戦後日本におけるデザインの変遷をたどる

掲載日:2023年8月24日

1950年代から2020年代までのグッドデザイン賞受賞デザインを紹介する展覧会「GOOD DESIGN COLLECTION 1950s-2020s」を通じて、日本のデザインの変遷をたどる。

グッドデザイン賞は、1957年に通商産業省(現:経済産業省)が創設した「グッドデザイン商品選定制度(以下、Gマーク制度)」を前身とし、1998年に主催が日本産業デザイン振興会(現:日本デザイン振興会 以下、JDP)に移管されたことを機に、現在の名称となった。
創設の目的は産業の発展にあったが、時代の変遷とともに産業のみならず消費者の利益も重視するようになり、現在では、暮らしや社会をよりよくしていくデザインを見つけ、広範な人々と共有することを目的にしている。

JDPが運営するGOOD DESIGN Marunouchiで、6月2日〜7月9日まで「GOOD DESIGN COLLECTION 1950s-2020s」が開催された。本展は、グッドデザイン賞の歴史を四つの年代に分けて、過去の受賞デザイン5万点以上からそれぞれの時期を象徴する作品を選び展示するものであった。

本稿ではそれに沿って、日本のデザインの変遷をたどる。

1950~1960年代

Gマーク制度第1回目の1957年に選定された商品は47点で、食器のほか精米機・ミシンなど、日常生活に必要な品が目立つ。やがて1960年代に入ると、オートバイ・オーディオ機器・カメラ・テレビなども数多く選定されるようになっていった。

電気釜

1958年受賞「電気釜 RC-10K」
東京芝浦電気(現:東芝)が開発。米が炊き上がる時間になると自動でスイッチが切れる仕組みを採用することにより、釜で米を炊くという従来の方法に比べ、炊飯の手間を大幅に軽減させた。日本の米中心の食生活から生まれた独自性の高い製品である。

ニコンF

1966年受賞「ニコンF」
日本工学工業(現:ニコン)初の一眼レフカメラ。外観や操作部のデザインをグラフィックデザイナーの亀倉雄策氏が担当したことで知られる。堅固な構造でプロユースに耐え、とりわけ1964年の東京オリンピックの報道写真でその名声を確固たるものとした。

1970~1980年代

高度成長期を経てバブル経済に向かった時代で、生活にゆとりが生まれ、Gマーク制度でも日本独自のアイデアで新しい文化に寄与する製品が選定されるようになった。

ウォークマン WM-2

1981年受賞「ウォークマン WM-2」
ソニーのステレオカセットプレーヤー。いつでもどこでも音楽が楽しめて、なおかつ小型ながらステレオ再生を可能としたことから、若者に支持された。なお、受賞したWM-2はシリーズ2代目の機種である。

フジカラー 写ルンです

1986年受賞「フジカラー 写ルンです」
富士写真フイルム(現:富士フイルム)のレンズ付きフィルム。観光地などで買ってすぐに撮影できる気軽さから、ヒット商品となった。現在でもレトロブームに乗って、後継機種が若い世代を中心に支持されており、2017年にはグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞している。

1990~2000年代

バブル経済の崩壊などの社会情勢の変化を背景に、人々の意識が成長第一から身の回りを見つめ直す方向へと次第に変化し、デザインの分野では地球環境問題やユニバーサルデザインが意識されるようになった。また、ITの発展によりコミュニケーションの在り方が変わった。
そして、Gマーク制度自体も1998年に名称を「グッドデザイン賞」に変えると同時に「新領域デザイン部門」や「コミュニケーションデザイン部門」を設置するなど、デザインの概念を広げていった。

デジタル・ムーバP101 HYPER

1996年受賞「デジタル・ムーバP101 HYPER」
エヌ・ティ・ティ移動通信網(現:NTTドコモ)と松下通信工業(現:パナソニック モバイルコミュニケーションズ)による携帯電話機。コンパクトながら高速データ通信を可能にしたことで携帯電話の市場の裾野を広げるきっかけとなった機種の一つである。

プリウス ZA-NHW20

2003年グッドデザイン大賞受賞「プリウス ZA-NHW20」
トヨタ自動車のハイブリッド乗用車。環境に配慮した低燃費・低エミッション、運転操作系のユニバーサルデザイン、トライアングル・シルエットと呼ばれる三角形をイメージしたボディ形状などによって、時代をリードする乗用車のイメージを確立した。

2010~2020年代

2011年の東日本大震災を経て、ICTが現在進行形で爆発的に進歩していることは、皆さんもご承知のとおりだろう。その結果、インターネットを介した幅広い人々との情報共有や協働の取り組みが数多く生まれた。グッドデザイン賞においても、良いデザインの定義を模索しており、サービス・システムを含めて扱う領域がさらに広がっている。

デザインあ

2012年グッドデザイン大賞受賞『デザインあ』
NHK Eテレが、子供たちのデザイン的な思考を育てる目的で企画した番組。身近な物事の構造や仕組みを映像と音楽で明快に解説し、デザインとは人と物をつなげ、暮らしをより良くするものであることを伝えている。

おてらおやつクラブ

2018年グッドデザイン大賞受賞「おてらおやつクラブ」
寺の仏前に供えられた食品などを仏様からの「おさがり」として、経済的な困難を抱える家庭に「おすそわけ」する活動であり、趣旨に賛同する全国の寺院と支援団体が連携して取り組みを広げている。本件の受賞は、社会的な取り組みがデザインとして成り立つこと、またデザインが社会課題を解決する手段となることを周知させた。


このほかにも、時代ごとの生活・文化や、新たな分野に挑む企業の気概などを感じさせるデザインが多数展示されており、見応えのある展示会となっていた。

なお、グッドデザイン賞のウェブサイトでは、過去全ての受賞デザインを閲覧できる。検索の仕方次第で年度ごとの受賞傾向、あるいは特定分野のデザインの変遷など、さまざまな発見ができるので、興味ある分野の受賞デザインを探してみてはいかがだろうか。

(研究調査部 石島 暁子)

「GOOD DESIGN COLLECTION 1950s-2020s」
会期:2023年6月2日(金) 〜7月9日(日)
会場:GOOD DESIGN Marunouchi

会員誌『JAGAT info』 2023年7月号より一部改稿

関連ページ

印刷・メディアとデザイン