緩和と適応ー印刷ビジネスは需要変動にどのように応えるか

掲載日:2026年7月23日
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印刷需要の変動とこれからの人材の備えについて考えます。

気候変動の問題を契機に、「緩和策」と「適応策」という社会課題への向き合い方が広く知られるようになった。

まず緩和策とは、変化そのものを抑制するための方策である。例えば地球温暖化の問題では、CO2 排出量の削減や気候工学の活用など気温上昇を抑制するための取り組みがこれに該当する。

一方の適応策とは、変化した状況に対応するための方策であり、建物の木造・木質化やビオトープの設置による街づくりといった気温上昇の影響を軽減し、温暖化した環境でも持続可能な暮らしを実現するための取り組みのことを指す。

国内の人口問題に関しても、緩和策と適応策の両面が存在する。人口オーナス現象 * を受け止め、将来の生産年齢人口の確保に向けて、出産・育児を行いやすい労働環境を整備するなどの緩和策が注目されている。

その一方で、少ない人口でも成り立つ社会構造への転換を図る適応策も検討されている。一例として、人口規模に適した社会を形成する「スマートシュリンク」を市政の主要テーマに掲げている地方自治体がある。経済規模の維持だけでなく生活者のウェルビーイングも重視し、対処可能な段階で、よりポジティブな社会につなげようとする適応策的な取り組みであるといえる。

*労働市場に参加する年齢層(生産年齢人口)に対する参加しない年齢層(従属人口)の比率が高い状態

印刷需要減少へのミクロ視点での緩和策と適応策

ここまで人口減少というマクロ変動に対する対処策を例に挙げたが、印刷産業における重要課題である「印刷需要の減少」については、各企業はミクロ的な視点で緩和策と適応策を検討していく必要があるだろう。

緩和策としては、印刷物ならではの強みを打ち出し、その価値を訴求して需要減少を食い止めることが考えられる。

来年2 月に開催するpage2027 では、「なぜ、いま印刷するのか」をテーマに掲げているが、印刷の意味を再定義してその利用を促進することも緩和策の一つだといえる。印刷物というプロダクトの特性を見極め、需要を高める利用文脈を見いだすことに主眼が置かれており、まさに「印刷の存在価値」を問うテーマである。

一方で適応策は、印刷需要が減少しても持続可能な企業となることに視点を移し、制作・製造システムの効率化や、保有する資源を生かした他の事業への展開など、企業資源の最適活用を中心に据える方向性を持つ。印刷という強みを生かしつつ、顧客企業のパートナーとして価値を提供する姿勢が求められる。

印刷物の制作をベースとしながらも、自社および顧客企業を取り巻くビジネス環境を理解し、総合的な提案力を高めることが重要であり、「印刷会社が企業として存続していくこと」を軸にした戦略であるといえる。

では、そのとき印刷人材にはどのような資質が求められるのか。緩和策と適応策の双方から考えることで、一定の人材像が浮かび上がってくる。

印刷人材はどのような備えをすればよいか

JAGAT が主催するDTP エキスパート認証制度では、「印刷メディアの強みを活かしてあらたな価値を生み出す」をコンセプトに、印刷物制作に関する一連の知識を網羅する学習範囲を定めている。

DTP システムによる制作手法だけにとどまらず、印刷物が利用者にもたらすコミュニケーション価値にも着目し、情報デザインや生活者の購買行動モデルなどもその範囲に含めている。これらの学習は、緩和策として挙げた「印刷の存在価値」を高めることにつながる。

では、適応策には何を学ぶべきだろうか。印刷を含むあらゆるメディアによるコミュニケーション設計や、顧客企業のターゲット市場を分析する視点などは、顧客のパートナー企業としての位置付けを強化し、印刷以外の領域での受注創造にも広がる可能性を秘めている。エキスパートカリキュラムの「コミュニケーションと印刷ビジネス」カテゴリは、まさにこうした視点に基づいて構成されており、今後も新項目を追加していく予定である。

DTPエキスパートカリキュラム第16版

エキスパートカリキュラム

(JAGAT 丹羽 朋子)

(JAGATinfo 2026年7月号より一部加筆修正のうえ転載)

第66期DTPエキスパート認証試験 申請受付中