ベスト10から消えた文芸書

掲載日:2018年12月14日

2018年のベストセラーは新刊よりもロングセラーが強かった。文芸書は不振だが、ビジネス書はヒットが相次いだ。(数字で読み解く印刷産業2018その10)

読書にも求められる即効性

2018年年間ベストセラーが日販から発表された(集計期間2017年11月26日~2018年11月24日)。

1位が『漫画 君たちはどう生きるか』、2位が『大家さんと僕』と漫画が強く、『ざんねんないきもの事典』と『続 ざんねんないきもの事典』が3位と6位で、昨年のベストセラーと同じような顔ぶれとなっている。実はベスト10には2018年の新刊は2冊しか入っていないのだ。発刊日が一番古いのは7位の『頭に来てもアホとは戦うな!』の2014年7月で、今年に入ってテレビで大々的に紹介されたことで一気にベストセラーの仲間入りとなった。

もう一つ、今回のベストテンには小説が入っていなことが大きな特徴だ。2017年は直木賞と本屋大賞をW受賞した恩田陸『蜜蜂と遠雷』が3位、村上春樹『騎士団長殺し』が5位に入っていたが、2018年は本屋大賞の辻村深月『かがみの孤城』の13位が最高位だった。

テレビで話題になった本がロングセラーになって、漫画やダイエット本が売れる傾向は、今年に限ったことではない。しかし、2016年には5冊の小説がベストテンに入っていたものが、今年はゼロということは、即役立つものしか読まれない傾向が進んでいるのだろうか。

ビジネス書だけでは足りないものがある

出版科学研究所の統計によると、2018年上半期の書籍推定販売金額は前年同期比3.6%減で、文芸書や学参など前年大きく伸長していたジャンルの落ち込みが目立つという。

ビジネス書は約3%減となったが、月額有料会員制サービスと連動したビジネス書レーベル「NewsPicks Book」やSBクリエイティブなどからヒットが相次いだ。

書店に行くと著者が睨んでいるような表紙のビジネス書が平積みされている。本が売れないと言われ続けているが、売れる本は売れている。だからこそ、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」やソフトバンクというデジタルメディア畑から紙の出版物のヒットが生まれているのだろう。

NewsPicksの佐々木紀彦氏は「JAGAT Summer Fes 2018基調講演」において、ビジネス書を出している立場だが、教養を磨くためにはビジネス書断ちして、古典をしっかり読むことが大事であると語っていた。

NHKスペシャル「AIに聞いてみた どうするのよ?!ニッポン」では、健康寿命を延ばすヒントとして「本や雑誌を読む」ことが挙げられていた。本を読むために書店や図書館に行ったりすることや、本を読んで心を動かされることも含めての結果だろう。

デジタルメディアと紙メディアを対比すると、検索性や携帯性などからのデジタルメディアを優位とする意見があるが、「書物とは、ただ単にそこから必要な情報や教養を得るための便利な道具ではない」(今福龍太著『身体としての書物』)ことを忘れてはほしくない。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

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