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『印刷白書2021』発刊のご挨拶

2021年10月22日発刊の『印刷白書2021』について、会長塚田司郎よりご挨拶させていただきます。

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当期における世界経済は、新型コロナウイルスの感染拡大により大きく落ち込んだ後、持ち直しの動きが続いていますが、変異株の蔓延が回復の足かせとなっています。

日本経済は感染拡大により経済活動が制約され、大幅に落ち込んだ後、持ち直しの動きが見られ、2021年2月には日経平均株価が3万円台に回復しましたが、アメリカの長期金利上昇への警戒感から一時的なものとなりました。政府・日銀の政策対応により、失業率の上昇や企業倒産件数は抑制されているものの、サービス関連消費が景気回復への重石となっています。

いろいろと議論のあった、夏の東京2020オリンピック大会も終わり、9月になると、ワクチン接種がいっそう進み、新型コロナウイルスの感染者数が週を追うごとに減少し、月末には長かった緊急事態宣言もようやく終了しました。コロナ禍での昨年と今年を比較してみると、緊急事態宣言の出されていた期間は今年のほうが長く、材料の出荷を見てもその影響は大きく、良くなかった昨年と比べてもさらに悪化した月もありました。10月からは徐々に経済の回復が感じられるようにもなりましたが、その一方で、それを待っていたかのように資材や原材料の値上げが発表されました。原料コストや物流コストの上昇、パンデミックによる需要減などが理由とされています。一般の印刷企業は、需要減と原材料コスト上昇で板挟みの状況です。

さらに現代の企業は日本のというより地球上に住む一員として地球温暖化に直面することが求められます。日本政府は温室効果ガスの削減目標を2030年度までに2013年度比で46%減(以前は26%減)としました。各企業ではこれにどのように取り組むのでしょうか。今年の省エネルギー補助金の支給例には、使用するエネルギーの大きいオフ輪を廃棄して枚葉8色機に入れ替える事例も少なからずありました。

東日本大震災以来、火力発電に頼ることが多い日本は世界から非難を浴びていますが、同様の問題を抱える中国は最近、強硬に火力発電による電力供給を制限し、各地で大停電や工場の操業短縮の事態となっています。従来の資本主義の枠組みでは、パリ協定で掲げた気温上昇を2℃以内に抑えるという目標は達成できないという議論が現在では主流になりつつあり、岸田新首相も新しい資本主義を掲げています。

現代の印刷企業の課題は上記のように多くありますが、アフターコロナの世界では、今年の「page2021オンライン」で申し上げたように、市場がシュリンクするこの2年間に、業務プロセスをDXでどれだけ自動化できたかで企業間格差が顕著になると思われます。今年もこの白書が参考になることを願っています。

2021年10月
公益社団法人日本印刷技術協会
会長 塚田司郎

書籍発刊のお知らせ

『印刷白書2021』2021年10月22日発刊

印刷白書2021

印刷白書2021
印刷産業の現在とこれからを知るために必携の白書『印刷白書2021』
第1部「特集 with/afterコロナの印刷ビジネスを考える」
第2部「印刷産業の動向」「印刷トレンド」「関連産業の動向」
第3部「印刷産業の経営課題」
ご注文はこちら発行日:2021年10月22日
ページ数:144ページ
判型:A4判
発行:公益社団法人日本印刷技術協会
定価:9,900円(9,000円+税10%)
JAGAT会員特別定価:8,300円(7,545円+税10%)

解説

印刷産業のこれからを知るために必携の白書『印刷白書2021』。
印刷・同関連業界だけでなく広く産業界全体に役立つ年鑑とするために、「印刷白書」は3部構成となっています。
印刷業界で唯一の白書として1993年以来毎年発行してきましたが、2021年版ではSDGs/ESGなどの項目を追加しました。
印刷関連ならびに情報・メディア産業の経営者、経営企画・戦略、新規事業、営業・マーケティングの方、調査、研究に携わる方、産業・企業支援に携わる方、大学図書館・研究室・公共図書館などの蔵書として、幅広い用途にご利用いただけます。

第1部「特集」では「with/afterコロナの印刷ビジネスを考える」をテーマとしています。
コロナ禍で生じたトピックを整理し、with/afterコロナの時代に対応していく印刷ビジネスとは何か、ニューノーマル時代のビジネスの現状分析と課題解決に取り組んでいます。
第2部「印刷・関連産業の動向」、第3部「印刷産業の経営課題」では、社会、技術、産業全体、周辺産業というさまざまな観点から、ビジョンを描き込み、今後の印刷メディア産業の方向性を探りました。
印刷メディア産業に関連するデータを網羅、UD書体を使った見やすくわかりやすい図版を多数掲載し、他誌には見られない経営比率に関する調査比較などのオリジナルの図版も充実させました。

CONTENTS

第1部

第1章 特集 with/afterコロナの印刷ビジネスを考える
アフターコロナの印刷ビジネスを考える
情報産業として印刷業界は何を目標にすべきか
新時代の出版ビジネスとは
新型コロナが開けたパンドラの箱
アメリカのダイレクトメール・マーケティング事情から読み解くDM戦略
コロナ禍と印刷業界の2020年を振り返る

第2部
第2章 印刷産業の動向
[産業構造]生産性向上と付加価値創出で印刷ビジネスの可能性はさらに広がる
[産業連関表]産業連関表で印刷産業に関わる全産業の取引を見る
[市場規模]印刷ビジネスの変容と方向 受注から価値共創へのリセット
[上場企業]新たな収益柱の確立に向けて変革を進める上場印刷企業
*関連資料 産業構造/産業分類・商品分類/規模(1)/規模(2)/規模(3)/
産出事業所数(上位品目)/産出事業所数・出荷額/調達先と販売先/
産業全体への影響力と感応度/最終需要と生産誘発/印刷物の輸出入額と差引額/
印刷製品別輸出入額/印刷物の地域別輸出入額/印刷物の輸出相手国・輸入相手国/
経営動向/上場企業/生産金額(製品別)/生産金額(印刷方式別)/
売上高前期比・景況DI/設備投資・研究開発/生産能力/紙・プラスチック/
印刷インキ/M&A

第3章 印刷トレンド
[デザイン]製造技術とデザインを掛け合わせ印刷の新たな価値を創る
[ワークフロー]顧客起点でワークフローを考える
[オフセット印刷/デジタル印刷]印刷ビジネスの潮流とオフセット印刷機、デジタル印刷機の現状と今後
[用紙]地球環境と紙にまつわる価値を再考する
[後加工]コロナ禍で加速する後加工ベンダーのDXと製本業界の実態
*関連資料 デジタル印刷/フォーム印刷業界

第4章 関連産業の動向
[出版業界]ニューノーマルで変わる読書と出版ビジネス
[電子出版]コロナ禍で成長が続く電子出版ビジネスと拡大する電子図書館サービス
[新聞業界]新たなビジネスモデル構築が急がれる新聞業界
[広告業界]インターネット広告の拡大に印刷メディア広告が貢献
[DM業界]BtoBとデジタル連携にも有効なDMメディアの新たな役割
[折込広告他]コロナ禍が変える地域メディアと地域コミュニケーション
[通信販売業界]コロナ禍で初の10兆円市場を達成
*関連資料 出版/電子出版/コンテンツ/新聞/広告/通販

第3部
第5章 印刷産業の経営課題
[SDGs/ESG]経営課題としてのSDGsに印刷会社はどのように取り組むべきか
[地域活性化]アフターコロナに向けて変わるまちづくり
[経営管理]本当の印刷原価をMQ会計の考え方で考察する
[デジタルマーケティング]インフルエンサーが与える影響とインフルエンサーマーケティングが注目される理由
[デジタルイノベーション]アフターコロナにおける真のデジタルイノベーションとは
[人材1]印刷会社の新サービス開発における課題
[人材2]顧客ビジネスのDXと人材
*関連資料 クロスメディア/デジタルマーケティング/人材

●巻末資料
DTP・デジタル年表/年表/『印刷白書』年表/印刷産業&関連団体アドレス

否応なしに加速するデジタルシフト、後戻りはできない

「週刊文春」は8月26日号をもって電車内の中吊り広告を終了した。呼応するように「週刊新潮」も9月末の発売号での掲載中止を発表した。両誌とも、車内広告コストを電子出版やデジタルコンテンツに振り向けるとのことだ。中吊りを雑誌文化の一つととらえる向きもあるが、デジタルシフトはある意味非情ともいうべきスピードで文化をも破壊して進展し、このコロナ禍でますます加速していくだろう。 続きを読む

2019年の印刷産業出荷額(全事業所)は4兆9981億円(確報値)

「2020年工業統計調査」の確報版が公表された。全事業所(3人以下の事業所を含む)の印刷産業出荷額は前年比0.3%増となった。(数字で読み解く印刷産業2021その8)

3人以下の事業所が半数以上を占める

2020年6月1日現在で実施された「2020年工業統計調査(2019年実績)」は、速報が2021年3月26日、概要版が5月28日に公表され、このコーナーでも2回取り上げました。

8月に入り、確報版になる産業別統計表が13日に公表され、品目別統計表と地域別統計表が25日に公表されます。

JAGAT刊『印刷白書』では、確報版でなければわからない、「推計による従業者3人以下の事業所に関する統計表」も使って、全事業所の数値で印刷産業の変化を見ています。

2019年の全事業所の印刷産業出荷額は4兆9981億円(前年比0.3%増)、2020年6月1日現在の事業所数は2万642事業所(同2.8%減)、従業者数は27万3523人(同1.1%減)となりました。

3人以下の事業所の出荷額は1528億円、従業者数は2万1790人と推計され、全事業所に占める構成比は非常に小さいのに、事業所数は1万981事業所と半数以上を占めています。

5兆円確保できなくても高い生産性を維持

印刷産業出荷額は2012年から微減で推移してきて、2018年は減少幅が拡大し、1982年(4兆7441億円)以来36年ぶりの5兆円割れでした。しかし、2019年は12年ぶりのプラスとなりました。また、1人当たり出荷額は1982年の1154万円に対して1827万円、1事業所当たり出荷額114.8百万円に対して242.1百万円を確保しています。

出荷額が8.9兆円でピークだった1991年と比較してみても、1人当たり出荷額はピーク時と変わらない水準を確保し、1事業所当たり出荷額は上昇傾向にあります。事業所数の減少や省人化設備が寄与していることは確かですが、高い生産性を維持していることに印刷産業全体の健全性が表れています。

なお、新型コロナウイルスの影響が表れる「2021年工業統計調査(2020年実績)」は、5年ごとに全産業を調査する「経済センサス-活動調査」の実施年のため中止となりますが、活動調査の中で工業統計調査と同様の調査事項が調査させます。

『印刷白書2021』は10月下旬発行を予定しています。限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

2020年の印刷業の生産金額は3465億円、前年比6.4%減

印刷統計によると、2020年の印刷業の生産金額は3465億円(前年比6.4%減)、商業印刷と出版印刷で5割以上を占め、特に商業印刷の動向が市場を左右しています。(数字で読み解く印刷産業2021その7)

JAGAT刊『印刷白書』では多くの公的統計データを利用して、印刷メディア産業の現状を捉えています。印刷市場の規模を見るときには「工業統計」が使われますが、年に一度の工業統計調査に対して、毎月の「印刷統計」では製品別・印刷方式別の生産金額を知ることができます。
5月28日公表の「工業統計」2020年調査の産業別統計表〔概要版〕は2019年実績ですが、6月2日公表の「経済産業省生産動態統計」2020年年報には、2020年1~12月の「印刷統計」を集計した2020年実績が掲載されています。

工業統計の出荷額4.8兆円に対して、印刷統計の2020年年計では生産金額は3465億41百万円です。この差はどこからくるかというと、印刷統計は100人以上の印刷業を対象とした標本調査で、印刷前工程(企画・編集・製版など)と印刷後工程(製本・加工など)、用紙代などを除いた、印刷工程の生産金額に限定された数字だからです。
印刷製品別の構成比を見ると、商業印刷と出版印刷で5割以上を占めています。印刷方式別では平版印刷(オフセット印刷)が圧倒的ですが、その他の印刷方式(デジタル印刷など)が毎年少しずつ増えています。

「印刷統計」の2004年調査開始以来の製品別シェアを見ると、この16年間で大きく減少したのは出版印刷(30.0%→16.7%)で、包装印刷は逆に13.0%→23.7%と大きくシェアを伸ばし、建装材印刷は3.2%からこの8年間は4%台で推移しています。出版不況の長期化、包装材や建装材の多様化などを反映した数字となっています。

同じく2004年調査開始以来の印刷方式別シェアを見ると、平版印刷は2011年までは70%を超えていましたが、2020年は63.8%となっています。その他の印刷(デジタル印刷など)は逆に3.9%→7.1%と着実に増加しています。

時系列表で過去61カ月分の推移を見ると、商業印刷の動向がそのまま印刷業全体の動向となっていることがよくわかります。商業印刷の動向はクライアント産業の動向によって決まるわけで、また違う統計データを見る必要があります。

『印刷白書2020』では印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、わかりやすい図表にして分析しています。また、限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信しています。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

2019年の印刷産業出荷額(4人以上の事業所)は微増の4兆8453億円(確報値)

「2020年工業統計表 産業別統計表〔概要版〕」によれば、印刷産業の事業所数・従業者数は減少が続くが、出荷額は0.4%増、付加価値額は0.5%増となった。(数字で読み解く印刷産業2021その6)

事業所数・従業者数は減少が続くが、出荷額・付加価値額は微増

「2020年工業統計調査(2019年実績)」の産業別統計表〔概要版〕が5月28日に公表されました。同調査は製造業に属する4人以上の事業所を対象とし、2020年の調査対象数は19万2047事業所、回収率は95.1%です。

製造業全体で見ると、2020年6月1日現在の従業者4人以上の事業所数は18万1877事業所(前年比1.7%減)で4年連続の減少、従業者数は5年連続の増加から減少に転じ、771万7646人(同0.8%減)となりました。2019年の製造品出荷額等は322兆5334億円(同2.8%減)、付加価値額は100兆2348億円(同3.9%減)で、速報値よりは減少幅は小さくなりましたが、すべて減少となりました。

印刷産業に関して見ると、こちらも速報値よりは減少幅は小さくなりましたが、事業所数は9661事業所(同2.3%減)で4年連続の減少、従業者数は25万1733人(同0.8%減)で12年連続の減少となりました。しかし、製造品出荷額等は4兆8453億円(同0.4%増)で12年ぶりのプラス、付加価値額は2兆1291億円(同0.5%増)で2年ぶりのプラスとなりました。

「工業統計調査」の調査結果は速報→概要版→確報の順で公表され、今回の産業別統計表〔概要版〕は、産業別、都道府県別に主要項目を集計したもので、8月に公表予定の「産業別統計表」「地域別統計表」の数値が確定値になります。

なお、2021年は5年ごとに全産業を調査する「経済センサス-活動調査」の実施年のため、「工業統計調査」は中止となります。現在、2021年6月1日を期日として、「令和3年 経済センサス‐活動調査」が実施されていて、同調査の中で工業統計調査と同様の調査事項が調査されています。

JAGAT刊『印刷白書』では、「工業統計調査」が全事業所での調査を開始した1955年からの長期データなどを、わかりやすい図表にして掲載しています。また、限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信しています。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

印刷物は10年連続の輸入超過、アジアが輸出入ともにシェアを拡大

貿易統計で印刷物を見ると、10年連続の輸入超過で差引額はさらに拡大した。輸入先のトップは8年連続でシンガポール、輸出先は中国が不動の1位で、アジアとの取引が拡大している。(数字で読み解く印刷産業2021その5)

輸出は中国が不動の1位、輸入はシンガポールが6割に迫る

財務省「貿易統計」によれば、2020年の印刷物の輸出額は230億82百万円(前年比20.2%減)、輸入額は765億6百万円(同5.9%減)となりました。輸出は3年連続で減少幅が拡大し、輸入は前年の大幅増から4年振りの減少に転じました。

アジアが最大の取引先で、2020年の輸出額は162億26百万円(同16.8%減)ですが、美術印刷が大幅に増加しました。輸入額は611億83百万円(同1.1%増)で、シンガポール、韓国、マレーシア、ベトナム、台湾からの輸入が増えています。輸出入ともにアジアがシェアを拡大し、輸出が70.3%、輸入が80.0%を占めています。

輸出先は中国が不動の1位で、2位がアメリカ合衆国、次いで香港、ベトナム、タイ、台湾、メキシコ、大韓民国、フィリピン、マレーシアまでがトップ10で、香港とメキシコだけが前年より増加しています。

輸入先のトップ10は、シンガポール、中国、アメリカ、ドイツ、韓国、ベトナム、プエルトリコ(米)、マレーシア、アイルランド、台湾の順です。シンガポールからの輸入額は前年より14.5億円増加し、輸入総額の6割近くを占めるまでになりました。

下図は1991~2020年の印刷物の輸出入額とその差引額の推移です。1991~2004年の14年間は輸入超過でしたが、2005~2010年の6年間は輸出超過となり、2011年以降の10年間は逆に輸入超過となっています。輸出入ともに2019年に比べて減少しましたが、輸出の減少幅が大きかったことから、差引額は前年に次ぐ534億円まで拡大しました。

『印刷白書2020』では、印刷物の輸出入相手国上位10カ国の推移表や、アジア・西欧・北米などの地域別の構成比の推移なども、わかりやすいグラフで紹介しています。
限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

2019年の印刷産業売上高は7兆7821億円(「2020年経済構造実態調査」一次集計)

2回目となる「経済構造実態調査」によれば、印刷産業の法人企業の売上高は7兆7821億円(前年比0.6%減)となった。 (数字で読み解く印刷産業2021その4)

「工業統計調査」と同時・一体的に実施される「経済構造実態調査」

総務省・経済産業省は、「2020年経済構造実態調査」一次集計結果を3月31日に公表しました。2019年に創設された同調査は、5年ごとの「経済センサス‐活動調査」の中間年の実態を把握するために、毎年6月1日に実施されます(活動調査実施年を除く)。国民経済計算(特にGDP統計)の精度向上や企業の経営判断に資することを目的とするものです。

調査対象は大きく「甲調査」「乙調査」に分かれ、「甲調査」は製造業~サービス業に属する大企業を中心とした売上高が一定規模以上のすべての企業・団体を対象としています。また、「乙調査」についてはソフトウェア業など特定の35業種のサービス産業に属する事業所および企業を対象とし、7月末の二次集計で公表されます。

これまで実施されていた3つの統計調査(サービス産業動向調査の拡大調査、商業統計調査、特定サービス産業実態調査)を統合・再編し、必要最低限の事項を把握するものです。2019年度から「工業統計調査」と同時実施し、製造業に属する企業の一部については工業統計調査からデータ移送を受けており、一次公表では工業統計調査の速報値を用いています。

印刷産業の出荷額4.8兆円に対して、売上高は7.8兆円

3月26日公表の「2020年工業統計調査」速報値では、2019年の「製造業」の製造品出荷額等は322兆1260億円(前年比2.9%減)、「印刷・同関連業」は4兆8271億円(同0.02%減)です。

これに対して、「2020年経済構造実態調査」一次集計結果では、「製造業」の売上高は400兆9098億円(前年比3.0%減)、「印刷・同関連業」は7兆7821億円(同0.6%減)となっています。

印刷産業の出荷額は4.8兆円なのに、売上高は7.8兆円、この差はどこからきているのでしょうか。

まず「工業統計調査」は4人以上の事業所に関する調査で、「経済構造実態調査」は製造業・サービス業の売上高一定規模以上の企業を調査対象とし、調査対象外企業の推計値を加えて集計しています。ただし、製造業の単独事業所企業については、工業統計調査からデータ移送を受けています。

つまり、「工業統計調査」の出荷額は事業所単位の集計なので、主要製品が「印刷・同関連品」なら印刷産業の出荷額になります。一方、「経済構造実態調査」の売上高は企業単位の集計なので、主業が「印刷・同関連業」なら印刷産業の売上高になるのです。また、出荷額は工場出荷金額(積み込み料、運賃、保険料、その他費用を除いた金額)なので、その分売上高より金額は小さくなります。

『印刷白書2020』では印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、わかりやすい図表にして分析しています。また、限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信しています。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

2019年の印刷産業出荷額(4人以上の事業所)は4兆8271億円(速報値)

「2020年工業統計速報」が3月26日に公表された。4人以上の印刷産業出荷額は前年並みを確保し、付加価値額は微増となった。(数字で読み解く印刷産業2021その3)

印刷産業出荷額は前年の大幅減から、前年並みで下げ止まりとなる

「2020年工業統計速報」(2020年6月1日現在で実施)によれば、従業者4人以上の事業所数は18万1299事業所(前年比2.1%減)、従業者数は769万7536人(同1.0%減)となりました。2019年の製造品出荷額等は322兆1260億円(同2.9%減)で、全24業種のうち減少は16業種(前年は4業種)となりました。

印刷産業に関して見ると、事業所数は9636事業所(同2.5%減)、従業者数は25万579人(同1.2%減)で、製造業全体よりも減少幅は大きくなりましたが、製造品出荷額等は4兆8271億円で前年並み、付加価値額は2兆1219億円(同0.1%増)となりました。

工業統計調査の結果は、「速報」→「概要版」→「確報」の順で公表され、速報では数値は小さく出る傾向があります。印刷産業出荷額は2018年の速報値では前年比5.3%減でしたが、確報値では4.9%減となり、220億円ほど増加しました。今回の速報値では前年差が10億円ですから、確報値ではプラスとなる可能性もあります。

印刷産業の出荷額・事業所数は東京が1位

製造品出荷額等が最も大きい産業は、輸送用機械器具製造業(構成比21.1%)で、食料品製造業(同9.2%)、化学工業(同9.1%)の順となっています。

製造品出荷額等が最も大きい都道府県は、愛知(同14.9%)で、神奈川(同5.5%)、静岡(同5.3%)、大阪(同5.2%)、兵庫(同5.0%)と続きます。都道府県別第1位産業をみると、輸送用機械器具製造業が14都県、食料品製造業が10道県、化学工業が7府県、電子部品・デバイス・電子回路製造業が4県です。

印刷産業では、製造品出荷額等は東京(構成比15.3%)が最も大きく、埼玉(同14.5%)、大阪(同9.4%)、愛知(同6.4%)の順、事業所数も東京(同17.6%)が最も多く、大阪(同11.3%)、埼玉(同8.4%)、愛知(同6.5%)の順です。

東京の主要産業を見ると、輸送用機械器具製造業、電気機械器具製造業に次いで、印刷産業は第3位産業に入っていて、東京の地場産業といえます。

『印刷白書2020』では印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、わかりやすい図表にして分析しています。また、限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信しています。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

最新の「延長産業連関表」で印刷産業の調達先と販売先の変化を見る

印刷産業は1年間にどれだけのモノ、サービスを購入しているか。印刷物はどの産業にどのくらい1年間に購入されているか。2015年を基準年とする最新の「延長産業連関表」で見てみよう。(数字で読み解く印刷産業2021その2)

同業者間取引は年々縮小、プラスチック製品、印刷インキは増加傾向

「産業連関表」は国内で1年間に行われたすべての産業の取引を一つの表にまとめたもので、各産業間のモノやサービスの取引状況を金額で把握できます。
日本全国を対象とした「産業連関表(基本表)」は、10府省庁が共同で5年ごとに作成していて、「平成27年(2015年)産業連関表」(2019年6月公表)が最新のものです。

経済産業省は、この「産業連関表(基本表)」をベンチマークとして、「延長産業連関表」を毎年作成していて、1月27日に「平成29年(2017年)延長産業連関表」を公表しました。

延長産業連関表(96部門表)の「013印刷・製版・製本」を列方向(タテ)に見ると、印刷産業がどの産業から1年間にどれだけの金額の生産物やサービスを購入しているか、行方向(ヨコ)に見ると、印刷産業の商品・サービスの販売先がわかります。

『印刷白書2020』では、2020年3月公表の「平成28年(2016年)延長産業連関表」を中心に、印刷産業とその取引先産業やクライアント産業の動きを見ています。「013印刷・製版・製本」の行列を金額の大きい順に並び替えて、取引額の大きい産業を「原材料等の調達先上位10産業」「販売先上位10産業」としてグラフにしています。今回は2017年延長表の公表を受けて、2017年の上位10産業に関して、2015年からの推移を見てみましょう。

「原材料等の調達先上位10産業」を実質表で見ると、材料費、商業(卸売マージン額など)、同業者間取引が上位を占め、順位に変動はありません。上位5産業で7割を占めています。
印刷市場の縮小を反映して2015年から2017年にトータルで5.1%減となりました。特に「物品賃貸サービス」(産業用機械器具賃貸業、貸自動車業、電子計算機・同関連機器賃貸業、事務用機械器具賃貸業など)が2015年比23.4%減、「印刷・製版・製本」が同14.7%減と大幅に減少しました。一方、「プラスチック製品」は7.5%増、「化学最終製品」(印刷インキなど)は5.0%増と堅調です。

得意先1位は「金融・保険」、出版、新聞は2位に後退

「販売先上位10産業」から印刷産業の得意先を見ると、「映像・音声・文字情報制作」(出版、新聞など)が長年首位を占めていましたが、2017年に初めて「金融・保険」が1位となり、構成比は3位の「商業」まで同じ規模になっています。
2015年から2017年にトータルで6.9%減となり、「食料品・たばこ」「医療・福祉」だけがプラスとなりました。減少幅が大きいのは、「映像・音声・文字情報制作」17.0%減、次いで「印刷・製版・製本」14.7%減、「研究」「商業」「公務」も2桁台の減少となりました。

『印刷白書2020』では、産業連関表を使って、印刷産業の取引の流れを細かく見ています。限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)