マスカスタマイゼーション~非マス的な印刷の未来

掲載日:2015年12月2日

JAGATでは非マス的な印刷の未来を常に考えているのだが、One to one的な方向に進むべきなのか?マスカスタマイゼーション的な方向に向かうべきなのか??それが問題だ。

デジタルマーケティングになって、個人情報がネットから入手できるようになり(色々工夫は必要だが)、それをマーケティング活動に利用できるようになって、その手法も大きく変わった。

欧米では営業・マーケティングのIT化が始まっている。個人情報の入手や保存、活用を突き詰めたソフト(システム)をCRM(Customer Relationship Management)と呼び、中には分析機能までCRMとして備えているものもあるし、Adobeマーケティングクラウドなどは、個人情報集め(リード収集)、分析、アセット管理等々、機能別に独立しており、それぞれを組み合わせて実行するようになっている。

マーケティング活動における実行部分を担当するのがマーケティングオートメーションなのだが、どういう手を打ってどのような反応があった場合には、こういう選択肢と対応を用意しておき、その手はず通りに行うのが一般的なマーケティングオートメーションツールである。

例えばECサイトで商品をカートにしれたのだが、購買まで至らなかった人に対して、念押しのメールを送れば、少しの力で購買までの後押しになるかもしれない。そのメールに対してメールを開いたがまたもや購買まで至らなかった人には、特別オファーということでもう少しメリットのある条件で提案すれば大幅な値引きまでしなくても売れる可能性がある。

何にもないところからアタックするよりも成功確率が高くなるという理屈だ。メールだけではなく、Webの場合はクッキーIDが取れるので、それを使ったディスプレイ広告なども重要な施策になる。

このようにありとあらゆる可能性を考えておき、効果を上げるのがマーケティングオートメーションであり、この中に印刷物をどのように絡ませるか考えていくのが、印刷会社としての役目である。簡単に考えれば、電子メールの代わりにDM(ダイレクトメール)があるだろうし、電子メールよりは紙のDMの方が開封率も高いだろうし、インパクト度合いも高いはずである。また購買意欲の高い人に高級感のあるカタログを送付すれば、捨てられることもなく購買確率も高まるだろう。

このように、パーソナルDMや個人向けスペシャルカタログやパンフのようなものが、考えられるのだが、これもデジタル印刷が身近になったために現実になったソリューションといえる。DMは印刷業界にとっては非常に現実的な解であり、普通の印刷会社規模でもなんとかなるというレベルだと考える。

対して出版分野で、注文が入ってから印刷・製本するという米国ナッシュビルのライトニングソース社のような例があるが、こちらは膨大なDBを有して、注文が入るとJOBギャンギングでロールタイプのインキジェット印刷機で印刷するというものだが、規模とノウハウ共に超一流で、そうそう簡単にまねのできるものではない。

このように世の中に流通している本を全てサーバー上に保管しておく出版物のDBとなると難しいが、特注モノやニッチ的な本ならDBすることも夢ではないはずである。しかし、総合的に考えればやはり普通の印刷会社が考えねばいけないのは、小ロット化に対応したバージョニング印刷・製本だろう。

ここで注目されるのがマスカスタマイゼーションである。マスカスタマイゼーションとは、マーケティング、製造、経営における用語で、コンピュータを利用した柔軟な製造システムで特注品を製造することである。低コストの大量生産プロセスと柔軟なパーソナライゼーションを組み合わせたシステムということが出来る。

現在、自動車産業の主な市場は新興国に移りつつある。巨大市場としての中国、インド、ASEAN諸国と南米が注目されているわけである。ブラジルの人の好みと、中国人のニーズは全く違い、最適化しないと競争に勝つことができないし、価格帯の違いもある。2008年にインドで30万円のタタが話題になったが、日本や欧米の価格帯で、新興国向けのビジネスをしても勝負にならないだろう。

ベンツやBMWのように「良いものを作れば世界中でも高評価を得られるはずだ」という考えもあるが、そのベンツだって湾岸戦争以前に中東特別仕様というベンツを見たことがある。日本の家電メーカーも、ほとんどの会社は中東特別仕様を売っていた。SONYだけが、普通のテレビを売っていたのが誇らしかったのを覚えている。

こうした状況に対応するために現れたのが、マスカスタマイゼーションと呼ばれる製造手法である。マスカスタマイゼーションの概念は2000年前後に登場している。マスプロダクションの体制も残しつつ、多様化する顧客ニーズにも対応するという考え方である。個々の商品の製造ラインを、個別最適の設計で提供することを「フルカスタマイズ」と呼ぶが、「マスカスタマイズ」は、少数の部材の組み合わせによって商品のバリエーションを実現する方式である。

印刷物の小ロット化は、出版だけではなく、商業印刷などのカタログやパンフにまで波及し、ターゲットごとのカスタマイズが必要になってくることが予想される。まさしくマスカスタマイゼーションが必要になってくるのだが、トヨタが部品バリエーションを徹底的に見直して、様々な車を生み出したように、もう一度同じシャーシを使って、カローラやスプリンターやレビン&トレノを作れるように印刷会社も考えねばならない時代が来たようである。このようにコンテンツ(カタログやパンフの材料)を部品化して、バリエーションを持たせてDB化して、そこから様々なカタログを生産することも必要である。

デザインの重要性を説く印刷会社経営者は多いが、このようなコンテンツ制作のシステム化もデジタル印刷の合理的運用と合わせて考えていかねばならないテーマである。

印刷はマーケティングを助けるメディアでなければならないが、そのための第一段階がデジタル印刷と言える。やはりアナログ印刷の小ロット化だけではマーケティングの根幹に結びつくのが難しい。
そんなデジタル印刷の知識を再整理するのに好都合なのが、年に一度のデジタル印刷のお祭りである「トピック技術セミナー」である。今回は特別講演として「講談社のデジタル印刷と小部数出版」を用意している。講談社のふじみ野工場はかなり動き始めているらしく、今回のセミナーは必聴である。また「トピック技術セミナー」は、先ほどの「未来の印刷の姿」を考える良い機会でもあると思うので是非ご参加いただきたい。

(JAGAT専務理事 郡司秀明)

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