研究調査」カテゴリーアーカイブ

2021年の印刷ビジネスを振り返る

2021年もコロナに始まりコロナに終わった。徐々に底打ち機運への期待も高まるが、先行き不透明感はいまだ濃い。それでもJAGATの各種調査結果*からは一進一退を繰り返しながら良い方向に向かっていく印刷会社の姿が浮かび上がる。2022年を考えるために2021年までを振り返る。

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標準原価を活用した部門別収支管理

標準原価は仕切り価格とも呼ばれ営業と製造の間のぶれない基準として機能する。営業にとっては製造からの購入価格(営業仕入)となり、製造にとっては営業に対する社内販売価格 (製造売上)となる。

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マーケティングの潮流、BtoCとBtoBの視点から

対面営業のような人的接触の存在感はまだ大きいが、ニューノーマルに向けた顧客創造のマーケティング戦略が大きく変わると思われる。

 

BtoBマーケティングの必要性

BtoBビジネスではマーケティングは不要と考えられてきた。それは、業種、顧客、製品ごとに市場が大きく異なり、その特性を理解することに明け暮れてしまいがちだからである。BtoBはBtoCと異なって選好的、感情的に選ばれることが少なく、AIDMAのようなファネル型モデルを適用しにくい。顧客は法人だから、購入の関与者が多く、意思決定は分岐が多く行ったり来たりの経過をたどる。だからマーケティングが不要なのではなく、だからこそ必要なのである。ちなみにBtoBマーケティングを考える際はBtoCモデルを基礎に考える形で良いと思うが、違いが相当にあるのでその点はまたの機会に触れたい。

BtoCとBtoB

長期継続的な取引が中心となるBtoBビジネスでは、信頼とブランド、サービスが大切になる。多少の安さよりは供給や品質の安定性、面倒見の良さが重視される。スイッチングコストを高めておくことが肝要だ。取引の長期化によって製品がコモディティ化すれば価格は必然的に落ちていく。製品周辺のサービスも合わせて包括的に提供するサービスマーケティングの流れになることは多くの業種の事例が物語る。卑近な例でいえば、コピー機を販売するのでなく、コピーの利便性のみを売って所有権は移転せず、メンテナンスは売り手が担うモデルである。

サービスマーケティング化

ところで経営でいう場合のサービスはもちろん無償奉仕を意味しない。そして顧客のバリューチェーンの一部を肩代わりするようなサービスを想定するようにしたい。「印刷産業経営動向調査2021」が初めて調べた需要調査(製品26種・生産方式8種・付帯サービス10種)を読むと、とりわけ印刷製品とサービスの相性は良いことが理解できる。BPO(Business Process Outsourcing)と言っても良いが、本業の印刷周辺に何か手伝えることはないかと、顧客を研究して自社の強みとの整合を検討することの有効性が高い。顧客業務へのカスタマイズが一つの価値になる。

イノベーションと組合せて

前述のコピー機の例でいえば、これは販売方法のイノベーションを伴った。ドラッカーはマーケティングとイノベーションこそが企業の2大機能と述べた。コロナ禍でも堅調な中小企業を見ると何気ない小さなイノベーションによる事業を複数持っていることに気づく。顧客の声をあまり聞き過ぎても、ありふれたサービスになって市場をさらに飽和させてしまうという、BtoBの難しさはこのバランスにある。まずは小さくても顧客の潜在需要を探り当ててサービス設計する視点が望ましい。11/14放映NHKスペシャルでのホンダのスタンスは、変化が速いのでもはや変化対応型では後手を踏むというものだ。自ら変化を起こす側からの提案が価値を持つ時代になった。以下の研究会とセミナーでは、本稿での視点から発表と議論を展開する。  (研究調査部 藤井建人)


■関連セミナー、関連レポート


2022年1月26日(水) 15:00~17:00
広告とメディアの動向と展望 2021-2022

2022年2月8日(火) 10:30~12:00
インサイドセールスの機能と役割
-マーケティング部長2人が語るニューノーマルの営業-

2022年2月9日(水) 13:30~15:00
webと地域活性化による事業創造
-自社拠点を生かして事業を継続的に生む仕組み-

2022年1月31日(月)~2月10日(木)
page2022オンラインカンファレンス・セミナー 計12本
基調講演・プレセミナー 2本
カンファレンス・セミナー 10本

関連レポート
2021年11月24日 マーケティングの潮流、BtoCとBtoBの視点から

生活者のデジタルシフトに対応するDM

10月26日に実施した印刷総合研究会「実践!デジタル×紙×マーケティング」では、コロナ禍でのDMへの影響やパーソナライズ化や デジタルマーケティングとの連携 が進むDMの現状についてトッパン・フォームズ(株)の今井尋氏にお話しを伺った。

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2021年のグッドデザインと印刷

2021年度グッドデザイン賞の大賞をはじめとする特別賞が、11月2日に発表された。受賞提案には社会の多様性を反映したデザインが多く見られ、その中で印刷関連会社も健闘している。

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印刷トラブル!と人間模様 『印刷ボーイズに花束を』発売!

ウェブマガジン「GetNavi」に連載中で印刷業界ネタ満載のマンガ『今日も下版はできません!』の書籍版、シリーズ第3 弾の『印刷ボーイズに花束を』が発売された。

印刷トラブル!と人間模様

専門性の高い職業を舞台にしたお仕事マンガは、以前から人気の高いジャンルの一つである。

印刷ボーイズに花束を(表紙)

『印刷ボーイズ』シリーズは、数少ない印刷業界を描いたマンガの一つである。中堅印刷会社の「ナビ印刷」の営業部に所属する刷本正(すりもと・ただし)を中心に、営業部・製版部・工場のスタッフたちが奮闘し、連日のように襲いかかる難題や客先からの無理な注文に対処していくストーリーが魅力的である。

毎回さまざまなトラブルに見舞われては何とか対処していく姿に、思わず笑いがこぼれてしまう。また、一話ごとに印刷に関する知識がストーリー中で解説されているため、一般の読者にも自然に理解できるようになっている。

今回のストーリー中では、「DTPエキスパート試験」「広色域印刷・シズル感」「活版印刷」など、興味深い内容が盛り込まれている。

新人の営業マンが本格的に印刷知識を習得しようとDTP エキスパート試験を目指し、製版部の女性スタッフと勉強会を行っている。それを知った先輩社員(この女性に気がある)は、最初は「試験なんて」と反発していたが、結局は一緒に勉強し、そろって合格する。

また、RGB にこだわるデザイナーの要請から広色域インキで対応することとなり、さらに得意先担当者が「シズル感」に執着したことから、高精細印刷にまで発展したという話も収録されている。その結果、シズル感あふれる立派な料理本が完成し、発売後は大評判になる。

活版印刷の達人が手掛けた名刺が、各界の大物たちに評判の「幸運の名刺」として有名になるというストーリーもある。

トラブルやクレームだけでなく、印刷を通じた夢のある内容も盛り込まれている。

印刷の実体験をベースに

本誌2020年2月号では、作者である奈良裕己氏へのインタビューを掲載している。奈良氏は大手印刷会社の営業マン出身である。愛すべき印刷会社の日常や個性豊かなキャラクターを描きたい、世の中に印刷の楽しさや奥深さを知ってもらいたいという思いで作品を描いていると、熱く語っていた。

また、作品のキャラクター設定は、少し怖いけれど頼りになるような現場の方たち、印刷が大好きで仕事に一生懸命な営業スタッフなど、実在する人をヒントに設定されているそうだ。印刷会社時代にはDTPエキスパートも取得されており、スキルアップの大切さを実感したそうである。

『印刷ボーイズ』シリーズには、印刷会社の日常や楽しさが存分に描かれており、印刷人必読といえるだろう。未読の方がおられたら、電子版ではなく紙版の書籍を購入して読んでもらいたい。
紙版の良いところは、周囲の人と読書体験を共有できることである。ぜひ『印刷ボーイズ』の楽しさを共有してもらいたい。

(資格制度事務局 千葉 弘幸)

※(JAGAT Info 2021.10月号より抜粋)

印刷ボーイズに花束を 業界あるある「トラブル祭り」3
株式会社ワン・パブリッシング

定着しつつあるオンライン校正

2020年4月に新型コロナウイルスに関わる最初の緊急事態宣言が発出されて、1年4ヶ月以上経過した。現在も、多くの都道府県で爆発的な感染拡大の状況となっており、未だコロナ禍の収束を見通すことができない。

印刷ビジネスにおいても、クライアントおよび印刷会社の双方で、広くテレワークが実施されている。そのため、従来のような校正紙のやりとりから、オンライン校正に移行するケースが急速に拡大している。

PDFを介した校正や、ワークフローRIPのオンライン入稿・校正・検版機能は、以前から実現されていたが、実際にはそれほど浸透していなかった。校正紙のやり取りに慣れた発注関係者や営業担当者に、新しい業務フローを提案することは容易ではなかったためである。

デザイン制作や出版物の編集制作におけるオンライン校正は、オフィスでも自宅でも校正作業がおこなえ、一斉通知やチャット機能により関係者間のコミュニケーションも容易である。プロジェクト全体の進行状況を共有することもできる。

印刷会社では、印刷入稿から赤字校正・プリフライト・デジタル検版などをオンライン化することで、顧客サービスや納期短縮、品質管理の面で大きな効果を上げることができる。つまり、オンライン校正は印刷ワークフローのDXそのものだと言える。

実際にオンライン入稿・校正に移行した印刷会社のほとんどが、社内業務の大幅な効率化と顧客サービスの向上を実現しているという。クライアントからの評価も高いようだ。

印刷物特有の色校正をどうするかは、引き続き課題とされるだろう。しかし、コロナ禍が収束したとしても、オンライン校正が印刷ワークフローのスタンダードとして、このまま定着することは間違いないといえる。

(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)