【マスター郡司のキーワード解説】トラッピング(その壱)

掲載日:2023年8月30日

欧米の方が網点線数は高精細化

今回から、若い人にはあまりなじみのない「トラッピング」について述べてみたい。トラッピングとはトラップ(罠)から来ており、「問題をうまくごまかす」という意味で使用されている。

DTPの創生期には日本語の教科書などなかったので、アメリカの教科書を輪講(皆で議論しながら和訳)して「これはこうじゃないか?」と、まるで『解体新書』を訳している蘭学者のようであった。私も多くのDTP勉強会に参加していて、土日を潰しての参加だったのだが、そのときに培った仲間(人脈)や知識がその後大きく役に立ったことは言うまでもない。若い人に強制はできないが、趣味と仕事をはかりに掛けてもよい(価値はある)場合もあるのだと、私は思っている。

それらの勉強会の集大成的存在がMdNカンファレンスで、年に一度の合宿形式で行われるのだが、最終的に私は主催者側として参加するまでになってしまった。MdNカンファレンスでは“郡司部屋”という誰でも出入り自由の特別な部屋があり(何のことはない私の宿泊部屋)、独特の雰囲気の中、酒を飲みながらDTPに関する話題(技術論)を朝まで語り明かしていた。今の若い人には信じ難い光景かも?しれない。

さて、印刷の見当精度は国によってまちまちであり、特にかつてのアメリカ(CTP以前の手集版の時代)はひどいモノで、トンボをルーペで覗けば何色で、どのような特色が使われているのかが分かるくらいであった。一方、日本の見当性が最も良くて、ヨーロッパはアメリカと日本の中間に位置する感じだった。

網点もアメリカが133線(一部150線)、ヨーロッパが150線のときに、日本では175線が普通に使われていた。それがCTPの普及とともに見当が面白いように合うので、その技術を活用して網点線数はどんどん高精細になっていってしまったのだ。しかし日本では、CTPになってももともと見当性が良いことから、175線の網点がそのまま使われていた。さすがに最近はオーバー200線が多く使われるようになってはきたが、高精細という点では欧米に後れを取っているのが実情である。

衝撃的だった軟包装グラビアのトラッピング

それではテーマのトラッピングだが、これを日本語にすると「ニゲ処理」「かぶせ処理」という。見当性が悪いと印刷ズレで白地が出てしまったりするのを防ぐために、毛一本程度重ね合わせて毛一本くらいの見当ズレなら問題ないようにするノウハウのことをトラッピング(処理)と呼んでいる。日本語では毛一本ということから「毛抜き合わせ」と呼んでいるが、これは毛一本分が重なっていることで、重なっていない状態は「抜き合わせ」「バッティング」と呼んで区別している。DTPではもともとこのような処理など想定していないため、普通に作ったデータをそのまま出力するとバッティング(抜き合わせ)で出力されてしまうのだ。

欧米ではこのことが問題視されてしまい、サービスビューローで出力したDTPフィルムはトラッピング処理されていないので、「まともに印刷できない」とまで言われてしまった。日本でも、欧米大好きなDTP勉強会出席者たちが問題視したのだが、当時はDTPの部品出しが多く、集版は最終的に返し返しでまとめていくので、毛一本分くらいは自動的に太ってしまうことから、「日本では意識しなくて問題ないですよ」と一生懸命説得して、この問題は事なきを得たのだ(いやぁ大変でした)。欧米のトラッピング量0.1~0.2mmをそのまま日本で適用していたら、印刷物は黒スジだらけになり見苦しいものになっていただろう。

私はさまざまな印刷現場にお邪魔しているが、グラビア、特に軟包装グラビアのトラッピングというものを目の当たりにしたときは衝撃を受けた。当時はDTPではないので、印刷の設計図である版下が基本であったが、その版下の線が二重に書かれており、かなりの量でトラッピングするように作られていたのだ。軟包装材なので見当性が悪いのが理由である。両方の色が互いに潜り込むというよりは、薄い色が(グラビアの場合は0.3mm程度)潜り込むのを基本としている。もちろん例外はたくさんあり、例えば色文字自体が太ってしまうと字形がおかしくなってしまうし、薄い色文字だと下地の(潜り込む)色が邪魔をするので、トラッピング量などをケース・バイ・ケースで考える必要があった。水平線の場合は、バッティングが基本だったりする。

そこまで言われていたトラッピングだが、現在、欧米のデジタル印刷ではトラッピングなしが基本となっている。この辺も含めて次号では(その弍)に続けたい。

(専務理事 郡司 秀明)