出展各社の発表から見えてきたdrupa2016のキーワード

掲載日:2016年5月25日

いよいよ今月31日からスタートするdrupa2016のキーワードについて紹介

JAGAT印刷総合研究会では、5月17日に「drupa2016プレビュー」と題したセミナーを行い、出展社9社から新製品を中心に各社の見どころについてプレゼンいただいた。1社30分という短い持ち時間ではあったが、逆にコンパクトに各社の特徴が理解できた。
各社の発表を通して浮かび上がってきた以下の4つのキーワードについて個人的な主観も含めて紹介したい。

  1. インクジェットプリントの進化
  2. 印刷物の用途開発、ビジネス開発
  3. IoTやAI、インダストリ4.0の印刷業への取込み
  4. 「見える化」などによる工場全体の生産性向上

インクジェットdrupaと呼ばれたのはdrupa2008であった。スマートデバイスなどと比べて果たして進化のスピードは速いのか遅いのかなんとも言えないが、drupa2008から8年を経て技術的には着実に進化を遂げている。
当然ながら、より高精細に、より高速に、より大サイズへと開発は進んでおり、解像度は1200dpi×1200dpi、生産性は分速200メートル、サイズはB2というのがdrupaに出展される商業/出版向け枚葉機の標準的な(先端ではない)スペックと言えそうだ。
品質については、1200dpi×1200dpiの解像度によって、ほぼオフセット品質に近しいところまで来た。インクジェットのインキはオフセット印刷のプロセスインキより一般に色域が広いので、今後はディスプレイの高精細・高色域化の流れを受けて、オフセット品質を超える品質を目指すことになろう。そうなればRGBワークフローも、より現実性を帯びてくる。
既存の印刷市場の縮小もあって、デジタル印刷を中心とした新たな用途開発やビジネス提案が多くみられそうだ。メーカーにとっても顧客である印刷会社が元気になってこそ自社のビジネスがある。今後も堅調な市場が予測されるパッケージ分野やDM分野をターゲットにした提案が多い。デジタル印刷を前提にした多種多様な後加工設備が見られそうだ。不正コピーの防止を目的としたセキュリティ印刷もトピックの一つとなりそうだ。

いま世間で流行りのIoTやAI、あるいはインダストリ4.0というキーワードは各社のプレゼンの中にも散見された。いまに始まったことではない印刷機などの生産設備の遠隔診断をインダストリ4.0と呼ぶことには正直、閉口してしまうが、drupa会場では印刷業なりの、これらのキーワードの解釈が各社のブースで見られるだろう。
個人的には、自社だけでなく他社の設備もインターネットとつながる意義として、回転速度や段取り時間のベンチマーク(自社の印刷機の段取り替え時間は全国で何位など)ができたり、設備のシェアリング(共有)の概念で、他社と稼働情報を共有して仕事を流し合うようなことをイメージしている。
その流れではHP社が提唱している「PrintOS」という概念は非常に興味深い。PrintOSはHP社が提供するクラウドベースのオペレーティングシステムで、データ入稿や工程管理、設備のモニタリングなどのWebアプリが提供される。将来的には、マイクロソフトが提供するOS(Windows)上で各種のアプリケーションが稼働するように、さまざまなベンダーが提供するさまざまなアプリが稼働するという。
例えば、工程管理にしても商業印刷中心の会社とラベルや軟包装中心の会社、あるいは大判プリンタによるサインディスプレイが中心の会社では求められる機能が大きく異なる。PrintOSに対応したアプリが、さまざまなベンダーから提供されるようになれば、ユーザは自社に適したアプリを選択できるようになる。ユーザインタフェースの共通性やデータの互換性はある程度、担保されると思うので、PrintOS上で稼働するアプリを組み合わせることで自社に最適化されたシステムの構築を柔軟に行えることが期待できる。資材や消耗品の受発注業務などは双方(ユーザとHP社)にとって相当合理化できそうである。
また、お互いにPrintOSで稼働するシステムを利用している会社同士で外注する場合には、紙の伝票レスでシステムtoシステムで受注情報や印刷物の仕様情報が流れ、「承認」のクリックをすれば、そのままデジタル印刷機が稼働するところまで夢想してしまうが、同様のことをJDFで夢見た経験から言えば、そこまでの標準化は過度の期待であろうか。

最後に、テーマとしては地味で展示会場では目立たないと思われるが、「見える化」などによる工場全体の生産性向上の提案があったことも触れておきたい。
印刷機のスペック上は、毎時18,000回転の性能があったとしても、毎時18,000回転で1年365日24時間稼働している印刷会社はこの世には存在しない。休日を除いたとしても阻害要因として、段取り替えの時間、紙待ち、版待ちの時間、あるいは下版のタイミングがずれての待ち時間、そもそも仕事がない、定期メンテナンスや突発故障もあるだろうし、トラブルを恐れて回転数を下げて運転することもある。
印刷機を性能を最大限活かしきれない要因が何かを、わかりやすく「見える化」する指標としてハイデルベルグ社が数年前から推奨しているのがOEE指標である。OEE指標はトヨタ生産方式をベースに考えられたもので、稼働率×性能×良品率で表される。性能とはスペック上の最高生産速度に対して実際にどの程度の速度で運転したかという比率である。これらの元データの数値を設備からダイレクトに取得して、わかりやすくビジュアル化して表示(見える化)して、改善に活かしていく。印刷機単体の改善にとどまらず、群管理、そして前後の工程を含めてというように、工場全体の最適化に向けた「見える化」の下地が整いつつある。それぞれの設備がネットワークに接続することが実現のベースとなる。これも印刷業におけるIoTの一例とも言えよう。

(研究調査部 花房 賢)