トータルデジタルワークフローの構築がデジタル印刷機活用のポイント

掲載日:2020年5月21日

日印産連デジタルプレス推進協議会「2019年度 印刷業界におけるデジタル印刷に関するアンケート調査」報告書より

日本印刷産業連合会では、国内の印刷産業における生産機としてのデジタル印刷機の活用状況を把握し、活用度をさらに高めるための調査活動を年1回のアンケート調査という形で2010年から実施している。2019年度は傘下の9団体とJAGAT会員から抽出した713社に調査用紙を郵送し、213社から回答を得た(回答率29.9%)。以下はその要約である。

なお報告書については、日印産連のホームページから無料でダウンロードできる。

デジタル印刷機の1社平均保有台数は3.88台

デジタル印刷の方式別の保有台数、稼働状況、収益性を図1に示す。保有台数の合計は655台、保有社数は169社、1社平均は3.88台であった(前年は659台、154社、1社平均4.28台)。方式別の内訳は、トナー粉体(カラー)が270台(対前年23台増)、トナー粉体(モノクロ)が101台(対前年10台増)、大判インクジェット(カラー)が185台(対前年59台減)であった。これらの3方式で全体の約85%を占めている。前年度調査から大判インクジェットの台数が大きく減少している。

図1.デジタル印刷機の保有台数、稼働状況、収益性

デジタル印刷の全売上に占める割合の平均は14.4%

売上構成を「1.従来印刷(オフセット/グラビアなど)関連(DTP制作や製本・後加工含む)」「2.デジタル印刷関連(DTP制作や製本・後加工含む)」「3.デジタルコンテンツ制作(印刷はしない)」「4.その他付帯サービス」の4種類に分類し、それぞれの構成比を問うた。

デジタル印刷保有企業では、全体売上に占めるデジタル印刷の割合の平均は14.4%であった。5%以下の層の合計は37.9%で、前年度の52.2%から約15%減少した。「1%~3%以下」の層が前年の21.0%から8.9%に半減する一方で、「5%~10%以下」の層が前年の9.0%から21.8%へと大幅に増加した。オフセット印刷の補完という位置づけから着実に存在感を増している。

図2.デジタル印刷の売上構成比の分布

小ロット中心も多様化が進む

デジタル印刷の平均受注ロットを見る。図3はデジタル印刷を利用した売上上位一位の品目の平均ロット分布である。500枚未満までの層の合計で56.0%を占めており、小ロットが中心であることは変わりがない。一方で平均ロットの最大は100万枚(平均受注金額は100万円、受注品目はデータプリント)であった。色校正や大判プリントについては10枚程度の極小ロットが多く、データプリントや「報告書、論文、議事録など」はロットが大きくなる傾向であった。デジタル印刷機の方式や用途が多様化しており、「デジタル印刷」と一括りにはできなくなりつつある。

図3.平均ロットの分布

将来性が期待されているDM

次は今後の市場拡大が期待できる将来性の高い品目である。最多回答は「DM」、2位は「データプリント」、3位は「その他」であった(図4)。

「DM」は昨年に引き続いての1位であった。厚生労働省が発表した新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」では、通販の利用や電子決済の利用が推奨されている。こうした変化による電子化された購買情報の蓄積は、パーソナライズDMをより活性化させると思われる。期待が高まる一方で、回答者のコメントではビジネス展開する上での多くの課題も指摘されている。マーケティングデータの分析や企画提案ができる人材の確保・育成、個人情報を扱うための強固なデータセキュリティの確保、印刷、加工だけでなく封入・封緘や仕分けまで含んだトータルな製造システムの構築などである。設備投資にとどまらない総合力が問われる。

図4.将来性が高い受注品目

トータルなデジタルワークフローの構築がポイント

デジタル印刷機をうまく活用している企業とはどのような特徴を持っているのか分析を試みている。月間印刷枚数が30万枚以上の企業33社の分析を行った。月間印刷枚数が多いグループとそれ以外にわけて傾向を比較したときに顕著な違いがでたのが、会社で取り組んでいる施策を問う設問結果であった(図5)。

図の左側が月間印刷枚数の多い企業の回答結果、右側がそれ以外の企業の回答結果となっている。両グループ間でもっとも特徴的に差がでたのは、「IT力の強化」である。印刷枚数が多いグループが45.5%、それ以外のグループが22.6%と倍以上の差となった。その他にも自動化、システム化に関するほとんどの項目で印刷枚数が多いグループが上回っている。特に工程管理のシステム化については、回答者から多くのコメントが寄せられている。

  • 受注データから、生産機へダイレクトにデータ送信できる運用体制を目指す
  • デジタル印刷機の稼働率を維持するには、受注・プリプレス工程を相当効率化しなければならない。様々な自動化システムはあるが、どのような業態にも汎用的に使えるものはまだ多くない。自社に合ったシステムを模索中
  • 自動で適切なデバイスに仕事を振り分けてくれるようなデジタル印刷に対応したワークフローを構築する。後加工機のバリエーションを充実させればさらに効果的
図5.実施施策の比較

デジタル印刷機を効率的に稼働させるためには、受注から製造までの業務処理やスケジューリングの効率化が不可欠である。これらのトータルなデジタルワークフローの構築により短納期対応やコストダウンが実現できる。別の設問で顧客への訴求ポイントを問うている。月間印刷枚数が多いグループは、「1部単価の安さ」の回答率が高まっている。システム化、自動化の効果の現れと言えるだろう。いずれにせよデジタル印刷の活用にはIT化の推進が欠かせない要件と言える。

(研究調査部 花房 賢)