【マスター郡司のキーワード解説2023】シャープネス進化論

掲載日:2023年4月24日

高品質なスマートシャープ機能

今号の「専務のつぶやき」で触れた「日本で誇れるのは品質だけか?」に関連する品質の話題として、シャープネスを2回に分けて述べてみたい。

カラーフィルムを原稿にしていた時代は、元写真に比べて印刷物の解像感が不足気味だったので、USM(アンシャープマスク)必須で画質を補っていた。カメラダイレクトという写真技法の時代からUSMは存在していたが、自由にUSMをコントロールできるようになったのはカラースキャナーが登場してからである。USMはその名のとおりアンシャープなボケ信号とシャープな主信号を引き算し、マッハ効果用のエッジ信号を作り出して主信号に加算、シャープさを高める機能だ。アナログスキャナーでは光学的に効果を作り出していたので、電気回路だけでエッジを作り出していたピーキングと比較して高品質であった。
それをPhotoshopで再現したのが、アンシャープマスク(カタカナ表記なのは、Photoshopコマンドとして区別するため)だ。本来、光学的なUSM効果が品質的に完全再現できればよかったのだが、当時のMacの能力を考えるとあれくらいがせいぜいだったと思う(まだ20世紀ですよ!)。アンシャープマスクはちょうど、光学的と電気的の中間くらいの品質に当たる感じである。また、他のシャープ関連フィルターがピーキングに当たる。
そして、新機能であるスマートシャープ(英語表記だとSmart Sharpen)が登場した(2014年頃?)。当時は皆さん勝手なことばかり言って、あまり普及はしなかったようだ。個人的には、CGからPhotoshopに持ってくるときに使用していたので「レンズぼかし」が高品質なのは分かっていた。この技法をアンシャープマスクのボケ信号作成に使用できるようにしたのがスマートシャープなのだが、品質的には光学的USMに迫る(むしろ抜いているのでは?)と認識している。

写真印刷にはスマートシャープを

図1がスマートシャープのオペレーション画面である。中央にある除去で「ぼかし(レンズ)」を選択すれば、レンズのボケ具合をシミュレーションした高品質アルゴリズムが使用可能であり、これを標準として使うべきである。「ぼかし(ガウス)」では、従来のアンシャープマスクと大差はない。「ぼかし(移動)」は電車に乗っている感じだと思えば分かりやすいが、私は使用したことがない。

図1 スマートシャープのオペレーション画面

カラースキャナー時代のUSMは画質に与える影響が大きかったので、技術者はこだわり抜いていた。例えばぼけ信号用のアパチャーを星形にすると、DM(デファレンシャルマスク)効果が強調されて画像の立体感が増幅されるといった具合である。
スマートシャープは「レンズぼかし」で、それまでの平均的にぼかす「ガウスぼかし」から進化して、本来のフチ部分にだけ強くシャープネス効果がかかり、微妙な調子変化(濃度差)にはかかりにくくなっている。コンピューターの性能アップによって難しい計算が高速で行えるようになり、アナログ品質を超えたということだ。
スキャナー時代は白抜き文字や電線のビビリなどの対策として、USMの白フチ側だけ、黒フチ側だけを独自にコントロールできる機能があったのだが(ハイライト側・シャドウ側)、ハイライト側を強めにすれば白抜き文字ははっきりと再現されるし、ハイライト側を弱め(てシャドウ側を強め)れば、電線のビビリは少なくなる。その昔、アドビの担当者にもこの辺のことを説明(お願い)したのだが、スマートシャープの操作パネルにあるハイライトやシャドウは「側」ではなく「部」のことで、明るいところや暗い部分のノイズをコントロールするものである。いろいろと文句を言う主なユーザーがカメラマンだと「白抜き文字を再現する」なんて要望は出てくるはずもないのだろう。今回の結論は、「高品質が望まれる写真印刷にはスマートシャープを使うべき」である。

(専務理事 郡司 秀明)