『印刷白書』で振り返る印刷業界動向(1994-2005)

掲載日:2020年7月14日

『印刷白書』は、業界初の白書として1994年に発刊以来、26年にわたり毎年情報を更新し続けており、印刷産業の動向把握に必要な公表データを網羅・掲載する唯一の存在である。

JAGATのマーケティング研究会の成果を元に、印刷産業の「現状と動向」を「資料に基づいて」、「客観的に分析する」とともに、印刷産業にとっての「時代模様/特徴を明らかにする」というコンセプトで、業界初の『印刷白書’93-’94』は1994年2月に発刊された。

その時点で、1992年の印刷出荷額を8兆8,114億円と推計しており(確定値は8兆7,940億円)、工業統計が発表された1955年以降右肩上がりを続け、1991年にピークの8兆9,287億円に達してから初めてマイナス成長となった。日本経済が不況でも最低でも年4%台の成長をしてきた印刷業界だが、従来は、製造業が悪くてもサービス業が伸び、これが印刷需要を伸ばしたが、バブルの崩壊とともに深刻なサービス業の業績悪化があり、それが要因の一つであると分析している。

また、高度成長時代にともに伸びた事業所数、従業員数は成長の鈍化、減少傾向が見られ、「印刷産業は成熟化の時期を迎えた」としている。ちなみに工業統計による1992年の事業所数は41,258、従業員は477,391人で、2017年までに事業所はほぼ半減、従業員は約4割減となった。
そして、1994年のキーワードを「変革の推進」として、差別化に向けた「組織学習」、業務や生産の「スピードアップ」、組織の無駄を削ぎ落とす「筋肉質の企業体への変革」を提言している。

1996年5月発行の『印刷白書’95-’96』では、「3年連続マイナス成長となった印刷産業は、平成不況とともにデジタル化対応の体力勝負となり、サバイバルの時代になった」としている。そして1996年のキーワードは「ニューステージ」とし、デジタル化の波により印刷と印刷産業がオープンでグローバルなものとなり、印刷の概念が変わるステージと位置づけ、印刷機械という「道具」ではなく、「知恵」や「ソフト力」が勝敗の分かれ目になると解説した。

1995年から再び対前年プラスに転じ、1997年5月発行の『印刷白書’96-’97』では、「印刷産業は3年間のマイナス成長からようやく水面に顔を出したが、企業数の減少は常態化した」。成熟期から競争の時代に入り、熾烈な短納期、低価格競争を生き残るための「FA化」と、デジタル技術による加工が向かう「サービス化」への体質転換が課題だとし、サクセスストーリーが誰にも描けていない中で、新たな地平を切り拓くキーワードは、未来の確実な設計図ではなく「未来への意志」であるとした。

プラス成長は3年続き、1997年には出荷額8兆8,734億円まで回復したが、1998年から再びマイナス成長の局面となり、その流れは大きく変わることなく現在まで続くことになる。
『印刷白書’97-’98』(1998年5月)では「印刷産業の停滞は景気のことでなく、従来の印刷ビジネスを支えていた戦略、市場、技術、人という経営の基本要素にパラダイムシフトが起こり、ビジョンを失って行き詰まり、戸惑っていることだ」と分析し、企業体質、文化を変え、勝ち抜くためには「自立と自律」の経営がキーワードだとしている。ただし、この時点では、印刷が情報のフロー環境に関わりを持っているため、印刷ビジネスは拡大しうると見通していた。

そのことは『印刷白書2001-2002』(2002年5月)においても、需要の衰退と生産能力の飛躍的向上に伴う需給アンバランスは常態化したものの「情報の知的活用に適した紙媒体と、その上に築かれた印刷文化を土台として、デジタルメディアを担う情報産業として発展していける素地を持っている」と可能性を示唆し、そのために「仮設検証」をキーワードに掲げ、経営そのものを客観的に分析し、論理的な仮設を立て、それを検証し軌道修正の上新たな仮設を立てるというサイクルを回していく必要があるとした。

2001年に出荷額が8兆円を割り込むと『印刷白書2002-2003』では、先行きが見えないことが問題で、何を信念においてビジョンを作るべきか「お手本がない状況では「高い志」なくして次の発展は難しい」と、諦観ともも思えるキーワードを示している。

2004年の印刷出荷額は、7年連続マイナス成長で7兆2,127億円まで下降し、『印刷白書2004-2005』(2005年5月)では「この6~7年で業界内外での地殻変動が本格的に始まったから、とりあえず縮小均衡で対処することはやむを得ない」が、「情報価値創造産業として発展していこう、顧客と対等なパートナー関係を築いていこう、業界の地位を向上させようという意気込みが萎みつあるように思われる」。印刷産業が、デジタルネットワークをインフラとする情報社会の一員として事業を拡大していくためには、「装置・技術発想からサービス・マーケティング発想への転換をしなければならない」と、キーワードとして「マインド・チェンジ」を示した。
この方向性は、今のJAGATが推進する「デジタル×紙×マーケティング」に通じるものがあり、出荷額5兆円を切ると予想される現在においても、大きな課題として業界にのしかかっている。

本稿では、最初の『印刷白書’93-’94』から、リニューアルする直前の『印刷白書2004-2005』までを元に、ごく一部を抜粋して振り返ったが、最新情報をもとに業界動向を把握できる『印刷白書2020』は、現在10月下旬の発行を目指し編集制作をスタートさせている。特集には「コロナウイルスで変わる社会と印刷(仮)」を取り上げるので、ご期待いただきたい。

(JAGAT CS部 橋本 和弥)

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