印刷経営の現在と方向-最新調査の分析過程から

掲載日:2022年8月4日

印刷会社のP/L,B/S、戦略、投資、需要など、あらゆる角度からデータで考察するJAGAT印刷産業経営動向調査2022の分析が進む。コロナ禍2年目の印刷経営の全容が見えてきた。かつてない、価値観の変容を伴うような変革の気配が感じられる。

減収も収支改善、赤字幅縮小

JAGAT 会員を対象にした「2021年度印刷産業経営力調査」の分析を進めている。有効回答113 社の平均規模は従業員数117 人、売上高19 億円。コロナ禍以前に比べて事業規模は20%近く小さくなった。売上高は7 年連続の減少、営業利益は初の2年連続赤字。昨年同様、雇用調整助成金が計上された営業外収支が貢献して経常利益は薄利を確保した。

戦略の転換、事業領域の修正

戦略の方向としては、総合化・専門化を基本に、将来的には脱印刷・多角化を選択肢に含めつつ思案するスタンスの増加が顕著になった。したがって事業領域は、現在は印刷を軸としたワンストップサービスだが、将来的には必ずしも印刷にこだわらないBPO、さらには課題解決を提供するソリューションプロバイダーへの発展を見据えるスタンスが増えている。

コロナ禍で進んだ価値観の変容

〇〇年ぶり、あるいは史上最多・最少といった設問が例年になく多い。未曾有の環境変化に際して、戦略の転換というより価値観の変容といった様相を呈している。訪問から発信へ、品質から提案へ、短期的な成長性から長期的な持続性へ、ゴールの位置や形が変わったかのようだ。社会や顧客の価値観変容に対応した結果であり、思考の起点も保有設備から課題解決に移った。

ITツールの導入と試行錯誤

取扱い品目には、動画などのデジタルメディアの着実な増加が確認される。生産プロセスにはオンライン校正など、営業プロセスにもSFA/CRMなどITツール導入の加速が見られる。訪問営業がしづらくなったことを背景に、既存顧客に新たなデジタルサービスの提案を試みて、取引をより太く強固に、単価を高めようとの試みが広がっている。

分析の進行とレポート

分析結果は、逐次、会員誌『JAGAT info』に掲載し、調査協力社には詳細情報をフィードバックしている。7月号には<業績編>7p、<新技術・サービス編>4 pを掲載した。8月号は<戦略編>9 p、9・10月号には<投資編><需要編>の掲載を予定する。なお、楽観できない状況にも関わらず、昨年を上回る有効回答が寄せられた。こうした調査も回答者と分析者による価値共創と感じる。心から感謝申し上げたい。

2022年度分析とフィードバックの経過
2~7月   調査、集計、確認、分析
7月7日   調査協力社に分析速報<第1報>送付

7月16日  『JAGAT info』2022年7月号
      (1)業績分析「ニューノーマルの印刷ビジネスモデル」pp.8-13.
       新技術・サービス分析「オンライン校正の導入、動画制作の定着」pp.18-21.
8月2日   調査協力社に分析速報<第2報>送付

今後の予定
8月16日    『JAGAT info』2022年8月号
        (2)戦略分析「価値変容と経営戦略転換の進展」pp.10-18.
9月上旬   調査協力社に分析速報<第3報>送付
9月16日    『JAGAT info』2022年9月号

        (3)投資分析「デジタル印刷とオフセット印刷、生産支援ITツール(仮)」
9月26日   調査協力社に<詳細分析レポート一式>送付
9月29日   報告会セミナー「最新調査結果にみる印刷経営戦略」
10月3日    『JAGAT印刷産業経営動向調査2022』発売
10月17日  『JAGAT info』2022年10月号
        (4)需要分析「印刷製品・生産方式・付帯サービス(仮)」
※すべての速報、報告会セミナー、レポートは、調査協力社は無料

(JAGAT研究調査部 藤井建人)