最初にWeb ありき時代の製版

掲載日:2015年11月4日

Web が一般的になって、デザイン的な素養や常識もWeb 中心ということが多くなっている。今年から大学のDTP 実習の授業を担当しているが、「はじめにWebありき」から教えるべきだろうと思っている。

「初めにWeb」になると、ロゴやイラストなどIllustrator で作るデータ(Illustrator はCMYKベース用にできている)でも、RGB データで来るケースが急増している。 スミベタ一色モノも、図1 のようにCMY ベタ(100%)でK も90% というような指定で入稿されるものもあり、印刷すると事故になってしまいかねない。

総インキ量が390% になって逆トラッピングを起こしてしまうし、見当ずれしたときは悲惨な結果になる。RGB 指定して、安易にCMYK 変換するとこれらのようなことが起こってしまうわけだが、この場合、イラストはスミベタで指定し直す必要がある。

図2 は再指定したものだが、罫線などの作り方によって何ブロックかで指定することも必要になってくる。先ほどの見当ズレや総インキ量について、学生は分からないのだが、これも印刷の基本として教える必要がある(印刷会社は新入社員に対して、きっちり教えなくてはいけない)。印刷のことだけではなく、今は、Web や動画のことも一緒に説明してやるべきだろう。

そうすればメディアの違いを理解して、将来も柔軟な対応をしてくれると思う。ただし、総合的にポイントを的確に説明できることが必要で、それが印刷会社の中堅マネージャーの条件にもなってくるだろう。かつて印刷会社の製版部門に、この辺の人材が多くいたのだが…。

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※本画像は画面上ではうまく表示できない可能性があります。本文テキストの補足イメージとしてご覧ください。

図1 はCMYK 変換する程度は知っている例であるが、CMYK 入稿が頭になく、RGB データで入稿されるケースが多いのが現状である。図3 がその例で、RGB だけで指定されている。したがってCMYK 変換する必要があるが、カラーマネジメントを駆使してCMYK 変換すれば、理論上は同じ色のCMYK 網% が得られるのだが、小数点以下の端数や反対色が入ってしまう。

図3をCMYK変換したのが図4 だが、C6.33%、M27.3%、Y96.7%、K0% ということで比較的簡単な例(K が入らないのはラッキーだ)となっている。網% は、このままでもダメなわけではないが、印刷を考えたときには、反対色のC は不要になってくる。そしてY はベタでかまわない。M は27 や26% でもよいが、キリがよく25% で問題ない。つまりC0%、M25%、Y100%、K0% となる。小数点以下が重要だと考えるのならC だけ0 にして後はそのままでも問題ない(気休めのようなものだ)。

印刷はWeb より不安定なので、網指定では反対色を切ってしまいきれい目に仕上がる方がトラブルは少ない。またM のような準必要色も25% くらいのキリのよい数字にまとめて問題ないが、元々反対色が入っているというのなら26% でも一向にかまわない。

印刷品質を良くしようと、インキを盛ってしまうと、それではインキが理想的な発色をしていないので赤っぽくなってしまう(インキを盛るほどグレーバランスでのYM とC の差は大きくしなくてはいけない)。赤ウキ抑えるという赤字で、M だけを抑えるのだが、本来はCMY3 色の濃度を抑えて赤ウキに対処すべきだ。このような話をすると、Web が安定しているように思うだろうが、PC のモニターは実にイイ加減なもので、まともな色について云々する習慣がWeb にはないと考える方が現実的である。

上記のやっかいな網% バランスとは、反対色+ K(反対色だけでなくスミ網も入る)の場合である。GCR 的な要素が多く含まれる場合だが、このような設定を容認していると、ロゼッタパターンが目立ってロクな仕上がりにならない。反対色を減らそうにも何% の反対色(例えばMagenta in Green)をスミに置き換えれば両者が等価になるのか?ベテランでないと予想できない。しかし、ベテランでも理屈まで説明できるか?というと意外に分かっていない。赤ウキするからとMのベタ濃度だけを下げるのと一緒の発想だ。ベテランでも、M を下げるだけではなく、一緒にC のベタ濃度を上げることが限度かも知れない。

色相がズレないように100%GCR 的な網% でチントを考えたら、きれいな色は上手くいくだろうが、チョコレート色などのスミが多く入る色では彩度が落ちてしまう。カラフルな画像の方が、仕上がり的な価値観では良いことの方が多い。色相はズレないし、暖色系の場合は見た目の彩度が上がるのがメリットである。反対色の場合は若干色相にも影響しており、スミの場合は色相が変わらない。

対してG や寒色系は沈んだ感じになるが、全体的には暖色系の鮮やかさに引っ張られて、メリハリのきいた好印象画像になることが多い。反対色をスミ版に置き換える目安としては、33% までという不文律がある。CMY の内2 色+ K の3 色で100% を3 で割ると33% という理屈だ。それ以上になると網点同士の重なりが極端に多くなり、彩度低下を招くということだろう。CMY だったらある程度重なってもプロセスインキなので色成分はある程度透過するのだが、スミになると基本はオペークインキである。

重なり出した途端に彩度が失われる。だから反対色が33% 以内に収まるカラフル画像との相性が良いのだろう。33% を超えたスミ版が入って、かつドットゲインが大きくなると、印刷条件によって極端に彩度が失われたりする(図5、6)。このようなことが分かっていて、RGB でできたパーツを印刷に持ってくることができる。今後のDTP パーツはRGB 指定、Web 前提で作られていると思って対処すべきである。

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(JAGAT 専務理事 郡司 秀明)