2014年の印刷市場を振り返る

掲載日:2014年12月31日

政府の思い切った経済政策により、脱デフレが現実のものとなり始め、企業経営を取り巻く環境が大きく変わり始めている。円高から円安へ、デフレからインフレへ、消費税率は5%から8%へ。印刷界もこれらの影響を受けて様々な変化があった。2014年を振り返り、2015年を考える。

2012年:復興需要が牽引、下げ幅は2008年以降の最小

現時点で「工業統計」は2012年までの確報を公開している。2012年の出荷額は前年比1.6%減の5.6兆円と、前年の大震災の反動増もあって下げ幅はこの5年の最小にとどまった。年前半は、復興需要が牽引する形で堅調に推移した。しかし、近隣諸国との領土問題が貿易に影響して国内経済は失速、ねじれ国会による政治の混迷も加わり景気後退懸念が強まるに従い、年後半は多くの印刷会社もその影響を受けた。政権交代で景気対策期待が高まると株価は上昇、為替は円安に振れたが、印刷会社への好影響は限定的だった。

2013年:極端な市場縮小は一段落、業界再編が進む

「工業統計」は2013年について4人以上の事業所に限定した速報を公表した。2013年の出荷額は2.4%減の5.4兆円と、大震災後、印刷出荷額の下げ幅は2年続けて3%台を下回る小ささで安定した。極端な市場縮小は落ち着いた反面、円安と脱原発に伴うエネルギーコストの上昇と材料費の値上げが印刷会社経営に影響した。出荷額の減少が落ち着く裏側で、事業所数(従業者4人以上)は2年連続で5%以上の減少を記録している。輪転機を持つ中堅印刷会社の破綻や中堅印刷会社による積極的なM&Aが見られ、結果的に業界再編と集約化が進んだ。

2014年:消費増税で状況が一変

JAGATの調べに基づき2014年の印刷市場を振り返る。印刷会社の売上高は、消費増税前の3月まで活況を呈した。特に3月の売上高は21世紀初の2桁増を記録した。流通業などでは駆け込み需要を商機に捉えた企業が予想以上に多かった。増税後、4月は反動減で大幅に落ち込み、5月・6月と下げ幅は縮小、7月に前年なみを回復はしたが、消費増税分を上回る伸び率水準には至らないまま9月まで軟調に推移した。そして10月にはマイナスに転じ、11月後半は印刷会社によっては突如として解散総選挙への対応に追われる慌ただしい展開となった。

2014年:景況感、印刷会社経営者の声

「消費増税で状況が変わった」との声は多い。「厳しい」という声が目立つのは例年どおり。しかしながら受注に苦戦したとの声は例年より少なかったように感じられる。「売り上げ減が底を打ったように感じた」との声があった。しかし、「用紙代・電気代などのコストアップが収支を圧迫した」という声が多く、「受注につながっても利幅が少ない」という、2014年を象徴する状況につながった。政府が思い切った経済政策を推進するなか、デフレからインフレへマクロ経済環境が転換するプロセスにおいて、印刷会社の置かれる経営環境も大きく変わってきている。

2014年:主要印刷製品動向

印刷需要に大きく影響する広告業は、印刷業と同様の月次推移をたどった。増税まで好調に推移、4月に大きく落ち込み、その後は7月までは回復を見せるも8月以降は再び軟調に推移、印刷業に好影響を及ぼす前に失速する構図となった。印刷物生産金額は消費増税前の駆け込み需要が貢献、9月までで前年比マイナス0.4%程度とほぼ前年なみだった。商業印刷が平均を上回って高く、逆に出版印刷の落ち込み幅の大きさが際立った。好調だったのは建装材印刷と事務用印刷、包装印刷は平均をやや下回る水準ながら安定的に推移した。

2015年:未曾有のマクロ環境変化の一斉到来

現政権の経済政策”アベノミクス”が副作用を伴いつつ脱デフレを実現、世界中で賛否両論の議論を巻き起こしながらも、現時点で我が国経済を活性化させていることに疑いの余地はない。為替は円高から円安へ、株価は安値圏から高値圏へ、物価はデフレからインフレへ、消費税率は5%から8%へ。情報コミュニケーション分野では全国一律から地域主権へ、印刷からデジタルへ、といったトレンドが依然として続く。いま印刷界には、これらの未知で多層的な変化が一斉に押し寄せている。

2015年:不透明感の増す将来を見通そう

これらの変化が複合的に影響を及ぼし合い形づくられる将来について、印刷界に及ぼす影響について、正確な予想は誰にも難しい。しかし将来は過去の延長線上にあり、過去を整理すること、既に決まっている将来を洗い出すこと、将来に起こりうる与件を網羅的に思い浮かべることは、変化への対応シナリオを考えるうえで必要不可欠なプロセスである。新年度を考える会社が多いこの時期、注意を払って情報を収集、日々の様々な変化が自社に及ぼす影響を見極めるようにして来たる2015年度に備えるようにしたい。

プリンティング・マーケティング研究会 
(JAGAT 研究調査部 藤井建人) 

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