DTPエキスパート新出題とともに印刷ビジネス動向を見る

掲載日:2025年10月21日
このエントリーをはてなブックマークに追加

8月に実施した第64期DTP エキスパートの出題内容について報告する。

学科試験の新出題項目

学科試験では以下の項目に関する問題を中心に、改編も含め全体の約2 割を入れ替えて出題した。

画像解像度と実効解像度

多種多様なメディア環境下では、画像コンテンツもさまざまな形態で流用・展開されている。出力・表示先に応じた解像度の調整が日常化している現況を踏まえ、画像解像度の基本とともに、画像サイズと解像度、ピクセル数の関連や、レイアウト時の拡大・縮小とピクセル密度の関連などを出題した。

OSおよびアプリのバージョン対応

各種アプリケーションソフトウエアのサブスクリプション化により、バージョン変更の頻度が増している。DTPに用いられる主要なOS およびアプリケーションについて、適正な制作環境整備のために必要なバージョン対応、そしてサブスクリプション契約に関する知識について出題した。

AIと生成AI

AI技術の進展は、個別タスクの遂行から、複数の技術を組み合わせて自律的にタスクを遂行するエージェントの方向に進みつつある。

他方、印刷物用のデータ制作に直結する生成AI は、コンテンツ作成の強力なツールとして期待されている。印刷ビジネスにおける活用を念頭に、AI を支える技術に関して出題した。

可変フォント

従来のフォントファミリーにおけるウェイトや字幅の種類について、バリアブルフォントでは一つのフォントからユーザーが自在に変化させて利用することができる。

デザイン上の利点やデータ運用上のポイントのほか、現状での課題など利用に当たっての注意点を含め、制作者が把握すべきポイントについて出題した。

ページレイアウトソフトの特徴

InDesign は発売開始以降、既存のレイアウトソフトの機能を網羅し、日本語処理のための開発にも注力するなどさまざまな過程を経て、現在はDTP 制作におけるスタンダードとなっている。印刷物の制作に携わる人材が把握しておくべき基本機能とともに、印刷物の利用場面を想定した各種機能について、自動組版のためのデータ結合機能やQR コードの生成なども含め、最新の動向を出題した。

カリキュラム全項目を解説するeラーニング新講座を開講

学科試験に向けては、出題範囲全体を体系的に整理し把握するのが第一歩だ。

JAGATではこれまで出題範囲冊子用PDFを配布してきたが、これを包括的に学ぶeラーニング講座を開講することとなった。DTPエキスパートカリキュラムの全範囲を44本合計17時間半の動画で解説する。受講期間中(6か月)何度でも繰り返し視聴できるため、見逃しや聞き逃しなく理解を深め、カリキュラム全体を基礎から総合的に学べる講座となっている。

次回3月実施試験に向けては、この秋から学習を開始いただくと、受講期間いっぱい有効にご利用いただける。

【新規開講eラーニング講座】DTPエキスパート学科総合解説

実技試験はクラウドファンディングの案内パンフレット

実技試験では、提示された制作与件と素材データを基に、受験者各自の制作環境でデザインレイアウトを行う。今回の課題内容は、モバイルソーラーライトのパンフレット(B5 判・4 ページ)の制作であった。

近年、商品開発やテストマーケティングなどにクラウドファンディングを活用するケースが増えている。資金調達はもちろん、新商品への期待度や関心度について比較的高い精度で潜在需要を把握できるほか、利用者と直接コミュニケーションを図ることができる。リスクを最小限に抑えながらユーザー動向を反映させる「アジャイル思考」型の商品開発により、柔軟な発想に基づいた商品サービスの展開が期待されている。

印刷物の制作者には、どのようなビジネス環境の下で印刷物が使用されているのかを把握し、それを制作コンセプトにつなげていく姿勢が求められる。今期の実技試験では、こうした動向を制作与件に取り入れ、「クラウドファンディングによって好みのカラーのモバイルソーラーライトを作る」という商品案内のパンフレット制作を出題した。「製品記者発表会および期間限定ショールームに置く特別感のあるパンフレット」を与件とし、データ制作の条件として、特殊加工に対応した別版(ニス版)データの制作も盛り込んだ。

(JAGAT丹羽朋子)
(JAGATinfo 2025年10月号より加筆修正)

実技作例(折パンフレット中面)
実技作例(折パンフレット表面)