第58期DTPエキスパート認証試験講評

掲載日:2022年10月27日
このエントリーをはてなブックマークに追加

2022年8月に実施したDTPエキスパート認証試験の結果概要と講評を掲載する。

第58期試験は、学科試験を2022年8月28日(日)全国6会場および指定講座1会場、合計7会場にて実施、実技試験を同8月28日(日)~9月26日(月)の期間にて実施した。

受験者属性としては印刷・製版業、印刷機メーカー・ディーラーが全体の約7割を占める。申請形態では企業で一括申請を行う団体受験の比率が4割弱と例年より低まったが、申請は個人で行い、合格すると勤務先企業に報告するという近年の自律的学習傾向が背景にあるとみられる。

職種傾向としては、デザイン・制作・企画編集職で全体の約4割を占め、さらにシステム設計・開発・技術職が2割近くまで増加している。一方営業職は1.5割にとどまった。

印刷業の就労人口は約27万、うち部門別では営業職が2割を占めると言われる。印刷業のビジネスのありかたが問われる現在、新たなビジネスモデルを見据えた営業職の方のさらなる飛躍に向けて、本資格への取り組みを期待したい。

試験結果統計レポート

学科試験

学科試験は大問106問のテーマについて626設問の解答が求められた。

今期の新項目出題のポイントとしては、以下の点が挙げられる。

合成フォント機能

InDesignやIllustratorで古くから搭載されている機能に合成フォントがある。文字種ごとにフォントや文字サイズの比率などを一つにまとめ、仮想フォントとして設定・登録し、使用できる。半角欧文・数字のベースライン調整にも応用できるため、便利な機能である。

業務の効率化とともに文字スタイルの一貫性という観点で出題を行った。

ルビの組版

日本語組版の特徴の一つにルビがある。教科書や児童書などに加え、一般の書籍・雑誌でも人名・地名でルビが多用されている。ルビ組版の基本ルールや配置時の調整方法、InDesignでの設定について出題した。

今期の実技試験でも、ルビの設定を制作要件に盛り込み実制作での運用を見る課題としている。

親ページ(旧呼称:マスターページ)

主にページ物・冊子などの制作において、印刷物の常識に沿って一貫した要素配置を行う必要がある。

基本フォーマットを作成し、レイアウトの一貫性と作業の効率化を実現するレイアウトソフトウェアの機能について、基本知識とそのメリットを確認する出題を行った。

スタイル機能

情報デザインの観点から、情報の種類・内容に応じた一貫した書式等のルールに基づくレイアウトが望ましい。

InDesignやIllustrator等には、こうした書式・属性の集まりを登録するスタイル機能がある。各機能の用途や活用のメリットについて出題を行った。

Photoshopのカラー設定

Photoshopを始めとしたAdobeアプリケーションのカラー設定では、作業用スペースやカラーマネジメントポリシーなど難解な用語があり、正しく理解されていないことが多い。カラー設定の項目の意味やいつどのように使用されているかなど、ICCプロファイルに基づくカラーマネジメントの仕組みについて出題している。

特色印刷

近年は4色カラー印刷が増えているが、特色印刷のニーズや用途も少なくない。特色印刷の目的や用途、トラブル回避のための注意事項などを出題している。

デジタルオンデマンド出版の動向

近年では、1冊ごとの注文に応じてデジタル印刷・製本・発送を行うオンデマンド出版・販売が定着しつつある。

出版社にとっては、初期費用を削減でき、返本リスクがないため、出版機会を増加できるというメリットがある。

購入者から見ると、品切れの怖れがなく、購入できる。専門書などの初版部数が見込めない出版物、個人出版や一般企業の出版物などで利用が拡大しつつある。

また、一部の出版社では読者のニーズに応えるため、品切れ本をオンデマンドで注文・販売するウェブサイトを構築している例もある。

実技試験

今期のテーマは、30代から50代の調理や食事が好きな方全般をターゲットとした料理総合季刊誌の店舗紹介取材記事、見開き2ページのデザインレイアウトである。記事内容は、オーナーのインタビューと、開店10周年キャンペーンの案内を含む。

各期共通の評価基準に対し、今期の課題では下記の要件がポイントとなった。

  • 発注者からの要望である「明るく楽しさを感じられるデザイン」の実現
  • メイン写真3点を効果的に組み合わせた効果的な配置
  • キャンペーンプレゼントのコースター画像と店舗ロゴの合成
  • オーナーのイメージイラスト加工
  • キャンペーン情報案内のバランス、支給画像の解像度に応じたサイズ調整

その他毎期の課題同様、配色や視線誘導など適切な情報デザイン、画像補正、印刷適性の基本に関し、採点評価している。

今期は合格率67.6%とマイスター認証後の平均合格率50.3%に対し高い合格率が示している通り、全体にデザインレイアウトの出来栄え、クオリティの高いものが多くみられた。

一方で合格水準に達しない提出物は、タイトルや中見出しの扱い方、図版とキャプションのグルーピング、囲みケイとテキストの配置、などにおいて十分な対応がなされていないものが多かった。その他あと一歩のところで減点対象となってしまったものとしては、

  • コースター画像にロゴを合成する際、スミベタ支給のロゴデータをそのまま乗せている。
  • メイン画像の扱いは優れているものの、3点組み合わせて使用するという要件を満たしていない。
  • デザインレイアウトに凝るあまり、基本的な製本要件への対応が漏れている(ノンブルの左右逆配置)

といったものがあった。

また制作コンセプト書については、読者ターゲットのペルソナ設定から雑誌が読まれる場面を想定してコンセプト立てしているものなど、実制作の手足を動かす前の段階で指針を明確にし、端的に記述している優れた提出物があった。

実技試験への取り組みによって、デザインとマーケティングのつながりの重要性を実感していただけると幸いである。

(DTPエキスパート認証委員会)

【2023年3月12日開催】第59期DTPエキスパート認証試験

開催地:東京・大阪・名古屋・福岡 および指定講座会場

申請受付:2023年1月17日(火)~2月17日(金)

DTPエキスパートカリキュラム改訂第15版 2022年12月公開予定