可欠で、それに対応できる人材が必要になる。それらの人材を社内で育成するにしても、外部から採用するにしても、社員教育はますます重要になる。

会員誌『JAGAT info 』10月号では、JAGAT印刷産業動向調査より、設備動向を紹介するが、コロナ禍以前の調査になるが明らかにハードから人材を含めたソフト重視への投資傾向が見られる。そういう意味で、新しいビジネスモデル、営業スタイルへ転換する時機に差し掛かっているといえよう。(JAGAT info編集部)

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「災い転じて福となす」ための取り組みを

新型コロナウイルス感染の影響による経済的な打撃は大きく、JAGAT会員企業のアンケートを見ても、印刷会社の受注はかなり厳しい状況になっていることが分かる。

JAGAT会員を対象とした印刷経営力調査によると、2019年度の回答企業の経営状況は、営業利益率が調査開始以降初めて1%を割り、経常利益率も1.6%と調査史上最低水準に低下した。このような状況のなかでのコロナ禍であり、印刷会社の経営は非常に厳しい状況を迎えているといえる。

もともと販促関連の印刷物などについては、インターネット、SNS時代になって消費行動が変化しているなかで、どのように活用するかが問われていた。そこにコロナ禍があって、本当に印刷物は効果があるのかと、印刷物活用の必然性が問われることになる。そこに対応していくには、しっかりとトレンドを把握して、クライアントに最適なソリューションを提案してく必要があり、それができないと受注に結び付くことは厳しくなっている。

従ってコロナ禍を契機として、自分たちがこれまで実践してきた営業の方法やあり方が、これからも通用するのか、その方向性は正しいのかを、印刷ビジネスモデルのあり方を含めて考えてみる必要があるだろう。例えば、販促ソリューションならば、印刷物はどのような場面で、どのような印刷物なら効果を発揮するのかを、クライアントに明確に提示できなければならないだろう。

となれば、販促ソリューションは印刷物だけを作れば完結するということはほぼ考えられないので、デジタルメディアをはじめとしたさまざまなメディアを組わせていくことが必要である。マーケティングやデータ活用は必須になり、afterコロナ/withコロナ時代には、印刷メディアと他メディアはバーサス(.vs)ではなく、withで活用するのが当たり前になる。そこで生きるのが、JAGATの提唱してきた「デジタル×紙×マーケティング」なのである。

「デジタル×紙×マーケティング」を体現するには、それを実践するための人材が不可欠であり、人材育成がこれからの印刷ビジネスをしていく上で大きなカギになるといえる。こういった人材は印刷物を受注、制作することを主とする場合と比較して、求められる知識は幅広く、その能力も高い水準が必要にある。それを体現する人材の一つの指針となるのが、JAGATクロスメディアエキスパート資格である。

会員誌『JAGAT info 』では、この資格試験を受験するときにも役立つものとして、JAGATエキスパート資格講座インストラクターの影山史枝氏による課題解決入門を連載している、8月号では、近年の購買行動プロセス「ULSSAS・PIXループ」について解説している。連載は最新のトレンドなどをしっかり押さえ、クロスメディアエキスパート試験だけではなく、実際のビジネスでも活用できる記事になっている。

コロナ禍の収束が見通せいない状況で厳しい経営環境が続くだろうが、収束した暁には、新しいビジネスモデルを開発できた、強い会社に生まれ変われたなど、災い転じて福となせるような取り組みを期待したい。(JAGAT info編集部)

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印刷営業のDXを実現しよう

ある印刷会社の営業担当者によると、6月に入ってから、少しずつ顧客への訪問も可能になったが、主たるコミュニケーション手段はウェブツールを活用したテレワークスタイルだという。

新型コロナウイルス感染による緊急事態宣言下では、通常の経済活動ができなくなり印刷需要が減少した上に、印刷営業はお客様への訪問ができなくなって、受注活動が苦境に陥った。緊急事態宣言が解除された以降も、これまでのような訪問営業は難しくなっているようだ。

既存顧客からのリピート受注なら、電話等の打ち合わせで仕事を進めることができるだろうが、新規案件の受注や新規開拓となると顧客訪問ができなくなることは大きなダメージだ。

となると、否応なくafterコロナ/withコロナ時代をにらんだ新たな営業戦略、営業スタイルが必要になる。コロナ禍でテレワークやリモートでの作業スタイルが進み、働き方が変わりつつあるなかで、印刷営業のあり方も従来とは違ったやり方が求められるだろう。

このような状況で、もうすでに、新たな取り組みを始めている印刷会社がある。例えば営業ツールとしてのウェビナーの活用である。7月下旬に発行する『(仮)JAGAT テレワークガイドブック』では、実際にウェビナーを開催している印刷会社の経営者、担当者にZoom等を使って取材した。

目的や想定ゴールはそれぞれだが、概ね見込み顧客の開拓、既存顧客とのエンゲージメント強化、ケースによっては受注案件の創出などである。取材したいずれの会社も、まだ手探り状態の部分もあるようだが、ウェビナー活用を積極的に評価しており、恒常的な営業ツールとして強化していくとのことである。

この数年はデジタルトランスフォーメーション(DX)が言われるが、印刷業界ではほとんど注目されてこなかった。印刷業界のデジタル化はどうしても製造・生産面に注目されるため、DXはあまりピンこないというのが現実だったと思う。

しかし、コロナ禍で仕事の入り口である案件創出から受注への流れで、訪問営業を主とした旧来の印刷営業が困難になり、またコロナ禍で社会と市場環境が変わるなかで印刷営業の存在とあり方そのものが問われている。今こそ、営業戦略そのものを再構築する印刷営業のDXの実現が迫れられているといえよう。

まさに「デジタル×紙×マーケティングfor Business」が重要であり、マーケティングオートメーション、ウェビナー、Zoom等のデジタルツールを駆使して印刷営業のDXを実現していくことが、印刷ビジネスの未来を拓くのではないだろうか。

【JAGAT info編集部】

7月30日開催の『JAGAT テレワークガイドブック(仮)』発刊記念セミナー
コロナとテレワークは社会と印刷をどう変える【オンライン開催】

アフターコロナのビジネスの変化に備えよう

新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大に伴って発出された政府の緊急事態宣言も全面解除された。緊急事態宣言によって経済活動は大きな打撃を受けたが、宣言が解除されたといはいえ、コロナウイルス感染が終息したわけではなく、通常の経済活動ができるようになるにはまだ時間がかかりそうだ。

感染対策の一つとして、新しい生活様式の定着が求められており、今後の生活で取り入れてほしいものとして、厚生労働省から実践例が公表されている。そのなかで、働き方の新しいスタイルとして、テレワークやローテーション勤務、時差勤務でゆったりと、オフィスはひろびろと、会議はオンライン、名刺交換はオンライン、対面での打ち合わせは換気とマスク、ということが挙げられている。

テレワークについては、働き方改革の取り組みの一つとして取り上げられることはあったが、このコロナ禍でにわかに注目度が上がった。JAGAT info6月号では印刷会社のリモートについて特集している。

印刷会社がテレワークに取り組む場合には、それに向く職種と向かない、そもそもできない職種があることは自明のことだろう。営業がノートパソコンを持ち出すことはできても、印刷オペレーターが印刷機を持ち出すことは不可能だし、リモートでオペレートできたとしても、実際の印刷物の仕上がりをモニターで確認することなど現実的ではない。

従って、印刷会社のリモートワークは営業や企画制作、一部のDTP制作部門が現実的なところだろう。JAGATが行ったアンケート結果でも、そういう傾向が出ている。また、リモートワークに取り組んだ部門でも通常業務がこなせているところと、現実にはあまりうまく機能せずにかたちだけになっているところがある。これは新型コロナ感染が問題になってからの準備では、十分な検討時間や環境整備が難しかったということがあるだろう。

これから求められるのは、一時的な取り組みで終わりにすることなく、本格的にリモートワークや新しい働き方を真剣に検討し、対応していくことだろう。もともと働き方改革が推進され、いかにワークライフバランスを実現していくかという課題があったわけで、これをきっかにして環境を整備していくことが必要だ。

大手企業の一部にはリモートワークへ本格的に取り組み、常態化していこうという動きが出ている。この傾向が広がると印刷業のお客様の働き方が変わるわけで、企画を提案したり、商談したりしようとオフィスを訪問しても、担当者がリモートワークで不在ということも出てくるかもしれない。さらに社会の仕組みも変化するわけで、そうなればマーケティング施策の戦略にも変化が出てくるだろう。

こういった取り組みを行うときに課題になるのが、JAGATが行ったアンケートの回答にも散見されたが、在宅勤務する社員と出社する社員で不公平にならないか、社員間の不平不満への対応ということと、社員間のコミュケーションをどうするかということだ。

後者に関してはうまくリモートワークツールを活用できれば、それほど問題にならないだろう。前者はある意味難しい問題ではあるが、社員評価の方法や旧来の「仕事は共同空間としてのオフィスで行うもの」というある種の仕事観の転換を促していくことしかないだろう。

こういった変化や状況に応じた新たな営業戦略や組織のあり方を構築していく必要があるわけで、それに対応できる人材活用や教育がますます重要になる。コロナ禍で経営的に大変な状況ではあるが、この苦難を乗り切って次の成長につなげていきたい。

JAGATinfo6月号(6月15日発行予定)では全国印刷会社82社から回答を得たリモートワークへの取り組みについてのアンケート結果と考察を特集している。印刷会社に緊急調査した5月号「コロナショックが与える印刷業界への影響と対応」とともに有料となるが会員以外にも特別に頒布するので、ぜひお読みいただきたい。

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新型コロナウイルス流行終息後のビジネスを見据えて

新型コロナウイルス(COVID-19)が猛威を振るっており、世界経済、日本経済に多大な影響を及ぼしている。4月7日、7都府県に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されたことで、小売り、サービス業の営業自粛に加え、全国的に有名なお祭り等を含め、各種イベントや行事の中止発表が相次いでいる。さらに4月16日には緊急事態宣言が全国に拡大され、状況は深刻化している。

このような事態で各種商品やイベントなどのプロモーションや関連グッズなどの発注が見直され、商業印刷の分野では受注減少に直結する。感染流行の早期の終息が望まれるが、現状では先行きが全く不透明であるということで、印刷市場への影響は計り知れない。

現状では営業を行うにしても、得意先の事情もあり、印刷会社独自でやれる努力は限られる。したがって、まずは経営維持のための運転資金確保と従業員の安全対策が優先されるだろう。とにかく、この厳しい状況をなんとか乗り切って感染流行が終息したあかつきには、いち早く通常の経済活動に戻れるような準備が望まれる。

一方で、BCPの観点から新たな事業のあり方、経営のあり方を考えることも必要になるであろう。働き方改革でテレワーク等が注目されていたが、現実にはほとんどの企業で真剣に取り組まれていなかったり、そもそも考慮されていなかったりしたことが明らかになった。

非常事態の時といえるが、この時期を利用して印刷会社は自社の業務状況を洗い出し、どの業務でテレワークが可能で、どの業務が対応できないのか、テレワークを導入した場合に予想される課題等を検証し、社内でテレワークのインフラ整備やルール作りをすることが求められる。また、顧客対応や営業のあり方も見直すことが必要になる。今後は新型コロナ流行以前のままの経営を踏襲することはビジネスリスクが高くなるのは明らかだろう。

JAGAT info4月号では、急遽、コロナショックが印刷経営に与える影響と対応について、研究調査部部長の藤井建人が考察している。
さらに売り上げへ影響、自社の対応策など、「印刷会社へのコロナショックの影響と対応に関するアンケート」を行った。このアンケート結果など、印刷業におけるコロナ対策関連の記事を5月号に掲載する予定である。

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データの地産地消で創出する新市場

ビッグデータの時代が幕を開けたといわれるが、大手企業や巨大IT企業が取り組む分野で印刷ビジネスにおいては、その活用は縁遠いのではないかという疑問もあった。

ところが、ビッグデータの解析によってマーケティング戦略を立てプロモーションに活用する事例が増えている。そのプロモーションにおいて、ジタル印刷のメリットを生かすことで印刷メディアも新たな価値を生み出し、そのメディアの有効性が再認識されているようだ。

JAGATでは「デジタル×紙×マーケティング」を打ち出し、これまでもデータ解析に基づいて実績を上げてきたプロモーション事例を紹介してきた。

page2020の基調講演では、いったんその集大成をするかたちで、「デジタル×紙×マーケティング」の啓蒙活動に協力をお願いしてきた花井秀勝氏(ヒュージョン代表取締役会長)、岡本幸憲氏(グーフ代表取締役社長CEO)、本間充氏(アビームコンサルティング顧問)を招いて、その可能性と印刷会社がどう取り組むべきかを議論した。

その中で花井氏は、札幌市、札幌圏で官民合わせて地域データ活用を推進する「一般社団法人 札幌圏地域データ活用推進機構(SARD)」の取り組みを紹介した。市内事業者の自社データや行政データをオープン化して利活用をしようという取り組みである。それらのデータを活用することによって産業振興や新たなサービス・ビジネスモデルなどの価値創造を生み出そうということである。

講演ではインバウンドにおける外国人観光客のデータを解析して、ホテルでの多言語新聞の配布によるプロモーションや店頭プロモーション戦略への活用に言及した。

データ活用というと、どうしてもナショナルブランドの大手企業を中心としたものをイメージする(実際にほとんどがそうだろうが)。しかし、地域に目を向けると、その地域ならではのデータがあり、それを活用することによって新たなビジネス創出の可能性が広がる。

印刷会社がデータ解析までできないとしても、そのデータもとにプロモーションを行うには、消費者・生活者に訴求するクリエイティブが必要なる。地域にある印刷会社が、こういった取り組みの上流から関わることでビジネスチャンスになるのではないかと感じさせられた。

JAGATinfo3月号では、上記の内容を含むpage2020基調講演「デジタル×紙×マーケティング」決定版の報告記事を掲載しますので、ご一読ください。JAGATinfo3月号の目次はこちら

 

商売で大切なのは価値づくり~いかに価値をつくるか~

JAGAT大会2019(2019年10月23日開催)では、ファミリーレストランという言葉を生んだ「すかいらーく」の創業者横川 竟氏が特別講演を行った。横川氏といえば「すかいらーく」で大成功を収めながら、後年は業績不振に陥り、経営の第一線を追われた不運の経営者という印象があるのではないだろうか。ところが、75歳で高倉町珈琲の1号店を出店、翌年には株式会社化して82歳の現在も高倉町珈琲代表取締役会長として活躍する現役バリバリの経営者である。講演では60年の商売と経営の経験で得た、業種に関係ない商売・経営の原則を披露していただいた。

横川氏はいずれ独立して商売したいという思いで17歳のときに築地で働きだした。24歳のとき、兄弟4人でことぶき食品を創業している。横川氏が商売の基本を覚えたのは築地の4年間で、そこで商売とは何か、どうしたら物が売れるか、そのための価値づくり、どうやったら成功するかを学んだ。大学にいっていない横川氏は、築地で働いた4年は商売を教えてもらった築地大学だったと語る。

お客さんの喜ぶことをする
人様の役に立つことをすることが商売の基本で、売れて喜ばれて儲かるということは、お客さんのためになることだ。

商売の価値づくりとは
商売と経営は分けるべきで、商売とは価値づくりで、経営はそこで儲けたお金をどう使うかということである。横川氏が「すかいらーく」を創業したときに、「明るい店にしよう、きれいな店にしよう、それから楽しくしよう」と思い、どうしたら楽しくなるかと考えて作ったのがファミリーレストランという形態である。このとき考えた「楽しい店」とは、明るくて親切で、誰でも払える値段のレストランである。当時は庶民にとってはレストランは敷居が高く、何か特別の日に行くお店で、普段お腹を満たすのは食堂であった。

ガラス張りの店舗で写真入りメニューは日本で初めて「すかいらーく」が作った。障害のある方のためにスロープも作り、ビニールの傘袋も「すかいらーく」が初めて作った。これらも価値づくりの一つであり、横川氏は不便なことを便利にすることが大事で、我々の身の回りにもそんなことがたくさんあるはずだと指摘する。

また、夕張の農家の庭先に放置されて、そのままでは腐っていくだけの完熟した黄色いメロンを見つけた横川氏は、そのメロン空輸してお店で夕張メロンと名付けて提供しヒット商品にした。当時は青くないと売れないため完熟メロンは棄てられており、一見して商品にならないように見えるものも、価値を生み出す工夫をすることでヒット商品にした。

事業継承は経営思想の継承がカギ
横川氏は「すかいらーく」が業績不振になった一つに、後継者に会社経営の思想を教えていなかったことがあるとする。後継者教育では企業思想を受け継つがせることが重要である。

商売に定年はない
築地で教えてもらった商売の原点に「いつも新鮮、いつも親切」ということがある。ここでいう「いつも新鮮」とは、商品の新鮮さだけではなくて、働く人の心の新鮮さという意味も大きい。年齢は商売という目で見たら無関係で、頭を若くして考えていかなければならない。心が歳を取ることをやめることだという。だから、心がいつも新鮮さを保てれば、商売に定年なしということである。

なお、JAGAT info2月号ではJAGAT大会2019横川氏の講演の模様を6ページにわたって、たっぷりと紹介する予定である。( JAGAT info編集担当)

「デジタル×紙×マーケティングfor Business」を深掘りしたJAGAT大会2019

JAGATは2019年10月23日(水)、ホテル椿山荘東京でJAGAT 大会2019を開催した。大会テーマは「デジタル×紙×マーケティングfor Business」で、来る2月に開催されるpage2020と同じである。JAGATは、この数年マーケティングの重要性を訴えてきたが、それを具体的な果実に結び付けるのが、「デジタル×紙×マーケティング」の実践であり、印刷物に新たな価値を生み出すことにつながるという思いが込められている。

JAGAT 大会2019では、「実践!デジタル×紙×マーケティング+AI 」をテーマにアウトブレイン ジャパン株式会社 顧問/アビームコンサルティング株式会社 顧問の本間充氏と、SENSY株式会社代表取締役CEO渡辺 祐樹氏、JAGAT専務理事郡司秀明の3人でディスカッションを行った。

議論に入る前に、本間氏と渡辺氏がそれぞれにマーケティングの変化とAIについてプレゼンを行った。

本間氏は1980年代にニューヨークのマンハッタン島が馬車の増加によって馬の排泄物で島が埋め尽くされるという予測があったが、実際にはそれが避けられた。馬車が2頭立て、6頭立てになって輸送量が増える馬車技術の変化、さらにT型フォードも登場してマンハッタンの破綻を回避した。

われわれは売り上げはずっと伸びるというように、物事の延長線上で未来を描いてしまうが、人類の歴史には必ず不連続点が発生し、そのときに新しい景色が見えて、これがビジネスの分岐点になるかもしれない。つまり、印刷でいえば、大量生産を前提にしたオフセット印刷からデジタル機、バリアブル印刷の登場が新しい景色なのではないかと指摘した。

さらにマーケティングの変化に言及し、第二次産業革命によって登場したマス向けのマーケティングから、デジタル活用によってOne to Oneのマーケティングにシフトしていくので、そこに印刷も対応していけばビジネスは広がることを訴えた。

渡辺氏はAIの概要を解説した後、自社でAIを活用してどのような取り組みをしているのかについてマーケティングにかかわる事例から紹介した。渡辺氏の会社では感性工学の分野でAIを活用、例えばさまざまデータからAIで消費行動を分析して、折込チラシの最適化やDM、カタログの配布選択、クーポンの最適化を行っている。

ある紳士服チェーン店では、毎月100万枚のDMをAIで運用している。従来は男・女、年齢層などいくつかのセグメントで3~5パターンだったものを、現在は一人一人の顧客に、好みそうなタイプ5~6点の商品を変えて送っており、1年の実証実験で従来のDMの2.2倍の効果を上げているなどの事例が紹介された。

2人のプレゼンの後はJAGATの郡司を入れて、マーケティングにどのようにAIを活用できるか、それをいかに印刷ビジネスに結び付けるのか、さらにマーケティングに関わるどのようなところでAIが活用できる可能性があるのか、そのために印刷会社がやるべきこと何かといった白熱の議論が展開された。その議論も模様は、JAGAT info12月号で紹介しているので、ぜひご一読指定ください。

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出版社に並ぶ新たなコンテンツメーカー機能の登場

2019年上半期の出版市場(紙+電子)は、出版科学研究所の『出版月報』7月号によると前年同期に比べ1.1%減となり、低落傾向が止まっていない。

しかし、紙の出版物が減少している一方で電子出版の伸びは大きい。ただ、紙の出版物でもコミックスは前年同期比5%増と回復している。

また、全体で増加している電子出版でも電子雑誌は前年同期比で大きく減少しており、電子出版全体の増加を支えているのは、前年同期比で大幅増となった電子コミックスの伸長である。

雑誌も前年同期に比べて減少幅が小さくなっているが、これはコミックスが伸びているためであり、それを除くと雑誌メディアが苦戦を強いられている状況は変わりない。

電子出版が伸びているが出版市場の長期低落傾向が止まらないのは、依然として既存の出版市場が紙を中心にしたビジネスにとどまっているからかもしれない。

紙を中心とした既存出版社のビジネスがこのまま変わらないとすると、出版ビジネスは疲弊して、それが出版社での働き方に影響し、コンテンツ創出機能そのもののパワーが落ちることに直結しかねない。それは日本のさまざまエンターテイメント業界にも影響していく可能性がある。

なぜなら、日本のアニメや映画、TV、ゲームなどには出版社発の多くのコンテンツ(作品の原作として)が提供されている。出版社は日本のコンテンツ業界において作品の発掘と、作家、クリエイターを育ててきた強力なコンテンツメーカーなのである。その出版ビジネスの力が衰えることは、新たなコンテンツ創出の力が衰えることにつながる危惧があるからだ。

とはいえ、電子メディアを中心に新たなコンテンツ創作の試みが芽を出し、花を咲かせようとしている。その取り組みが新たなクリエイターの発掘や市場創出につながっていくことが期待できる。

一つは小説や漫画の投稿サイトが登場し、新たなコンテンツメーカーの機能を果たすようになりつつある。こういったサイトの課題の一つは、クリエイターがコンテンツ創作によって適切な対価を得て、継続的にコンテンツ創作が可能なシステムを作り上げることだろう。そのためには作家やクリエイターが読者等を獲得するプロモーション支援策や、紙や電子出版へ、さらには映像化やゲーム化などのコンテンツ利用の多様化につながるような流れを作ることや、その支援策の提供である。実際には既にそういったことを実現するサービスも登場している。

JAGAT info 11月号では、8月に行われたJAGAT Summer Fes2019の講演の中で、新たな動きを見せるコンテンツ、メディア関連の2つをピックアップして報告する。出版社の編集者を経て、クリエイターを支援して新たなコンテンツ発表の場を創出し、継続的コンテンツ創造を支援する(株)ピースオブケイクの加藤貞顕氏の「デジタルコンテンツの集まる街「note」の今とこれから」と、大手出版社の編集者を経てAIなど最新手のテクノロジーを活用してコンテンツ創造と支援に取り組むBooks&Companyの野村衛氏「出版とAI~価値創造か課題解決か、それとも産業の突然死か?」の講演概要を紹介している。

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これからは顧客体験が重要になる

8月に開催した「JAGAT Summer Fes2019」では、2つの講演でDigital transformation(DX)がキーワードになった。DXはこの2~3年、よく目にするようになった。「DX」は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念で、「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」ということである。

これだけではなかなか具体的にイメージしにくいが、デジタル技術やIT技術によってより便利に、豊かになっていくということでは、実際に日々の暮らしの中で実感しているのではないだろうか。

JAGATの夏フェスでは、アドビシステムズの租谷考克氏は、同社が顧客体験マネジメントを通じてDXに取り組んだ事例を紹介した。

印刷業界にとっては欠かせないDTPツールであるアドビのパブリッシング用アプリケーションソフトウェアは、かつてパッケージソフトとして個別に販売されていた。しかし、今は統合プラットフォームとなってクラウドへ移行した。結果、バージョンアップが従来の1~1年半の間隔から毎月ように新しい機能を提供できるようになった。

さらに常にクラウドとつながった状態で顧客が使うために、途中で作業がスタックするようなものや、あまり使ってもらえない機能があれば、すぐにサービスの改善につなげられるようになった。

当然、これは顧客側にとってもメリットで、まさに顧客が体験したことが、顧客にとっての利便性の向上に生かさていくのである。これがDXの一つの例になる。

また、デジタル時代のB2Bマーケティングに関して講演いただいた横河電機の阿部剛士氏も、ITリテラシーの高い若い人たちは6割以上の消費者は、価格よりもカスターエクスペリエンスを優先しているとして、やはり顧客体験の要性を強調した。

こういったことの表れの一つは、消費が自己表現の一つになってきたということがある。つまり、例えば購入した商品やサービスをインスタグラムにアップし、それに対して共感してもらいたいということがある。自分以外の人にどう思われたいのかが消費行動の核になっていく可能性がある。消費が自分のブランド、自己表現になるということである。

そういった消費者の変化に企業は対応しなければならず、そのためにも(デジタル)マーケティングは重要になるということだろう。

租谷氏は、DXが重要になっているのは、「デジタル社会が進展して消費者・生活者の意識や行動が変わってきて、それに企業もあわせていかければならないからだ」という。

印刷会社にとってもDXは他人事ではない。クライアント企業がDXに取り組むとき、印刷会社はどのようにクライアントに向き合うのか、あるいは印刷ビジネスそのものを変革していくのかが問われることになる。

JAGAT info10月号では、JAGAT夏フェス2019の報告としてアドビシステムズの租谷考克氏と横河電機の阿部剛士氏の講演内容を紹介する予定です。ぜひ、ご一読してください。

(JAGAT info編集部)