包装分野の技術とデザインの最新動向

掲載日:2025年12月11日

印刷博物館 P&Pギャラリーで10月4日〜12月7日まで開催された「現代日本のパッケージ2025」展の概要を紹介する。

「現代日本のパッケージ2025」展示会場
▲ 展示風景。コンクールごとのコーナーに分かれて展示されていた。

「現代日本のパッケージ」展は、ジャパンパッケージングコンペティション、日本パッケージデザイン大賞、日本パッケージングコンテストの三つのコンクールの受賞作品を紹介する展覧会で、2015年から毎年開催されている。11回目となる今回は、2025年に発表された各受賞作品の一部が展示された。
以下では、各コンクールの概要とともに、上位受賞作品をピックアップして紹介する。なお、作品名は各コンクールで発表されたもの、コンクールの掲載順は本展の公式ウェブサイトに準じている。

第64回ジャパンパッケージングコンペティション

印刷産業関連10団体を正会員とする日本印刷産業連合会が主催。1962年から毎年開催されており、三つのコンクールの中で最も長い歴史を持つ。一般消費者向けに流通している商品の包装を対象に、市場性、機能・構造、デザイン、社会性の4点から総合的に審査されるのが特徴であり、応募部門は洋菓子、衣料品、贈答用品などの商品カテゴリー別に設けられている。
今回は経済産業大臣賞2点を筆頭に40点の受賞作品が選出され、会場ではその全てが展示されていた。

カップヌードル カプヌのエモい出パッケージ(日清食品)―経済産業大臣賞

カップヌードル カプヌのエモい出パッケージ
▲ カップヌードル カプヌのエモい出パッケージ(日清食品)の展示の一部

カップヌードルは1971年の発売開始から50年以上にわたり販売されているロングセラーである。日清食品では顧客との関係をより強めるために、ウェブサイト上でカップヌードルにまつわる思い出を募った。アンケートは2023年12月と2024年2月に、カップヌードルを自身で購入して食べたことのある15〜89歳の顧客を対象に行い、計1560件の回答を得た。その中から厳選した100種類の言葉に「エモーショナル(感情的)」を語源とする「エモい」と「思い出」を合成した造語「エモい出」という名を付け、これらの言葉をカップの側面に個別に印刷した100種類の商品を製造し、2024年に全国で限定発売した。
「エモい出」の内容は「山登りで箸を忘れて/木の枝で食べました/その時の彼女が今の妻です(49歳男性)」「好きなバンドの海外ツアー/持って行ったコレのおかげで/ファン同士の交流が深まりました(29歳女性)」など多彩であり、文字は「CUP NOODLE」のロゴの形状に似せて1文字ずつデザインされたという。斬新なアイデアと100種類の容器の製造技術が評価された。

CookDo(R)(中華・韓国醤調味料) 熟成豆板醤/ コチュジャン/ 甜面醤/ 担々醤(味の素)―経済産業大臣賞

CookDo®(中華・韓国醤調味料)
▲ CookDo(R)(中華・韓国醤調味料) (味の素)。熟成豆板醤とコチュジャンのチューブと瓶、甜面醤の瓶、 担々醤のチューブを展示。

チューブと瓶の2種類のパッケージがあり、そのうちチューブの素材に、従来より絞り出しやすい「チューブなパウチ(R)」が使用されていることが特徴である。これはTOPPANが開発したもので、レトルト食品や洗剤の詰め替え用製品のパウチ容器に使われている薄型のラミネートフィルムを筒状に加工し、先端に注出口を取り付けた容器である。従来のラミネートチューブに比べて薄く柔らかいので、中身を最後まで絞り出しやすいことと、プラスチック使用量が50%削減されたことが評価された。
デザイン面では、商品のキャッチコピーである「無限に使える」にちなみ、無限大を表す記号「∞」に目玉のような黒丸を加えた形のイラストをあしらったことが、店頭での訴求力を高める表現として評価された。

ウィルキンソン タンサン ラベルレス エコマルチパック(アサヒ飲料)
―経済産業省製造産業局長賞

ウィルキンソン タンサン ラベルレス エコマルチパック
▲ ウィルキンソン タンサン ラベルレス エコマルチパック(アサヒ飲料)

マルチパックとは、まとめ買いの需要に応えるために複数の同一商品をひとまとめにした包装形態のことで、ペットボトルの場合は6本入りのマルチパックがよく流通している。従来はボトルの胴部までを覆う形状の紙資材を用いることが多く、輸送時の結束は保たれるものの、紙の使用量が多いことと廃棄時にかさばることが課題になっていた。そこで、ボトルの上部だけを固定する形状のエコマルチパックが開発された。それぞれの切れ込みにボトルのキャップを通すことで6本を固定し、紙の側面を折り曲げることで結束の強度を持たせた。この側面に商品名を印刷することでラベルレスボトルでも商品名が認識できるほか、側面の端に切り欠きを入れることでボトル1本1本が取り出しやすくなっていることも特徴である。
コンパクトな設計により、環境負荷の低減と廃棄時の利便性を追求した点が評価された。

日本パッケージデザイン大賞2025

パッケージデザインに関わる法人および個人で構成される日本パッケージデザイン協会が主催。1985年から隔年で開催されている。創造性、審美性、機能性、市場性、社会性の5点を審査基準とし、特に創造性と審美性が重視される傾向にある。
今回の応募部門は食品、化粧品などの商品カテゴリー別8部門に、輸送用ケース、VI・BI を加えた10部門。入選作品は417点、その中から大賞1点、金賞8点、銀賞10点、銅賞12点、特別審査員賞5点(うち1点は銀賞とダブル受賞)で合計35点の受賞作品が選出され、会場ではその全てが展示された。

ポーラ コスモロジー(ポーラ)―大賞

ポーラ コスモロジー
▲ ポーラ コスモロジー(ポーラ)

コスモロジーは、気候の変化や多忙な暮らしなどによる肌へのストレスを癒すことを目指したスキンケアブランドである。パッケージデザインにおいては、使用する人の感情を呼び覚ます仕掛けを考案したという。すなわち、チューブ製の容器の側面には目の形に見える二つの楕円を印刷し、また、中身を最後まで使い切るために付属している絞りパーツは、取り付ける位置を変えることで眉や口の形に例えることができる。そのため、笑った顔や怒った顔など容器にさまざまな表情を生み出して楽しめるのが特徴である。
パッケージで直感的なコミュニケーションを実現させたことが評価された。

ポータブルシアターシステム「HT-AX7」(ソニー)―金賞

ポータブルシアターシステム「HT-AX7」
▲ ポータブルシアターシステム「HT-AX7」(ソニー)

家庭でシアター空間を構築する際に用いるワイヤレススピーカーセットのパッケージである。製品本体の形状に沿って設計することで、体積の最小化を図った。また、パルプモールドの二層緩衝構造を採用することで内装と外装を一体化させた。そのパルプモールドの素材には、竹・サトウキビ繊維・再生紙によるソニーオリジナルの紙素材「オリジナルブレンドマテリアル」が使用されている。さらに、パッケージ本体と蓋の高さがほぼ同じで、蓋を開けると製品の上半分が露出する構造になっているため、製品を取り出しやすいことも特徴である。
紙素材の活用による環境負荷の低減とアクセシビリティへの配慮が評価された。

SALWAY(サルウェイ)輸送箱(名優)―金賞

 SALWAY(サルウェイ)輸送箱
▲ SALWAY輸送箱(名優)

医療機関で行う再生処理のためのプロダクトブランド「SALWAY」のために設計された輸送用段ボール箱である。再生処理とは、鉗子など使用済みの医療器材を安全に再利用できる状態にすることであり、専門知識と専用の機材が必要となる。医療機器の輸入・卸販売を手掛ける企業である名優は、自社で扱っている再生処理のための製品群を「SALWAY」と名付けてブランディングした。ブランドカラーは清潔感のある濃いブルー、ロゴは太い囲み罫とサンセリフ書体によるシンプルかつ堅牢なイメージのデザインで製品の信頼性を表現した。輸送用段ボール箱にもブランドロゴが印刷されているほか、内容物の形状やサイズに合わせて箱の寸法を変更することができる構造になっている。
輸送コストの削減を図りながら、ブランドイメージをアピールしている点が評価された。

2025日本パッケージングコンテスト(第47回)

包装分野に関わる幅広い法人・個人で構成される日本包装技術協会が主催。1967年に開始され、現在では毎年開催されている。審査基準は適正包装をはじめ環境適合性、保護・保全性、経済性、製造流通適性、視覚効果など11項目、審査部門は食品包装、日用品・雑貨包装などの商品カテゴリー別の9部門に、輸送包装、工業包装など4部門を加えた13部門があり、特に機械部品の包装など一般的には目にする機会の少ない分野も審査対象となることが特徴である。
今回は最高賞である経済産業大臣賞を含むジャパンスター賞12賞、包装技術賞6賞、包装部門賞13賞が選出された。本展ではジャパンスター賞と包装技術賞のうち37点が紹介されていた。なお、受賞作品にはワールドスター(世界包装連盟主催)とアジアスター(アジア包装連盟主催)の二つの公募展への出品資格が与えられる。

イプサME(資生堂)―ジャパンスター賞 経済産業大臣賞

イプサME(資生堂)
▲ イプサME(資生堂)

化粧品のディスペンサーポンプ型容器の製造において、グローバル企業のAMCORが中心となって開発した、ボトル成形と中味液充填を同時に行うLiquiForm(R)という技術を採用した。一般的なプラスチック製のボトルは、部材を空気の圧力で成形して製造されるが、LiquiForm(R)では加圧された中味液を空気の代わりに充填することで容器を成形するため、作業工数を削減できる。また、工場間で空の容器を輸送する必要がなくなるので物流コストも削減でき、サプライチェーン全体を通してのCO2削減が期待できる。
環境負荷軽減の工夫に加え、ボトルに柔らかい素材を使用することによる心地よい使用感、シンプルで美しいデザインなどが総合的に評価された。

海外向けインジェクター集合包装改善(スズキ/王子コンテナー)
―ジャパンスター賞 経済産業省製造産業局長賞

海外向けインジェクター集合包装改善
▲ 海外向けインジェクター集合包装改善(スズキ/王子コンテナー)。左:改良後、右:改良前。

ここでいうインジェクターとは、ガソリンエンジンなどにおいて、燃料を霧状に噴射して空気と混合させ、シリンダー内で効率よく燃焼させるための装置を指す。手の平に乗るほどの小型サイズの部品である。従来は工場に輸送する際、製品を1点ずつプラスチック製の緩衝材で保護し、横向きに並べて段ボール箱に収容していたため、梱包にも取り出しにも時間を要したうえ、プラスチックの使用量も問題となっていた。そこで、段ボール板に穴を開けて、製品を縦向きに差し込んで収容する方式に改善した。
作業時間の短縮とプラスチック包装資材の廃止を実現したほか、一箱への収容数が96本から120本へと増加することで収容効率が向上したことも評価された。

空き箱を楽しく有効活用「ロッテミニチュア部」(ロッテ)
―ジャパンスター賞 日本マーケティング協会会長賞

ロッテミニチュア部
▲ 空き箱を楽しく有効活用「ロッテミニチュア部」(ロッテ)。左:組み立てたアイスストッカーにミニチュアを収容した例。 中・右:キャンペーン企画用にデザインされたパッケージ。

紙箱入りマルチパックアイスの空き箱を利用して、ミニチュアのパッケージを作ろうというキャンペーン企画である。「モナ王マルチ」「北海道バニラバー」など同社が販売してきた商品のパッケージ側面に、同じパッケージデザインを縮小した展開図を配置し、切り取り線とのりしろも印刷。これを切り取って組み立てると購入した商品のミニチュアが完成するという趣向である。また、ロッテのウェブサイトには、顧客が作ったミニチュアを収容するためのアイスストッカーの展開図が公開されており、顧客自身がプリントして組み立て、ままごと遊びや部屋の飾りとして利用できるようになっている。
SNSでは購入者が作ったミニチュアの画像や動画がアップされており、資源の有効活用とともにブランドイメージの向上にもつながっていることが評価された。


ここまで紹介してきた作品からは、包装には商品の保護をはじめ、環境への配慮や製造・物流工程の効率化、利便性の向上といったさまざまな面から社会の要請に応えることや、商品の訴求やブランディングのためのツールなど多種多様な役割があることが分かる。そして、小売商品から輸送用の梱包材まで、多岐にわたる分野の包装を一覧できる貴重な機会でもあった。

現代日本のパッケージ2025 

会期(終了):2025年10月4日(土) ~ 12月7日(日)

印刷博物館 ウェブサイト 

(JAGAT 石島 暁子)

会員誌『JAGAT info』 2025年11月号より一部改稿

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