働きやすい職場・働き続けられる職場は確保できているか

掲載日:2016年7月8日

若者や女性が働きやすい職場環境が求められています。印刷企業ではどの程度対応が進んでいるのでしょうか(数字で読み解く印刷産業2016その9)

JAGATでは2015年度の東京都「印刷業界における若手従業員処遇改善事業」のサポート事業者として、従業員の定着率向上を目指す中小印刷会社に対し、資格取得支援、スキルアップ研修、コンサルティングを実施しました。定着率の向上は単年度で成果を出すことは難しい事業ですが、印刷業界全体としても少しずつ成果が出てきているようです。

ホワイト企業トップ500に印刷会社6社がランクイン

東洋経済CSR調査では毎年新入社員が3年後に何人在籍しているかをきいています。2012年4月入社の新卒3年後定着率(2015年4月在籍率)の平均は84.7%で、業種別では製造業が高く、土日勤務が多いサービス業(67.4%)や小売業(72.0%)は低くなっています。
新卒者3人以上で在籍者を開示している965社を対象とした「新入社員に優しいホワイト企業トップ500」では、定着率100%が120社に上り、印刷会社では3人採用のプロネクサスが同率1位、次いで凸版印刷が369位、大日本印刷が400位、サンメッセが448位、トッパン・フォームズが477位、共同印刷が493位にランクインしました。

「新入社員に優しいホワイト企業トップ500」の印刷会社一覧

順位 社名 男女合計定着率(%) 男性(人) 女性(人)
2012年入社者 2015年在籍者 2012年入社者 2015年在籍者
1 プロネクサス 100.0 2 2 1 1
369 凸版印刷  92.0  165  150  61  58
400 大日本印刷  91.4  175  160  68  62
448 サンメッセ  90.0  13  13  7 5
477 トッパン・フォームズ  88.9  21  18  6  6
493 共同印刷  88.5  20  17  6  6
資料:東洋経済『CSR企業総覧』2016年版
注:男女合計の3年後新卒定着率でランキング(新卒者3人以上が対象)。『CSR企業総覧』2016年版掲載の1325社のうち男女とも入社者、在籍者を開示している965社が対象

 

定着率の高い企業の特徴として「eラーニングや通信教育といった自己啓発制度などで社員の能力開発を推進する」「世代ごとのキャリアアップ支援や資格・技能検定取得奨励制度、国内・海外留学制度、表彰制度などの各種制度で従業員の能力アップを後押しする」などが挙げられています。

定着率や有給休暇取得率、残業時間などによって、ホワイト企業かどうかの判断はなされます。
東洋経済オンライン掲載のランキングでは、「有給休暇取得率 トップ300社」には印刷会社は入っていませんが、「育休取得者が多い100社ランキング」の31位に大日本印刷、71位に凸版印刷が入っています。さら に「女性部長数ランキング上位50社」では大日本印刷が40人で19位となりました。

 

女性が働きやすい職場・働き続けられる職場が求められている

経済産業省と東京証券取引所は、2012年度より女性活躍推進に優れた上場企業「なでしこ銘柄」を選定しています。2016年度は全上場企業を対象に、女性管理職比率を開示している企業について、女性活躍に関するスコアリングを実施するとともに、財務指標(ROE)によるスクリーニング等を経て、45社を選定しています。印刷会社では、女性管理職の増加や男性の育児休業取得を進めているトッパン・フォームズが2013年度から3年連続で選ばれています。

また、従業員等の健康管理を経営的な視点で考えて戦略的に実践している「健康経営銘柄2016」25社にも、トッパン・フォームズは選定されています。「健康経営に関する方針」を全社方針として打ち出し、多様な人材が生き生きと働き続けることができる基盤づくりとして、健康保持・増進活動を推進し会社の発展向上を目指しています。事業所内の完全禁煙化と事業所内診療所による禁煙外来活動、喫煙者・非喫煙者を問わず就業時間内に肺年齢チェックなどを行い、喫煙率は2010年度38.0%から2014年度28.9%へと大きく減少しました。

企業経営における女性活躍推進の意義として、「平成27年度「なでしこ銘柄」レポート」では、①多様な市場ニーズに対応、②リスク管理能力や変化に対する適応能力の向上、③資本市場における評価の獲得、長期・安定的な資金調達、④労働市場における評価の獲得、優秀な人材の確保・獲得の4点を挙げています。

さらに、「女性活躍推進に積極的に取り組み、成果を上げている企業は、「多様な人材を活かすマネジメント能力」や「環境変化に適応するための自己変革力」があるという点で、「成長力のある企業」であると考えられます」としています。

印刷企業においても、女性の働きやすい職場、制度の充実によって幹部社員・役員への登用状況が評価されると同時に、さらなる成長へとつなげていくことが求められています。

JAGAT『印刷白書』では、印刷産業の産業構造を見るために、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」「毎月勤労統計調査」などから、印刷産業の平均勤続年数、賃金や労働時間を抽出し、図表でわかりやすく解説しています。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)