印刷物の増減を巡る通販とメディア環境の変化

掲載日:2019年3月19日

印刷物の増減や見通しについて見方の別れる時がある。印刷物の使われるシーンの変化と視点の違いは一因だが、背景には印刷を取り巻くメディア環境の変化がある。例えば広告メディアとして、あるいは通販メディアとして、印刷物の使われ方はどう変わっているのか。

■商業印刷物:安売り訴求は減るが、ブランド訴求は増加

商業印刷物に対する評価が分かれている。「減った」との声を耳にすることは多いが、実際はどうなのか。商業印刷物の中でも相当なシェアを占め、テレビ・インターネット・新聞に次ぐ「第4のメディア」と呼ばれる折込チラシは確かに大きく減っている。しかし関連指標をよく見ると、商業印刷全体は折込チラシの減少幅ほどは減っているわけでなく、実質的に横ばいだったりする。独自調査の結果、「減っていない」と首をかしげる研究者もいる。実際は増えている商業印刷物があって折込チラシの減少を補完しているようだ。それは例えばパンフ、カタログ、DMなどで、これらは安売りのために大量配布するチラシに比べて単価が高い。つまり数量の減少を単価の上昇が補う構図なのであり、量が減っているのは確かだが金額的には減っていない、どちらも正しいことになる。

■広告メディア:デジタルシフトは継続も潮目は変化の兆し

広告主は、どのメディアを選んで広告メッセージを伝えているか。広告統計は費用対効果の視点からの人気投票の結果といえる。電通調査『日本の広告費』は1年に1度、どのような業種がどのような広告メディアを選んだかを映し出す。最新調査結果によれば、広告市場全体の拡大と「インターネット」の高成長、という従来傾向の継続が認められる。他方、「衛星メディア関連」や「屋外」のように長期成長の一段落というトレンド変化も見受けられる。印刷メディアでは「POP」「DM」が堅調だ。こうした広告メディアの変化は日常的に追跡しなくても良いが、1年に1度は確認して趨勢を読み違えないよう心がける必要はある。電子書籍やスマートフォンも登場から10年以上が経ち、各方面のデジタル対応も一巡感があって、従来どおりの捉え方の惰性では判断のブレる場合も出てくる。

■コンテンツ:世界第2のコンテンツ大国としての日本、印刷との関わりは

簡単にいえば、コンテンツはメディアという容器に入れる内容物であり、印刷でいえば紙というメディアにインキで乗せる本質的なものである。そのコンテンツの容器として紙が選ばれるかどうかを見る指標の一つに、『デジタルコンテンツ白書』が毎年発表する「ネット化率」「デジタル化率」がある。その推移は同書がアナログ・デジタル問わずあらゆるメディアを網羅的に調べることによって算出され、映画・演劇などライブコンテンツが底堅い需要を持っていてビジネスチャンスのあることなどもわかる。世界第2のコンテンツ大国である我が国は、アニメ・ゲームなどに特に強みを持つ。そして近年はスポーツ、さらにはeスポーツにも領域は広がり、これら成長領域と印刷ビジネスはどのような関係を持ちうるか、将来への考えを巡らせるうえでコンテンツ分野に興味を持つことは印刷の先行きを考えるうえで役に立つ。

■通販の市場とメディア:メディア多様化を背景に高成長続く

『通信販売企業実態調査報告書』によれば、通販市場は19年連続の成長を続け、この間の平均成長率は驚異の6.9%。高成長の背景にはメディアの多様化・電子化があり、企業にとっては売りやすく、生活者にとっては買いやすくなった環境変化がある。変化の激しい通販市場は、企業が、生活者がメディアをどのように利用しているか、社会の変化を正確に映し出す。通販会社はカタログの需要家として知られるが、近年はスマホとeコマースの活用、ターゲティングによるカタログの分冊化、DMのパーソナライズド化が進み、マーケティングのあり方が相当に変わってきた。eコマースの苦手な部分を紙のDMが補って売上高を最大化させる組合せも開発された。広告・コンテンツ・通販など、印刷を取り巻く環境の変化を知り、変化のなかに商機を見つけるようにしたい。

(JAGAT 研究調査部 藤井建人)

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