「見える化」による収益改善プロセス

掲載日:2019年3月4日
JAGAT「見える化実践塾」での取り組みを踏まえて、「見える化」による収益改善プロセスを紹介する

まず、「見える化」の定義である。昨今、業界を問わずさまざまな場面で「見える化」という言葉が使われている。印刷業では丼勘定からの脱却が原点にある。印刷物は受注請負生産なので、一点ごとに仕様が異なり個別原価の把握が難しい。そこで工程ごとの作業時間実績をもとに原価を把握する。このときに用いるのが時間コストである。こうして、受注一品単位かつ工程単位での損益を「見える」ようにする。リアルタイム性も重要な要素である。一か月後に結果がわかっても打てる対策は限られているし、そもそも原因を忘れてしまう。

なぜ「見える化」すると収益が改善するのか

ポイント①CostingとPricing

「見える化」することにより、より原価を下げようとする行動(Costing)とより適正な価格で販売しようとする行動(Pricing)が働き収益性が改善される。

Costingの行動とは次のようなものである。

  • 市場価格ありき。受注金額に見合うように「意識」して作業する。明らかに金額が作業内容に合わない場合は営業にフィードバック。
  • 受注金額をベースに目標時間を設定することで作業効率を上げる。特にデザイン、DTP制作。印刷や製本は標準工数を設定して目標とする。
  • 赤字にならないようにするには、残り何時間で作業を終わらせなければいけないかがその場でわかる。そのためにはシステムの活用が前提となる。

Pricingの行動の前提となるのは営業の評価指標である。

  • 営業の評価指標は売上だけでなく、付加価値(注1)と利益(注2)の三本柱とする。必須ではないが営業手当を変動制にして成果と連動させるとより効果的である。

注1:付加価値=売上-材料費-外注費

注2:利益=売上-材料費-外注費-社内製造原価

利益を評価指標とすると安値受注で売上を上げても評価にはつながらないので、どうしたら効率的に成果が上がるか自ら考え工夫するようになる。売上のみの評価の場合、利益は薄くとも手離れのよい仕事の本数を追いかけがちであるが、付加価値や利益が見えるようになると手間はかかるが利益の高い仕事を手堅くこなすというスタイルも評価されるようになる。また、外注の活用度が高くなると評価につながらないので、自ずと自社設備に適した仕事が多くなる。納期が厳しくて社内に頼むと反発されるといった理由で、外注を利用するケースもよく聞くが、「見える化」が進むと営業と製造とが歩み寄ってどうしたら社内でできるか前向きに検討するようになる。付加価値率の向上による収益改善というのが見える化のひとつの成功パターンである。

そして、利益でも評価されるとなると値付けに対してより意識的になる。案件別の収支結果がすぐ見えて、かつ「この銘柄の紙は紙粉が多くでて印刷機の回転数を上げられない」といった原因のフィードバックがあるので、その学習効果によって見積りの精度が上がる。単価表にもとづいて機械的に見積もるのではなく、実際のコストを考慮して値付けするようになる。特にDTP制作において顕著な効果がでる。

ポイント②より小さく具体的な改善活動(PDCAサイクル)

「先月は赤字だったので今月は頑張って黒字にしてください」と言われても、何をどう頑張ったらよいかはわからない。まずは原因を明確にして、それに対して対処を考える。受注産業の印刷業の場合、受注一品単位が基礎となる。

赤字案件をリストアップし、なぜ赤字になったのか。営業の値付けが安かったのか、段取りが悪かったのか、作業効率が悪かったのかを明らかにし、案件単位で対策を考える。

ポイント③先行管理と成果の還元によるモチベーションアップ~「目標達成見える化シート」の活用

ビジネスをして利益が出るというのは、付加価値が固定費を上回るということである。今月の固定費と現時点までの付加価値を比較して、達成度合いを日々チェックする。

この日々の状況を社員全員で共有し、目標利益額を超えたら社員全員に報奨金として還元するというのが「目標達成見える化シート」の運用である。全員参加で取り組み、自分たちで儲けて自分たちで分配するというわかりやすい仕組みである。

ポイント④鮮度の高い情報の「見せる化」

「見える化」はリアルタイム性がとても重要である。ある程度の数字の精度は必要だが、そこに手間と時間をかけて月次で締めてから1か月後に数字が出るというのでは遅すぎる。そこから打てる手はかなり限られるし、そもそもなぜそうなったのか理由を忘れてしまっていることも多い。見える化の数字は財務会計ではなく管理会計なので、正確性や厳密さよりもスピードと簡便さが優先される。管理会計の目的は過去を振り返るためでなく未来に対して的確な手を打つための経営判断を助けることである。

そして、鮮度の高い情報を見る人にあわせて、わかりやすく伝わるように「見せる」ことが求められる。数字の羅列よりもグラフなどを使ってビジュアルに見せたり、会社全体の数字だけでなく、部門別、設備別、担当者別などに落とし込んで見せる。

自分に身近な数字が見えたり、見られたりするようになるともっと良い成績をとりたい、あるいは恥ずかしい成績は取りたくないという意識が働く。ダイエットしかりマラソンのベストタイムしかり、自分の行ったことがすぐに数字にあらわれると人はやりがいを感じる。そして、頑張れば達成できそうだと思える「目標設定」をすることも大きなポイントとなる。

(研究調査部 花房 賢)

第二期見える化実践塾は2019年4月開講予定です。お気軽にお問い合わせください。 全5回(9日間) 2020年2月終了予定

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